scene 11 「戦艦」
遅くなりまして申し訳ありません。
結構急いで書いたので荒いかもしれませんが、楽しんで頂ければ幸いです。
王都に爆撃が実行された後の中央公園では、ぽつぽつと人影が見えていた。
「まったくなぁ、まさかこんなことになるなんてなぁ」
そのアールヴの男性はぼやきながら何かを探しているようにあたりを見回している。
彼は仕事で外出していた際に空襲に遭った。サイレンが鳴り、慌てて避難所へ向かって走ったのは良いのだが、一緒に外出していた後輩とはぐれていることに気がついたのだ。
商談が終わった後で帰社するところだったからまぁ不幸中の幸いか、などと思いながら後輩を探している。
すると、後ろから現れたドヴェルグの男性が彼に声を掛けた。
「あ、先輩、こっちにいたんすね」
小さめの体をスーツ(地球にあるようなものではなく、この世界の一般的な都市迷彩服の意味だ)で包んだ彼は、一張羅についた汚れを叩きつつ、ぼやいていたアールヴの方へ歩いてきた。
「お前も無事でよかった、本当に」
「先輩こそ怪我とかしてませんか?」
「ああ、俺は大丈夫だよ」
「そうすか、そりゃ何よりですね」
二人は無事をひとしきり喜んだ後、奇跡的に残っていた残っていたベンチに腰を下ろした。
「しっかし、こんなところに連邦軍が攻撃を仕掛けてくるなんて思わなかったっすよ」
「まぁ、仕事と同じで、絶対ってものは無いからなぁ」
微妙な先輩風を吹かせつつ、そのアールヴは続ける。
「もちろん、俺だって想像だにしていなかったさ。しかし我が王国宙軍もだらし無いものだな、いつの間に腑抜けになったんだ」
「確かに、監視網から漏らしたとすれば、今頃軍の上層部はてんてこ舞いですね」
「いけ好かないあの野郎どもが泡食ってるのは実に楽しい想像だな。食が進む。だが、実際に被害をうけるのは俺らだぞ、俺ら!」
肩をすくめ、やれやれ、といった態だ。
「しかし先輩、これからどうなるんでしょうかね?」
「なんだ後輩、それは俺達の話か、それとも愛すべき王国の話か」
「どちらも、です。ただまぁ、自分はこれから自宅に戻りますよ。家族が心配なので」
「それがいい。そうしろ。会社には俺から言っておく」
そう言い放ち、男性は腰を上げ、服についた埃を払う。
ドヴェルグの男性も釣られて立ち上がり、頭を下げた。
「すんませんが、そうさせてもらいます」
「ああ。明日……は出社できるかわからんか」
「まぁ、王都の全部が廃墟になったわけではないので、大丈夫だと思いますが」
「そうか、そうだな」
「それじゃ、失礼します」
ドヴェルグの男性が立ち去ると、一人残ったアールヴの男性は後輩と反対方向に歩き出した。
ふと立ち止まり、大きく肩で息を吐き、頭を掻きむしった。
「ったく、軍は本当に何をしてやがったんだ」
もう一度ため息をつくと、何かを振り払うように頭を振った後、彼の会社に向けて歩き出し、瓦礫の影に消えていった。
リオスに連れられて向かった先は、公園から歩いて10分程にある、だだっ広い敷地であった。
中央に鎮座している建物は、白を基調としたシンプルなデザインだ。ただ、建物を取り囲む高い塀が、閉鎖的な空気を出している。窓は唯の一つも開いておらず、見るものによっては鬱屈した印象を受けるだろう。
ルア、リオスの2人と共に門を通過する。身分証明を求められたが、リオスが首から下げていた写真入りのカードを見せると、引き下がってくれた。
暫く歩くと、建物の内部に入った。
廊下に三種類の靴の音が響く。建物の中も白を貴重としているが、中はかなり閑散としている。
先の空襲警報をきいて皆避難したのだろうか。
「……それで、この建物は一体何だ。そろそろ説明してくれても良いと思うが」
「うーん、もうちょっと待って貰ってもいいかな?」
何故か分からないが、この中年、説明してこない。
いきなり「来て貰えればわかるからさぁ」の一点張りだったのだ。
俺としてはルアが入れば多分身の安全は問題無いだろうと判断したため、この状況になっているが……。つくづく、彼女には感謝だ。
「? マスター、どうかされましたか?」
「いや、なんでもない」
振り返りこちらを見やる彼女に大丈夫だ、しかしここは何処だろうな、と話を逸らしてみると、ルアは律儀に答えてくれた。
「周囲に多くの精霊が集まっているのを感じます。王都でこれほどの精霊が集中する箇所は限られています。おそらく、精霊学か魔導工学、もしくはその類の研究機関でしょう」
「するどいですねぇ、ルアさん。仰るとおり、此処は魔導駆動炉の研究機関です」
「なるほど」
研究機関か。
その魔導駆動炉とやら……名前からして、地球にあったエンジンかその類なのだろう。
いや、別になんの研究機関でも正直余り興味はないのだが、
「……もし、俺たちを"研究"しようとしているのであれば、」
