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かくてカラスはうたいだす  作者: トトホシ
出動

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任務完了

 ぞりぞりぞり、と位置から察するに心臓やら腎臓やら骨やら、その他なんだかわからない諸々のものを突き通して砕く感触が、サーベルを通して手のひらに伝わる。

 肋骨からわき腹へと斜めに突き刺さってしまったようで、引き抜こうとして力を入れてみるものの、抜けなくなってしまった。仕方なくサーベルから手を離して、顔を上げるとすぐに大鵬のヒナたちが目に入った。狭い檻の中にまだ巣立ち前のヒナが三羽、押し寿司のように詰め込まれている。


「こわいよ~」

「おなかすいたよ~」

「ままぁ~」

「大丈夫、すぐにママが迎えに来る。もう少し待って……」


 ヒナに話しかけている途中で背中に衝撃を受けた。どうやら撃たれたらしい。はぁ、と思わず大きなため息が出る。またしてもルネがかかっていると思って油断してしまった。自分の悪い癖だ。苦笑するもひとり。

 振り向くと、片手でハンドルを握ったままの男が、もう片方の手で持った拳銃の銃口をこちらに向けていた。


「どうして子供がここに……なんで死なないんだ……」


 男は驚愕に目を見開いている。


「運転中によそ見しない方がいいですよ。危ないから」


 私も戦闘中によそ見をしてしまうから人のこと言えないのだが。

 こちらも拳銃を抜くと、男はひいっと小さく悲鳴を上げて、壊れたように拳銃を撃ってきた。

 狭い車内だ。こんなところでぶっ放したら自分だって危険だ。それが判断できない程度には混乱しているということか。


 ここで避けたら大鵬のヒナに当たってしまうので、大鵬の入る檻を抱き抱えるようにして弾丸を受け止めた。五発目くらいを体に受けたとき、左腕の付け根に鋭い痛みを感じた。見ると、弾丸がわずかに肉にめり込んで止まっていた。どうやらルネが切れてきたらしい。貫通はしていないし、血もそれほど出てはいない。まだ大丈夫だ。

 むせかえるような火薬のにおいが車内に立ちこめわずかに視界が曇る。

 これはヒナの呼吸器によくない。私は開いた天井ハッチから天に召されていく煙を見て眉を顰めた。上空では大鵬の群が旋回している。


 なにを思ったのか男が突然急ブレーキを踏んだ。体が前につんのめり、思わず膝をついてた倒れ込む。ヒナたちが入ったケージも宙に浮き、大きな音を立てて転がった。


「うわぁ」

「痛いよ~」

「ままぁ~」


 すぐさま立ち上がり逆さまになった檻を元に戻す。ヒナたちはパニック状態で激しく羽をばたつかせている。


「大丈夫。落ち着いて」


 ヒナたちに気をとられていると、運転席のドアが開く音がして男が四つん這いになりながら、車外へと逃げていった。

 まさか広大な保護区の中を、ここから走って逃げるとでもいうのだろうか。さすが大鵬のヒナを親元から盗んだだけある。とんでもないガッツを持っている。すごいなぁ。立派だなぁ。ま、できるものならすればいい。あとは隊長たちに任せよう。私は男を追うことはせずにヒナたちに向き直った。


 すぐに出してあげたいのはやまやまだが、落ち着かせてからでないとヒナが危険だ。飛び出して羽ばたこうものなら、狭い車内で怪我する恐れがある。そうなると今度は私が大人大鵬たちに焼かれる羽目になる。


 目の前で自分たちを眺める人間に恐怖を覚えたのか、震えるヒナが上目遣いにこちらを見る。


「僕たち食べられちゃうの」

「食べないよ、大丈夫」

「ままぁ~」

「ママは今こちらに向かってる。どこか痛いところはない?」

「ない」

「狭いのいや」

「おなかすいた」

「ごはんちょうだい」


 どうやら全員怪我はないようだ。

 檻に手を入れて頭を撫でると、はじめは興奮していたヒナたちも徐々に落ち着きを取り戻た。


 そろそろ大丈夫だろうか。扉を開いて解放すると、ヒナたちは横たわる密猟者の死体を認識もせず、勢いよく踏みつけて、元気よく運転席のドアから外へと出ていった。


 私も死後硬直が始まる前に、力業で死体からなんとかサーベルを引き抜いて車外へと出た。

 外の空気が思いの外おいしくて、今までよほど汚れた空気を吸っていたことを思い知る。血と火薬の臭い。ヒナたちが心的ストレス傷害にならなければいいのだけれど。


 ヒナの後を追いかけていくと、逃げた密猟者は数十メートル行った先で、シキ隊長たちによって地面に押さえ込まれていた。これまた大鵬のヒナたちに負けず劣らず大変元気よく抵抗してるのを見ると、命だけは助けて貰えたようだ。

