scene 12 「艦長」
短めで恐縮ですが、投下。
「なるほど、ここが……あー、司令塔か?」
「うん、そうだね。中央集中管制室。昔の名前をとって艦橋って呼ぶ人が殆どだけどね。船の動作は全てここで管理、指示するよ」
リオスに連れられてやってきたこの管制室は、軍艦とは思えないほど開けている。一段高いところに席があり(恐らく艦長席だろう)、全面には大きなスクリーンがある。艦長席とスクリーンの間には砲手?だか操舵手?だか分からないが、管制員の席と魔道具が整然と半円を描くように並んでいる。
俺が下からスクリーンを眺めていると、艦長席をいじっていたリオスから声をかけられた。
「ほら、来て来て。今、機関室と通信を繋げたから」
うん?
リオスに近づくと、どうぞと手で促される。
よくわからないが、座れば良いのだろうか?
「座ったぞ、一体何が……」
『マスター、マスターですか?」
おや、頭の中に声が聞こえた。
リオスの言っていた「通信」とはこれのことか?
隣の中年を見てみると、頷きながら説明し始めた。
「短距離間魔導個人通信、って言ってね。放出された魔導波を決められた周波数に変換することで……」
よしスルーしよう。
「ルアか。そちらはどうだ?」
『問題ありません、存外快適です、マスター。そちらは如何ですか?』
「うん、まぁ悪くはないが、他に比較のしようがないとも言うな」
何しろ俺は他の軍艦を見たことがないからな。まさか日本の護衛艦やらと比べるのも違うだろう。
……まぁ、地球のものと比べると非常に小さいのは確かではあるが、あちらは海に浮くフネ、こちらは宙を飛ぶフネなので、単純比較はできないだろう。
『安心して良いと思います、マスター。私も全てを知っているわけではありませんが、この"私"を駆動炉に定着させても魔導機関に目立った影響は見られません。驚異的といって良いかと』
ルアとは先程案内された機関室で一旦別れていた。
艦を駆動させるための魔力を精錬するには、従属精霊を駆動炉に「定着」させる必要があるらしい。そして「定着」すると精霊は一時的に姿が消え、実体化ができなくなる。リオスが言うには、精霊が一時的に駆動炉に対して憑依しているイメージなのだそうだ。ルアはかなり渋っていたようだが、彼女が定着しないと船へ動力が行き渡らない。それを突かれるとルアとしても痛いようで、すごい目でリオスを睨みながら姿を消していった。
あとが怖い。
「そうか。ルアのお陰でこの船に動力が渡っているようだ。ありがとう」
『そそそそそんな、と、とんでもありません!私は別にマスターの、その、お役に立ちたいと思って……』
どもるな。
何があった。
「そうか」
『……』
今度はなぜ黙る。
「それでキリシタくん、どうだい?」
声をかけられたので振り向いてみると、両手を軽く広げ、満面の笑みを浮かべてリオスが俺に問いかけていた。
「どう、とは?」
困惑げに俺が返すと、問いかけた本人からさも当然かのように返答があった。
そしてそのポーズは鬱陶しいからやめろ。
「動かしてみたくないかい?」
「……? 他に人員が居ないようだが?」
この船には俺、ルア、リオスの3人しか乗っていないのではなかったか。
いやまぁ、そこらの部屋に隠れていました、などという無駄な演出が入るのかもしれないが。
「大丈夫だよ、問題ないさ。機能が大幅に制限されるし、戦闘時ならともかく、試験航行程度はやってのけるさ」
そういうモノなのか。
「……とこの中年は言ってい「中年はひどいよキリシタくん」るが、ルア、そちらはどうだ?」
『大丈夫じゃないですか?』
投げやりですねルアさん。何があったのですか。
『知りません』
そうですか。
……取り敢えずルアが言うには駆動炉は問題なく稼働中、出力は3割程度しか出せないが、飛ぶには問題無さそうとのこと。
「良く分からないが、ルアに聞いてみたら大丈夫なようだ。是非動かしてみたいのだがどうすれば良い?」
「艦長席に付いている制御盤に両手を置いて下さい」
そう言われて前を見てみると、なるほどキーボードぐらいの大きさの板が独特の存在感を放っている。
厚さは1cmもないが、表面には紋様……魔法陣?がビッシリと描かれている。
椅子に座り直し、両手を件の板の上の置く。
「おお……っ?」
すると、何処ともなく現れた無数の光球……これは、ルアと"契約"した時に見たものと似た感じを受ける。
まるでホタルの光のように、ふわふわと漂うその光は、徐々に数を増やしてゆく。
「綺麗な魔力光だね、うん。やっぱり君たちを選んだのは間違いじゃなかったかな」
リオスの言葉に返答したくとも出来ない。
なぜなら、俺は、
(ぐっ……!?)
何かが入ってくる。
流石に頭蓋骨をこじ開けられたことはないが、何やら得体のしれないものが俺の脳に触れて、沈んで、刻んでいるのが分かる。
まず間違いなく、日本にいた頃では感じたことのない感覚。
しかし俺は、
(知っている……?)
そう、何時だったか、あれは、ルアと逢う前の
『マスター、聞こえますか!?』
「ん?ああ、どうした、ルア?」
『あ、いいえ、無事マスターとの魔導回線経由での接続を確立できました。……その、先ほどお声をお掛けしても反応がなかったようでしたので……』
ん、少し意識を落としてしまっていたか。
周りを見渡してみると、つい先程の光景と同じだ。
光の量は減っているようだが、変わらず周囲に浮遊しており、リオスは機器のチェックをしているようだ。
「おや、どうだい、キリシタくん。"艦長"になった気分は」
リオスが此方を向いて問うてくる。
「……まだお前たちには聞きたいことが山とあるが、正直悪くない。まるでもう一つの体を得た感じ、か?」
「うん、艦長になった人間の大多数の意見がそれだね。注意してね、感覚の切り替えは下手にやると酔っちゃうから」
「了解した、リオス」
先ほど脳に刷り込まれた"教育"によって、艦のあらかたの操作法は知った。
今は"俺"の方に感覚があるが、意識してズラすと、
俺が認識している空間がズレる。
意識の焦点を周囲に合わせると、俺の意識だけが別の空間に居るようだ。
目で物を視ることが出来ないので説明に苦労するが、そう、例えるのであれば、一面気が狂いそうなほどの白色。
そして、今自分と艦が一体となっているのが、"解る"。
(おお……)
艦に動力が行き渡っているのが"解る"。
今なら少し足で地面を蹴れば、空を飛べるのが"解る"。
(うん、これはとても良い)
『マスター』
(ルア?)
『はいマスター、お側に』
姿は見えないが、ルアが近くにいるのを感じられる。
(ルアの調子はどうだ?)
『えっと、私も良好です。マスターが中に入っているのがわかりますから』
(……そうか)
微妙な表現だが、不快な気分でないのは重畳だ。
(……ん?)
『如何されました、マスター?』
ルアと当り障りのない会話をしていると、リオスから通信が入っているのが"解った"。
(どうやらリオスが呼んでいるようだ。向こうに戻る)
『畏まりました、マスター』
そして意識を現実の世界へと、戻す。
「痛っ……」
めまいとも言えない酩酊感のあと、気がついたら俺は艦長席に戻ってきていた。
「ああ、気づいてくれたかい、キリシタくん。頭痛とかはないかい?」
「ん……多少頭に違和感があるが、時期慣れるだろう。それより、どうした?何かあったか?」
「ええ、連邦の第二次攻撃です」
「なんだって?」
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