人体実験の是非はともかく、俺はモルモットになる気はないし、ルアをその対象にさせる気もない。
「あ、ああ、大丈夫だよ、そんな事は考えてないからさ」
先導していたリオスが足を止め、此方を向いてから手を顔の前で振る。
「安心して下さい、マスター。マスターの身に、万が一、その様なことがあれば――」
そう言って、ルアが掌に蒼い……雷球を載せ、リオスを軽く睨む。
魔法だろうか。
地味に魔法らしい魔法は初めて見た。どれだけ凄いのか良く分からないが、多分リオスの顔が引き攣っていることから見てそれなりのものなのだろう。流石、大精霊の面目躍如といったところか。
ルアの周囲が白くぼう、と光り、幻想的というには猛々しい空気が周囲を覆う。
「――私の<<森羅/シンラ>>が御相手します」
自然放電を開始した雷球を俺が興味深げに見ていると、やけに焦った様子のリオスが後ずさりながら、叫んだ。
「い、いやいやいや、それはまさかアレかい、創世記に神々が魔獣を打ち払うために使われた、第十四階級魔法かい?!い、いやぁ~……、流石に、おじさんそれ受けたら死んじゃうんじゃないかなぁ……」
ついにおじさんと認めたか。
やるな、ルア。
「安心して下さい、リオス。あなたがマスターに対して常に誠実であれば、何も気にすることはありませんので」
ルアの脅迫の様なセリフに、リオスが目が回るのではないかと心配になるような速度で、何度も頷く。
ならば宜しいのです、と頷き、ルアは創りだした雷球を消す。と同時に、彼女を覆っていた淡い光も消えた。
うん、少々残念だ。
初めて見る魔法の威力を見てみたかったのだが。
胸をなでおろしたリオスは、自身の頭をわしゃわしゃとかき混ぜる。
「おい何をしているリオス、早く案内しろ」
「えええええ、だってそれは、
「何か?」(にっこり)
「……いや、なんでもないよ」
まったく、美(少)女の笑顔は最強だな。
ため息を一つついたリオスは、俺達の先導を再開した。
特に会話もなく、白で塗装された床を進む。
少し進んだ所で、リオスが口を開いた。
「――ついたよ。ここだ」
やっとか。
リオスが視線を向けた先には、自動ドアのように、両側にスライドするタイプのドアがあった。
ドア自体は頑丈そうな金属で作られているようだ。
「それじゃあ、開けるよ」
そう言ってカードキーを取り出したリオスが、ドアの横に備え付けられたカードリーダに通す。その後暗証番号……と指紋認証か?掌を装置に当てる。
かなり厳重なセキュリティのようだ。
うん、悪いことではない。
ルアがさり気なく俺の側に寄ってくる。
「マスター、中に何があるかわかりません。ご注意を」
その心意気はありがたいがルア、もし俺達に対して害意があれば既に何かされているさ。
<<シムギー・プロジェクト 開発副担当、リオス・ニー・モストス 認証シマシタ>>
機械的な音声が流れ、ドアが開いた。
準とルア、そしてリオスは、開けた場所に立っていた。
全体的に薄暗く、見通しは悪い。隣の顔も確認するのに手間取りそうな感じだ。
自然の風は全くしないが、頭上からは轟々と音がする。恐らく換気扇かその類であろう。
「ああ、今明かりを付けるね」
入口付近に近づき、リオスが扉の横に備え付けられていた器具に手を伸ばし、魔力を流す。
魔力を流されたそれは、入力された命令に従って、この場所に設置された明かりを作動させる。
すると、その空間の中央に鎮座した、巨大な物体に準とルアは気づいた。
「これは……」
「すごいな……」
明かりが付き、視界が見通せるようになった準とルアの2人の目の前に飛び込んできたのは、巨大な流線型をした『船』だ。
運動場が丸々入るほど広大な空間に、美しくも何処か禍々しさを兼ね備えたフォルム。全長は50メートル、幅は10メートルを優に超え、準の視点からはその全体像を把握することは出来ない。船体の色は黒とグレーを基調としているようだが、中心線の少し下部に、赤い一本の線が映えている。
地球で言うのであれば、スペースシャトルを全体的にずんぐりとさせた様な形だ。
思わず放心する準たちを他所に、リオスはその船へと近づく。
「これが君達に預けたいと思っている戦艦さ。どうだい、気に入ってくれたかい?」
「……正直どの程度のものかと思っていたが、いや、正直驚いた」
「はい。マスターの旗艦には悪くないかと」
ルアが満足気に頷く。
準は知る由もないが、通常「戦艦」と言えば全長は30メートル程度で、それを超えるものは滅多にお目にかかれない。
ところが目の前にあるものはその倍近くあるのだ。戦艦は戦艦だが、その特異性が窺い知れる。好きな者は「超戦艦」と呼ぶのだろうか。
「さて、折角ここまで来たんだ」
リオスが黒い戦艦に手を触れ、何やら操作しつつ顔を振り向かせた。
「モチロン、乗って行くよね?」
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