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scene 1 「プロローグ/落下」

日本、東京、某駅。


時計は午後11時を指している。

企業戦士が戦いに疲れた体を引きずり、自宅へと帰る姿が散見される。

11月も終わり。新年を迎える開放感も余りなく、身を刺す寒さに耐えながら仕事をするのが社会人のルールだ。

いや、仕事をするのは別に11月だけではないのだが。


そんな中、一人の男性が駅から出てきた。

スーツをだらしなく着こみ、その上からコートを羽織っている。それなりに整った顔立ちで、まぁ上の中と言ってもいいかもしれない、そんな顔立ち。着こなしを整えて渋谷あたりにでも繰り出せば、ナンパは10回中3回は成功するかもしれない。そんなレベルだ。

しかし今は、全身から「疲れた」のサインを出し、ナンパは10中10回失敗するだろう。

むろん、この時間帯まで女性に声をかけるのに精を出す余力が残っていれば、の話だが。


「ふぅ・・・・・」


吐く息が白い。


闇を照らす月明かりと、街頭の光。

終電を逃すまいと急ぐ人を避け、その男性はコートのポケットに両手を入れ、自宅へと急ぐ。


(しかし今日も夕飯はラーメンだったな・・・・)


健康が叫ばれている昨今、野菜の一つでも取らなければいけないだろう。

男性は一人頷き、先ほどまで考えていたことを反復する。


(次からは豚骨じゃなくて塩にしよう)


あまり解決になっていない、自己満足レベルの回答に満足しながら、男性は前を見る。


左手の車道からやってきた車のヘッドライトが男性を照らし、光が過ぎ去ってゆく。

男性は片手に持った鞄を握りなおし、歩みの速度を上げた。


(て言うか、課長が全部悪いはずなのだが、なぜ俺まで残業しなければならないのだ・・・)


仕事だからです。


男性は口の中だけで愚痴を吐きつつ、目線を上げる。


ほぅ、とため息。


(おお、今日は月が綺麗だな・・・)


都会の光は星を見えなくするが、月光までは消すことができない。

暗闇にぽっかりと浮かぶ月は、有り触れてはいるのだが、何ともいえぬ温もりを見る人に与えるのだろう。

少しだけ男性のささくれ立った心が落ち着く。

男性はいつの間にか止めていた歩みを再開し、帰路を急ぐ。


(っと、早く帰ってお気に入りサイトの更新をチェックしないと・・・)


今日も大して良い日にはならなかった。

明日もそうだろう。


毎日死ぬまで、この平和と安全を謳歌しながら、慢性的な不幸と小さな幸福を交互に享受する人生。

まぁそれも悪くない。


男性はそう考え、大通りを右に曲がり、工事中のビルの手前を過ぎた。


その


瞬間










何かの



落下



する音




(え・・・?)





巨大な



板?



落ちt







深夜の街並みに響いた巨大な騒音。


それに引かれて集まる野次馬たちと、


工事中のビルから落ちた鉄板と、


その下敷きになったとある男性の事を、




月は優しげに、ずっと、見ていた。



ずっと。





---------------------------


「それでは、次のニュースです。

昨夜未明、○○駅近くの住宅街で、建設中のビルから落下した鉄板の下敷きになり、会社員の霧下 凖さん、24歳が病院に運ばれましたが、間もなく死亡が確認されました。

霧下さんは自宅へ帰る途中に事故に逢ったものとして、警察では当時の状況を詳しく調べるとともに、ビルを建築に当たっていた××建築に、保安体制などについて厳しく追求していくとのことです。では、次のニュースです。収賄の容疑で逮捕された衆議院議員の・・・・・・


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