エピローグ
初投稿です。
「まずい」
氷が、からん、と乾いた音を立てた。
グラスの中でゆっくり溶けていくそれを、僕はしばらく黙って眺めていた。テレビはつけっぱなしで、音だけが流れている。内容は、ほとんど頭に入ってこない。
「……で、なんだっけ。ああ、そうか」
言いかけて、少し笑う。たぶん、もう三杯目だ。いや、四杯目かもしれない。どっちでもいいか。
向かいに座っている君は、さっきからずっと静かにこっちを見ている。まだ十四だっけか。こういう話をするには、少し早い気もするけど……まあ、いいか。どうせ、大した話じゃない。
「昔の話だよ。高校のときの」
グラスを持ち上げて、一口だけ飲む。アルコールの熱が、喉を通ってゆっくり落ちていく。
「4人いたんだ。いつも一緒にいたやつが」
言葉にすると、少しだけ懐かしい匂いがした気がした。夏の熱気とか、放課後の校舎とか、そういうのが一瞬だけ頭をよぎる。
「別にさ、特別なことしてたわけじゃないんだけどな。放課後にだらだら喋って、たまにどっか寄り道して……それだけ。でも、なんていうか……」
言いかけて、言葉を探す。
「……ずっと、あのままだと思ってた」
自分で言って、少しだけ笑った。そんなわけないのにな。
テーブルの上に置いてあったスマホが、短く震える。画面が光って、通知が一つ表示された。
なんとなく視線を落とす。
――見なきゃよかった、と思うのは、だいたい見た後だ。
そこには、見覚えのある名前が並んでいた。
あいつらの、名前。
楽しそうな写真と、近況報告みたいな文章。誰がどこに行ったとか、何をしてるとか。そんなのが、当たり前みたいに並んでいる。
指で画面をなぞって、すぐに……消した。
「……まあ、そんなやつらの話だよ」
グラスの氷は、さっきよりも小さくなっていた。
「春みたいなやつがいてさ。で、夏みたいなやつもいて。秋も、冬もいた」
少しだけ、言葉を区切る。
「……で、そこに、僕がいた」
君は、何も言わない。ただ、続きを待っている。
その沈黙が、妙に心地いい。
「なあ」
少しだけ顔を上げて、君を見る。
「なんでだと思う?」
自分でも、何を聞いているのかよくわからないまま、言葉が出た。
「同じとこにいたはずなのにさ」
グラスを傾けて、残っていた酒を飲み干す。
「気づいたら、全然違う場所にいたんだよなぁ……」
空になったグラスをテーブルに置くと、また小さく音が鳴った。
その音が、やけに響いて頭がズキズキした。
「……まあいいや。順番に話すよ」
座椅子に少しだけ深く体を沈める。
記憶の奥を、ゆっくり手繰り寄せるみたいに。
「まずは、春からだ」
そう言って、目を閉じた。




