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かくてカラスはうたいだす  作者: トトホシ
星々の祝福

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躊躇

 かつての職場を訪れてから数日がたち、私はまだ悩んでいた。

 カザモリに言うべきか、言わないべきか。言ったらすっ飛んで行くだろう。


 もちろん、実体のない天からの『実体のない(ネマテリア)天からの光の槍(シエラ ルモランツォ)』を殺すために。

 私が犯人だと思っている人が、本当にそうだと仮定した上での話だが、犯罪者だけれども知り合いだ。施設内で戦闘行為をされても困る。それに、こちらとしては脳内でハウリングが起こった、という事実はあるが、他者にはそれを証明できないうえに、実際に衛星システムを使った証拠を出せと言われれば出せない。

 つまり犯人である証拠はないのだ。

 そう悩んでいたら、腕時計型の通信機が音を立てた。点滅ボタンを押して素早くメールを確認する。


「今日捜査局にくるか?」


 カザモリからだった。

 なにか話したいことがあるのだろう。もしかすると『実体のない(ネマテリア)天からの光の槍(シエラ ルモランツォ)』について、なにか情報を掴んだのかもしれない。もちろん、こちらが持っているほどの情報だとは思えないが。

 気は乗らなかったが、行く、と返事を返した。このままではいられない。これからのことを考えると、口から自然とため息が漏れた。


 捜査局の賞金首検索室に行くと、すでにカザモリがコンピュータに向かって座っていた。部屋にはほかにも、二人ほど特別捜査官らしき人がいる。その人たちへのあいさつもそこそこにカザモリの元に向かった。


「こんにちは! カザモル!」


 私が声をかけるよりも早く、ヤッタがカザモリに声をかけた。彼は振り返ってこちらの姿を確認すると、よお、と片手をあげて笑顔を見せた。

 彼の隣の椅子に腰掛けて、私もパソコンを起動させた。ヤッタが膝の上に降りてくる。


「わかっていると思うけど、『実体のない(ネマテリア)天からの光の槍(シエラ ルモランツォ)』に関してなんだけどよ」

「はい。私も少し気になることがありました」

「本当か」


 カザモリが身を乗り出す。期待に満ちた目で見つめられて思わず腰を引いた。そんな期待されるとプレッシャーがかかる。


 犯人が誰であるかの確信は私にはある。だが、まだカザモリに言う決心はつかなかった。ヤッタにすら話していないのだ。ヤッタに話したら最後、隠し事ができないお子さまなので、ぺらぺら喋ってしまうだろう。


 ここは比較的どうでもいい情報を与えておこう。バッグを開いて『実体のない(ネマテリア)天からの光の槍(シエラ ルモランツォ)』による被害者一覧のファイルを取り出した。


「被害者ですが、先日あなたから貰った被害者を前職場のデータベースを検索したところ、元密猟者割合が比較的多かったです。ここのデータベースにあるものと合算しても密猟者が被害者である場合が多い」

「密猟者?」カザモリが眉を潜める。「でも俺の家族に密猟者はいない」

「まぁ、そうなんですよね。全員ではないんです。割合が多いだけで」

「そうか。職業をさかのぼってまで詳しく調べてなかったな」


 そう、全員ではない。そこが問題なのだ。割合から言ったらもちろん元密猟者は多い。だが、ここら近辺は保護区が近いこともあり、密猟者の割合も多いから、そういう関係もあるかもしれないと考えることもできるのだが、家族を一つの単位としたら割合は特段に上がる。もし、犯人が密猟者の家族ごと殺してしまいたいほどの恨みを持っているとしたら。

「それで、君の方は?」

「エド・コウルとガル・ガローの家が近かった。直線距離にしておよそ三十メートル」

「それは近い」


 近すぎる。数件先のお隣さんといった近さだ。


「間違って撃ったとかー」


 ヤッタが口を挟む。


「え」


 カザモリが膝上のヤッタを見下ろす。


「ママも時々、太ったウサギさん穫ろうとして、間違って近くにいた痩せたウサギさん捕まえたときあった」

「狩りと殺しは……同じなのか?」


 自然と首が傾がった。いくら近くても、私は衛星のシステムで誤射を起こしたことはない。システムは狙った標的は外さない。


「一斉にちょこちょこ動かれると、どのウサギさんを狙っていたか、分からなくなるんだー」


 ありうるな、とカザモリが呟いた。


「時事列からして、エドの次にガル一家が撃たれている。それも二日後だ。初めに一家を撃とうとして、間違ってエドを撃ったとも考えられるな」


 二日後なら、衛星システムの充電が完了してから撃ち直したということか。確かに考えられなくもない。しかし、間違って撃つとはなんて適当な。

 普通の人間はどれだけ強い力を手に入れたとして、そこまで適当な殺し方をするだろうか。むやみやたらと無関係の人間を殺したりするだろうか。混乱する頭を数回叩いてから頬杖をついた。