 空を見上げると、こちらに気がついた大鵬の群が地上へと降りてきた。ヒナたちが群に向かって大きく翼を広げて飛び跳ねている。群の中で誰よりも早く飛んでくる大鵬たちはおそらく彼らの親だろう。これで一安心だ。


 サフアンが密猟者を縛り上げて、装甲車の中に放り込んだ。放り込まれる直前に男と目があった。この後に及んでぎゃあぎゃあと喚いていた男だったが、私を見ると一瞬にして恐怖に顔を歪ませた。


「化け物っ……」


 小さな声だったが、私の地獄耳にははっきりと届いた。それで罵ったつもりなのか、それともかなわないという賛辞の言葉なのか。


 初めて化け物と言われたのはエルスにだったか。それが懐かしくてクスリと笑うとぬるい風が黒い髪を揺らしながら頬を通り抜けていった。


「それはどうもありがとう。よく言われます」


 大きな声で答えると、男は真っ青な顔をして体を震わせ失禁した。私は汚れた顔で笑顔を作ってあげて、車両へと消えていく男の背中を見守った。


「ご苦労だったな」


 シキ小隊長が両手を叩いて埃を払い、こちらを振り返った。


「それにしてもおまえ、毎度無茶するな」

「殺した方が早いですから」

「そりゃそうだが。そこ、肩のところ、撃たれたんじゃないか」

「それよりも、打ち落とされた大鵬たちは」

「三号車が回収して本部に戻った。医療班に診てもらっているところだ。怪我の程度はわからない」

「そうですか」


 軽傷ですむといいけれど。こうなる前にどうにかできなかったのだろうか。いつもなにもかも遅い。そう思うと自分の無力さが情けなくて哀しくなる。そして、哀しみに比例し次第に怒りや憎しみといった感情が、激しい熱を持って鳩尾からせりあがってきた。

 大鵬が傷つく前にどうにかするには、やはり密猟者を根絶やしにするしかない。それが一番手っ取り早い。難しいことを考えるのは苦手だ。話し合いでどうにかなるのなら、そもそもこの問題は起こっていない。

 よし、殺そう。結局最終的にこの考えにいきつく。


「で? おまえの怪我の方はどうなんだ」


 暗澹たるこちらの様子に気がついたシキが、気持ちを和らげようとでもしてくれたのか、わざとおどけて高い声を上げた。


「ルネが切れかけた時にやられましたが、かすり傷みたいなものです」

「拳銃で撃たれてかすり傷だ?」

「ちょっとめり込んだだけでっ……いたっ!」


 なんの予兆もなく突然脳天に衝撃を感じた。どうやら背後から頭を殴られたらしい。振り向くとルネをかけてくれたユイスが、鬼のような形相でこちらを睨んでいた。


「あっ、暴力反対」


 そう言ったのに今度は尻を蹴られた。絵に描いたような体罰だ。


「幼児虐待ですよ」

「うるせぇばかやろう! だから俺のルネの効果は延々と続くものじゃないって言ったろ! お前当たり過ぎなんだよ!」

「いや、まだ完全に切れてませ……」

「言い訳すんな!」

「はい」


 おとなしく頷いたのに再び尻を蹴られた。思わず隣にいたサフアンを見たのだが、彼はさっと目をそらして空を見上げた。同僚の暴力を見てみない不利か。とんでもない職場だ。ブラック。


「それで、説教はまだ続くのか? 恥ずかしいからどこか人目に付かないところでやってほしいのだが」


 シキが視線で指し示す方向を見ると、私の呼びかけにただひとり答えてくれた大鵬の長が、なにか言いたげにこちらをじっと見つめていた。


 うわ。怒られていたところをじっと見られていたのか。少しだけ恥ずかしさに顔が熱くなる。


 彼とはこれまでも何度か会ったことがあった。すべて密猟者がらみであるところは悲しいが、彼はある程度私たち自然保護官を理解してくれている、数少ない人物(鳥物)だ。


「人間殺しの娘よ」


 長がこちらへと歩み寄る。私も彼に駆け寄り頭を垂れた。

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