BRAIN SHOCK
「脳科学は未だに未開拓の学問である!」
男はかけてもいない眼鏡をクイッと上げるジェスチャーをしながら振り返る。
そして、その先にいる退屈そうな女性に向き直り、続ける。
「それは現代の技術を持ってしても完全には解明出来ない分野だからだ。」
大学の研究室内にて行われているこの会話とも呼べない、ただの自分本位の演説は既に1時間も続けられていた。
因みに男は電子工学、女は医学を専攻している、共に大学二回生である。
「故に最先端、故に未知数っ!」
興奮気味に話をしている男の名前は宮城 真縡。自らにコードネームとして「ブレイン」と名付けるものの、周りからは「脳男」と呼ばれる哀れな機械オタクである。
ただし、物事には例外というものがあり、彼を名前で、勿論ブレインなどといったふざけたコードネームではなく、本名のマコトで呼ぶ数少ない人物の一人が演説の被害者となっている女子医学生の椎名 沙奈が正にその名前を呼んで制する。
「…マコト!」
痺れを切らせた沙奈は椅子から立ち上がり、目だけでマコトのことを見る。
その時微かに揺れたセミロングの髪が、無機質な研究室に甘い香りを漂わせた。
着ている白衣を軽く整えてから、沙奈はため息混じりに続ける。
「それで、呼び出した理由…。本題は何?」
聞かれてマコトは、ふむなどと一呼吸おき、少し考える時間を作る。
顎に手を当てながら数歩歩き回ったあと、考えがまとまったのか人差し指をたてて切り出した。
「幽霊…というものを信じているか?」
「幽霊?」
沙奈は突然出てきた幽霊の話題が脳科学になんの繋がりがあるのか、咄嗟に理解できず鸚鵡返しで答える。
そして少し考え込んだがやはり答えは出ず、とりあえず自分の意見を述べるのであった。
「幽霊という存在は根拠もなく、非科学的でとても認められるものではないと思うのだけれど…。」
先のマコトと同じような格好で思案していた沙奈は、僅かに顔を上げマコトの方に目をやる。
それに応えて、マコトは今度は確認のための質問を口にした。
「幽霊の存在を証明することが出来ない。だから幽霊なんて存在しない?」
「…ん、まぁそういうことね。」
「それならその逆の見解にはどう答える?」
つまり、とマコトは沙奈の応えを待たずに続ける。
「幽霊が存在しないことが証明できないから、存在しうる。」
短い沈黙のあと、沙奈は額に手をあてて首を横に振った。
「その考えは科学者としてナンセンスよ。」
「ふむ、いわゆる悪魔の証明…か。」
あきれたような沙奈の態度を当然と思いつつも、マコトは食い下がる。
「それでも必要なんだと思う。脳科学を追求する上でそういう考え方も。」
脳を解明するにはそれ以上の脳が必要となる。しかしそれでは脳を解明したことにはならない。いつもマコトが口癖のように放つ言葉である。
「キミの意見が聞きたい。」
マコトは仕切り直す。
「デジャヴ…。デジャヴと幽霊の根源が同じだと言ったら。」
沙奈の目を見つめながら。
「どう思う?」
元々は長編(連載)を予定していましたが、テストを兼ねて短編であげることにしました。