「もう、なんだかわからなくなってきました」

「そうか。俺は核心に近づいて行ってる気がするが」

「ヤッタは最初からなんだかわからない」


 カザモリが指先で膝を叩く。考えごとをしてるときの彼の癖だ。


「怖いですね」

「殺人者だからな」


 それもそうだと納得して一息つくと、膝の上ではヤッタが眠たそうな顔をして私を見上げていた。それほど興味のない話で、つまらなかったのだろう。


「眠たいのなら寝てていいよ」


 頭を撫でると、幼いヤタガラスはおとなしく目を閉じた。余程眠かったのか、数秒で静かに寝息をたてる。


「よく寝るな、ヤッタは」

「まだ子供ですから。寝ることと食べることと遊ぶことと喚くことが仕事ですよ」

「たくさんあるな、仕事」

「私よりも忙しいですよ」


 ヤッタが確実に寝入ったところで、カザモリに向き直る。


「誤射をした可能性ですが、私は衛星システムで誤射はしません」

「おまえのやつとは違うやつじゃないのか。『実体のない(ネマテリア)天からの光の槍(シエラ ルモランツォ)』は確かにおまえのやつと似たような光の槍を上空から降らせたけど、おまえと同じ物と決まったわけでは」

「いや、私の衛星システムと同じものを使っているようなんです」


 カザモリの指先が動きを止めた。


「それは、わかるもんなのか」

「はい。えっと、ノエルロード捜査官と一緒に組んでいたあの事件で使おうとしたのですが、充電中になってて使えなかったんです。私は使っていなかったので、誰かが使ったとしか考えられません」


 カザモリの目つきが変わる。


「……なんでそれを今まで黙っていたんだ」

「黙っていたというか、言うタイミングを逸していたというか」


 言う必要もないというか、という言葉を飲み込む。

 カザモリが私を睨みつける。もともと彼の目つきはいい方ではない。遙か年下ではあるが、睨みつけられると怖いものは怖い。というよりも腹が立つといった方が正しいか。舌打ちをしてこのクソガキがやんのかコラ。空から撃つぞ、と言いたいのを必死で押さえる。


「やっぱり私が犯人じゃないかと思われるんじゃないかと思って」


 言い訳だ。完全に忘れていただけだ。しかし、カザモリの追求は厳しい。


「俺はもうおまえじゃないと思っているって、何度も言っただろ。それなのに、おまえは俺を信用できないってのか」


 なにもそんなに怒らなくても。こっちにだって言う義務はないじゃないか。むっとした顔でいると、なにか不穏な空気に気がついたのか、寝ていたはずのヤッタがもそもそと顔を上げた。


「どうしたの、カザモル、怖い声出して」


 目は半目で寝起きの声だ。しっかりと話を聞いていたわけではないのだろうが、いつもと違う音を感じたのかもしれない。

 はっとした様子でカザモリは表情を和らげ、ヤッタを見下ろす。


「いや、なんでもないんだ」

「喧嘩してたの」

「してないよ、ごめんねヤッタちゃん。カザモリね、うんこしたくていらいらしてたんだって」

「え、うん、はっ? あ、ああ、そう、そうだ」


 カザモリが目元をぴくぴくと引き攣らせつつ、大きく首を縦に振った。


「そう。うんこ漏らさないうちに、早くおトイレ行ってきてね」


 そう言ってから、ヤッタは安心したように、再び寝息を立て始めた。


「アンスール、おまえな」

「またヤッタちゃんが起きちゃうから、怖い声出さないでください」

「……悪かったよ」


 カザモリは気まずそうに頭を掻いた。


「私の方こそすみません。君を疑っていたわけではないんです」

「いや、俺の方こそ興奮して悪い」


 以前も思ったことだが、この子は『実体のない(ネマテリア)天からの光の槍(シエラ ルモランツォ)』関係になると、興奮しすぎるきらいがある。家族の敵だというのはわかるが、仮に今後犯人を前にすることがあったとして、それが命取りにならなければいいのだが。


