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かくてカラスはうたいだす  作者: トトホシ
心臓の向こう側

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「死んでしまえばいいのに」

「エルスを殺した密猟者に復讐したいなんて気持ちは、悲しみが癒えるとともにすっかり忘れてたわ。もともと私は動物が好きだった両親に影響されて、動物の医者を目指すようになったの。でもね……でもね、研修時に保護区で負傷した野生動物を見ていたとき、偶然あなたの放った光の槍を見たわ。密猟者を殺す無慈悲な光。綺麗だった。なんて羨ましい能力。ああやって密猟者なんてみんな死んでしまえばいいのに。そう思ったら、なかったはずの復讐心がむくむくと蘇ってきたの。それがあれば、証拠を残すことなく、殺人ができるのでしょ。それからイセザキに頼み込んで、あなたの全てを調べ上げたわ。まあ、実際は使いこなすのにも一苦労だったけど。でも今思えば、あなたのように保安官になって、合法的に殺した方が簡単でよかったわ」


 仰向けになり、天に向かって悪態をつくかのようにははっと彼女は笑った。


「見られていたんですね、私がシステムを作動させたところを」

「たぶんあなたが思っているよりも、もっとたくさんの人が見てるわよ、あなたの母の代から。隕石だの謎の光だの、それというには目撃例が多すぎる。あなたが使ったことはわからないにしても、もうここだけの秘密になんてしておけないわ。実際惑星カイトスのあらゆる国の機関だって動き出しているでしょ。ねぇ、シキ隊長」


 リアがシキに視線をよこす。シキは目が合うよりも早くリアから目をそらした。


「ところでね、このハウリングどうにかならないの。頭割れそうなんだけど」


 リアが左の側頭を指さした。そこにシステムへアクセスするための端末を埋め込んだということだろう。


「そのハウリング、以前は聞こえていなかったはずですが」

「ここに配属されるって決まってから、情報端末が入っているここにピンポイントで強い電流かけて、一時的に作動できないようにしていたのよ。数時間ごとにしなきゃならなかったから、結構つらかったわね。でも、ま、あなたが殺してくれるのなら、私が殺す必要はないもの」


 あはははは、と中庭にこだまする大きな声でリアが笑い、そして、自らの手を天にかざした。


「楽なものよね、洗う必要もないもの、誰かが汚す手は」


 ゆっくりと体を持ち上げて地面に座り込んだリアが、項垂れたまま首を振り大きく息を吐き出した。長い茶色の髪が風に揺れる。


「でも、あなたが殺さないなら、また私が殺すしかないじゃない!」


 がばりと顔を上げ、持っていた拳銃を私に向けた。だが、引き金を引くよりも早く、カザモリが高速移動で彼女の手の甲ごと拳銃を蹴り飛ばした。即座に重心の足を変えて、逆の足で背中を蹴り飛ばす。三メートルほど吹っ飛んで、リアは再び地面に転がり動かなくなった。


「うわあ」

「うへぇ」


 ヤッタとノエルロードが同時に叫び声を上げた。


「カザモルこわい。目、イってる」

「女に容赦なさすぎるだろ、あいつ」


 ヤッタが震えながらノエルロードの背後に隠れる。

 なんの問題もなく人間を殺すことのできた私ですら怖いと思った。ヤッタの言うとおり、彼の目は復讐に燃える鬼のようだった。もうリアしか目に入っていないのだろう。止められる気がしない。


「カザモル、もうやめよう。リア、死んじゃう」

「ヤッタは危ないから下がってな」


 カザモリがリアに向けて拳銃を握りなおす。撃つ気なのだろう。


「おいおい、捜査官の前でやるか? 正当防衛にはならないぞ、この場合」


 ノエルロードの言葉がカザモリの耳に聞こえているのかいないのかはわからない。しかし、彼は返事ひとつ、身じろぎひとつしない。やがて、のそりとリアが起き上がった。

 ノエルロードが「意外にしぶといこいつ」と呟く。


「ねえ、ボク。どうしてなんの罪もない家族を殺したんだ、って聞いたわよね」


 両手を地に付き、地面と向き合ったままで、リアがカザモリに問いかけた。カザモリは答えない。


「ねぇ、ボク。罪のない人間なんていないわよ」


 顔を上げて、リアが極上の笑みを浮かべた。笑う彼女は美しいと思う。もともとリアは顔面も整っていて美しい人間だ。しかし、その美しさが今日はどこか哀しかった。


「ねえ、ボク。私はアンスールみたいにシステムをうまく使いこなせないんだもの。間違って殺しちゃっても仕方ないでしょう。あなたの家族もそうね」


 カザモリが肩を震わせる。

 だめだ、撃つな、カザモリ。そう叫びたいがどうしてか言葉が出てこなかった。撃て。撃ってしまえ。殺してしまった方が楽だ。かつての自分の言葉が蘇る。


「まぁ、私の腕が悪かったってことだものね。そこは謝るわ。悪かったわね」

「リア煽るな!」


 私の言葉にも反応を見せず、今にも吹き出しそうな様子で、リアが口の端を歪めた。


「でも、あなたの家族、運がなかったわねぇ。まんまと命中しちゃうんだもの」

「殺す!」


 カザモリが叫ぶ。


『システム解除しますか』


「しない」


 この後におよんでシステムを使おうとするリアに驚きつつ、私はシステム解除を叫び続けた。


『システムカ……』


「しないって言っているだろ!」

「使えないシステムね!」


 リアが懐から隠し持っていた二つ目の拳銃を取り出し、カザモリに向けて引き金を引く。と同時に、カザモリもその引き金を引いた。


「だめー!」


 ノエルロードの頭の上にいたヤッタが、声を上げてカザモリに飛びかかった。


「ヤッタちゃん!」


 二つの銃声が重なり合い空に響く。青白く重なり合う硝煙と肺を汚す臭い。

 脳内のノイズを打ち消す轟音。太陽を覆い隠すのではないかと思わせるほどたくさんの黒い羽が辺りに飛び散り視界を遮る。内臓をも震わせる轟音に私はその場に立ちすくんだ。

 カザモリがヤッタと一緒に地面に倒れ込む。

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