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記憶の森  作者: sarsha
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(9)回想


「なんでまたここに?」


「呪われた子だという噂があるのに」


「ほんとうに、アルフィ様は一体何を考えていらっしゃるのかしら」


 アルフレット城の中を、歩きまわる僕は、どうしてここにいるのかわからなかった。気が付いたらここで生活をしていて、気が付いたら、僕には両親がいなくなっていた。ここにいる理由なんてわからない。


「両親はあの子が殺したって本当かしら」


「ルルーエント村の人たちも全員、亡くなっていたらしいわよ」


「アルフィ様は、どうしてそんな子供を」


 侍女たちの声が、耳に入ってくる。でも、言っていることがイマイチわからなかった。僕は何もしていないし、ずっとこの城で住んでいる。そう、アルフィ・ソードが、魔術を教えてくれているんだ。僕は、魔法使い。


「おい、ロビン!早くしないとアルフィに叱られるぞ!」


 背後から大きな声で呼ばれたと思ったら、そこにはウェルトが立っていた。ウェルトは僕より3つ年上で、何でも出来る。僕は駆け足でウェルトの元へと向かう。誇らしげに笑うウェルトの顔は輝いていた。ずっと忘れることの出来ないような笑顔。そう、忘れたくない、僕の記憶。


「さて、今日はここまでとしよう。しっかりご飯を食べて、しっかり寝て、また明日、今日の続きをするとしよう」


 僕もウェルトも泥だらけで、顔を見合わせて笑った。服で顔を拭うと、服も泥で汚れた。


「さぁ、ロビン。家に行こうか」


「うん……」


 ウェルトは城の中へ、僕は森の中へと帰っていく。僕たちの家とアルフレット城は、そんなに離れてはいなかった。それでも、何故か僕は、ウェルトとの間に距離を感じた。


◆◇◆


「ねぇ、アルフィ」


「なんだ」


 狭い家の中、暖炉の火がパチパチと爆ぜる音と、僕たちが豆のスープをすする音しか聞こえなかった。


「どうして、ウェルトは魔術を習わないの?」


 僕はアルフィから魔術を、そしてウェルトは武術を習っていた。


「お前が魔族で、ウェルトが王族だからだ。王族は、魔力を持たない」


「ふぅん」


 なんとなく納得して、僕はスープを口に含む。暖炉の火は、ゆらゆらと揺れ、たまに爆ぜる。


「ウェルトには、妹と弟がいるんだよね?」


「あぁ、ソフィアンは今年で7つ。ノヴァンは5つだ」


「ソフィアンは僕の1つ下なんだね」


「あぁ」


「友達に、なれるかなぁ」


 その言葉に、アルフィはあぁ、と答えなかった。スープをすするのをやめ、アルフィは僕の顔を見て優しい声で言った。


「残念じゃが、ソフィアンとは会えないのだよ、ロビン」


「女の子だから?じゃあ、ノヴァンは?」


 この質問にも、アルフィは首を振った。


「残念じゃが」


 アルフィは、その言葉しか言わなかった。何故だか僕は、心が痛かった。


 その日の夜、僕はこっそり家を出て、一人星を見ていた。


 いつもは、アルフィにダメだって言われて、僕が寝るまで見張ってるし、夜中に起きても、窓やドアには鍵がかかっていた。だけど、今日だけは、ベッドの横の窓の鍵が外れていた。チャンスだと思って、僕は抜け出したわけだ。