「それで、誤射しないっていうシステムの話だけど、それはやっぱり、アンタが使い慣れているからじゃねぇのか。相手は使い慣れていないのかもしれない」


 カザモリが再び膝を指先で叩く。それもなくはない。私は無言で頷いた。


「そもそも、どうやってそのシステムを動かしているんだ」

「カヅキの血族にある特定の遺伝子によって合成される物質が脳に働きかけて、システムにリンクする波動を出すんです。システムの方は半有機体なんですよ。生ける機械と言って私と同じ特定の遺伝子を持ち、波動を察知するようになっています」

「つまり」膝を打ちつける速度が速くなる。「お前じゃなくても、その特定の遺伝子を持っていたらいいんだな」

「おそらくはそうですね」


 理論的には。だが実際問題として完全に使いこなすにはそこそこの技術はいるし、その遺伝子を持たない私以外の人間は、今この世に誰もいない。多分。おそらく。


「お前の細胞の核からDNAを取って特定の領域を増幅させて、チップを作っていたら」


 カザモリの指の動きが止まる。


「それは……ありえますね」


 しかし、その可能性は限りなく低い。確かにシステム作動に関する領域の遺伝子を突き止め、その部分DNAを増幅してチップを作り、脳に埋め込み自己の脳細胞とリンクさせることで、システムは作動するかもしれない。

 しかし、そうした場合、正常に働くことは難しいだろう。特定の遺伝子による作用とはいえ、あくまでオリジナルは脳全体がシステムとリンクしている私であり、チップはその一部を切り出した劣化増産型としかならないはずだ。

 なにより、細胞なんてどこにも提供していないし、たとえ拾われた髪の毛や爪といった死んだ細胞からは、まともなクローンをつくるなんて不可能に近い。


 ……いや、ちょっと待てよ。思い当たる節がある。脳味噌が凍り付いて背中にすっと冷たいものが走る。


 提供している。自然保護区域での健康診断。血液検査。

 そうなると、推測通りエド・コウルらを誤射だとした場合、命令系統の劣化のせいでシステムの命中率が低くなっている、もしくはシステムが正常に作動しない、という点で納得がいく。 


「どうした」


 カザモリが動きを止めた私の肩に触れた。


「なんか心当たりがあるのか」


 あるけれど簡単に説明できそうになかったので、無言で首を斜めに振った。


「どっちだよ」

「あるといえばある。ないといえばない。……すみません、今はちょっと混乱しています。うまく話せる自信がない」


 嘘だ。ただ話す勇気がないだけだ。カザモリと目を合わせられない。


「わかった」


 追求してくるかと思われたカザモリだったが、案外あっさりと引き下がった。


「無理に聞き出すつもりはねぇ。でも、聞きたいことに嘘はつけない。俺はこの事件のためだけに、今まで生きてきた」

「話します、ただ、少しだけ時間をください。もう少し、本当に私の推測が当たっているのか、整理して考える時間を」

「もちろん」カザモリが笑う。「でも、整理ができ次第俺に話してくれよ。できれば、早めに」


 肩を掴む手に力がこもる。今すぐにでも聞き出したいのを、かろうじて押さえているのだろう。


「わかりました。約束します」

「ありがとう」


 力強く頷いて、カザモリは部屋を出ていった。なんとか自分を押さえている様子に私の心は痛んだ。何年間も追い続けてきた家族の敵だ。捕まえたいという気持ちは、捜査官や他の賞金稼ぎの何倍も強いのは当然だ。

 さて、これからどうするか。整理して考えたいとは言ったものの、心の中ではすでに決着がついていた。それをどうやってカザモリに伝えるか。もしくは伝えないか。ここは困ったときの……ノエルロードぐらいしか、相談できる人間がいないことに愕然とする。


「ん……」


 ドアの開閉音にヤッタが目を覚ました。


「あれ、カザモルは? うんこ?」

「帰ったよ」

「そっかー」


 うーんと息を吐いてヤッタが足を伸ばし、翼を伸ばし、翼の付け根をくいくいと回した。


「ちょっぴりだけだけど寝たからスッキリ! うんこもしたい!」 

「ねえ、ヤッタちゃん。これからノエルロードさんのとこに行っていい?」


 えっ、とヤッタが不満げに私を見上げた。


「ワカメのとこ? ヤッタはうんこしたいんだけど」

「大事な話があるんだ」


 若干イヤそうな声を上げたヤッタをなんとか宥めすかす。


「ワカメの頭にうんこしていい?」

「いいよ」

「わあい」


 適当に頷いてノエルロードのところに向かった。

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