「ほう。星を見るのが好きかね?」


 暗闇の中から声がするかと思ったら、闇の中から人が近寄ってくるのがわかった。


「誰?」


 僕は警戒して、半歩後ろに下がる。


「私は魔法使いだよ。アルフィのお友達」


「そう、なの?」


「あぁ、そうだとも」


 その人は、頭からすっぽりとフードをかぶり、ローブに身を隠していた。


「星に、願い事かね?」


「うん。ソフィアンとノヴァンと、お友達になれますようにって」


 僕は空を見上げて、星を見つめた。無数の星が、夜空に輝く。


「なるほど……しかし、大変残念だな」


「……何が?」


 魔法使いは、僕の顔をじっと見ながら、顔を近づけてきた。そして、耳元で囁いた。


「お前は、誰からも好かれやしないよ」


 背筋がゾクっとして、僕は固まってしまった。


「お前は、望まれない子。消えたって、誰も悲しんだりしない。お前は独りだ、ロビン・アンソニック」


 心がどんどん重たくなる。心がどんどん沈んでいく。自分では支えられないほど膨らんだ悲しみ、孤独。目を見開いたまま、僕は闇の中の一点だけを見つめていた。


「両親もいない。愛してくれる人などどこにもいない。寂しい、悲しい、可哀そうな呪われた子。いっそのこと、殺してあげようか?私が」


「嫌だ……僕を、殺さないで」


「どうして?お前は独りだ。呪われた、忌々しい子め」


 耳元で囁く魔法使いの声は、どんどん体に染み込んでいく。体から溢れてしまうほどの悲しみ。


「お前は独りだ。消えたって構わない」


「僕は独りだ」


 どうして僕は生きているの?どうして僕はここにいるの?どうして?どうして?僕は、どうして生まれてきたのだろう?


「ヴォルデオ!ロビンから離れろ!」


 鋭いアルフィの声が聞こえてきたかと思えば、目の前を赤い閃光が走った。目の前にいたヴォルデオの顔をかする。微かにフードがずれ、ヴォルデオの頬に大きな火傷の痕のようなものがあるのが見えた。


「貴様!よくも……!」


 口元を歪めて、ヴォルデオはローブから杖を出すと、アルフィに向けた。杖の先から蒼い閃光が飛び出し、アルフィの赤い閃光とぶつかって大きな音を立てた。僕は目を大きく見開いて、2人の様子をじっと見ていた。すると、いつの間にか僕の目からは涙が流れていた。


―ボクハ、ノゾマレナイコ


―ノロワレタコ


「うわぁぁぁぁぁあ!」


 全身を恐怖が襲った。


『なんでまたここに?』


『呪われた子だという噂があるのに』


『両親はあの子が殺したって本当かしら』


『ルルーエント村の人たちも全員、亡くなっていたらしいわよ』


『アルフィ様は、どうしてそんな子供を』


―ノロワレタコ


―ドウシテイキテイルノ?


 気がつけば走っていた。足がもつれて絡まってしまうほど足を速く動かした。行き先は決まっていない。だけど、何かに導かれるように足は動いていた。


―ワスレタイ


―ナクシタイ


―ボクヲ、ケシタイ


 足が動かなくなった。木の根に躓いて、僕は派手に転んだ。痛くなんかない。今は、痛みよりも悲しみの方が大きかった。何がいけないんだろう。僕のどこがダメなんだろう。何もしてないよ。ちゃんと勉強もしてる。言うことも聞いてる。


「うわぁぁぁぁあ!あぁぁぁあ!」


 声を上げて泣いた。誰かに気づいてもらえるように。声が枯れるまで泣いた。そして、僕はいつの間にか眠ってしまった。地に倒れたまま。


 朝、太陽の光が眩しくて、僕は目が覚めた。うつ伏せのまま、転んだまま、僕はそのまま目が覚めた。鳥のさえずりが不規則に聞こえてくる。ゆっくりと体を起こす。周りを見回しても、ここがどこかわからなかった。見渡す限り、木しかない。ふと目の前にある木を見た。どの木とも比べ物にならないほど大きなその木だけは、僕に気づいてくれたようだった。少しずつ少しずつ、ゆっくりとその木に近づく。恐る恐る手を伸ばし、その木に手を押し当てる。何かが体中を駆け巡る。



(その記憶、私が預かろうぞ、メモリアント=ロビン=アンソニック)



 そこで僕は、再び眠りに就いた。


◆◇◆


 起きた時には、自分の名前がロビン・アンソニックで、世間からは呪われた子言われて疎まれていることだけを覚えていた。俺は、全ての記憶をメモリアントが植えた記憶の木に預けたのだった。


(思いだしたか、ロビン?お前の記憶を預かっていた代わりに、お前には私を守ってもらうことにしよう)


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