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かくてカラスはうたいだす  作者: トトホシ
出動

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大鵬

「こりゃすごいな」


 シキがあんぐりと口を開けたまま上空を見上げる中、私はすかさず鉄帽をかぶって車両から上半身を出した。


「バカ! 危険だぞ!」


 シキが私の服の裾を引っ張る。それを無視して空を見上げる。


「大鵬の群だ。密猟者を追っているのか」

「密猟者を?」


 裾を引く力を緩めてシキが疑問の声をあげる。


「もしかしたらアイツ等、よりにもよってまじで大鵬に手を出したんじゃないですかい。それで仲間が怒って追跡してきたと」


 同じように身を乗り出したユイス二等保安士が、前方の密猟者をライフル越しに見据える。


「十分考えられますね」


 私もユイスの言葉に頷いた。


「バカだな。大鵬の火炎に丸焼きにされるのがオチだ」

「しかし、あっちも武器を持っています」


 そう言うのと同時に、操縦手が大鵬の群に遅れを取らないようスピードをあげた。突然の加速についていけず体が仰け反る。


「アンスール、ユイス、頭を下げろ。危険だぞ。一歩間違えればお前等だって大鵬に黒こげにされるぞ」


 隊長の言葉に体を屈めて気持ち頭を下げる。

 密猟者もいつ撃ってくるかわからない。それに、一応大鵬も自然保安官の存在というものは認識してくれてはいるが、結局我々は犯罪者と同じ人間だ。悪者と取られても仕方がない。


 荒野を走る車両ががたがたと揺れる。どこかに捕まっていないと倒れてしまうほどの道の悪さだ。いや、もともとここには人の通る道なんてない。遙か昔からここは動物たちの世界なのだ。


「なにがあったのか聞いてみます」


 やめとけというシキの言葉を手のひらで制して、私は鉄帽を深くかぶり直し、背を伸ばして大鵬の群に向かって大声で叫んだ。


「大鵬殿、こちらは自然保安官です。なにがあったのですか!」


 大鵬は答えない。地上からはるか上空に向かって言っているのだから、聞こえていないのかもしれない。だが、やたらと走行音のうるさい車が、密猟者の車を追いかけて走っていることは気がついているはずだ。もしかすると一緒に逃げていると思われている可能性もないではないが、何度も見ている私たちを記憶できないほど、彼らはバカではないだろう。


 けれども彼らはこちらを見向きもしない。いつもは黒々とした彼らの目が、怒りの赤に染まっている。怒りに身を任せて一心不乱に密猟者の車両を追っているのだ。


「大鵬殿!」


 必死の呼びかけに答えるように、一羽の大鵬が私たちの乗る一号車に併走する形で高度を下げた。緋色の瞳がこちらを捕らえる。それに臆することなく私はさらに身を乗り出し大鵬へと体を近づけると、それは見知った大鵬だった。この辺りの大鵬を統べる長だ。


「長殿!」


 大声で叫ぶ。畏れを感じるほどの巨鳥が、太陽を覆い隠してやおら振り返った。


「誰かと思ったら人間殺しの娘か。久しいな」

「お久しぶりです。一体なにがあったのですか」


 強風にかき消えそうになる声を必死で張り上げる。視線だけをこちらに向けた大鵬の目には明らかな怒りが宿っており、興奮のせいかいつもより濃いオレンジ色に染められたクチバシからは、今にも火炎が噴き出されそうだった。


 そのクチバシがゆっくりと広げられる。


「あの車の中に我らの子等がいる」失踪する車のエンジン音と風の中で、必死に大鵬の声に耳を傾ける。「親が留守のところを狙って、子供を攫ってて行った。三羽だ」

「なんだって!」


 許されない事実に血圧が上がる。が、その瞬間はっとして、煮えたぎりそうになる腸を必死に落ち着かせた。ここで怒りを爆発させてはいけない。また人間を殺してしまう。いや、別に殺してしまってもかまわない奴らなのだが、なにも知らない同僚の前であれを発動させてはいけない。


 ここにいる人間であれを知っているのはシキだけだ。それでもやっぱりさっさと殺したいのだけれども、と心の中で葛藤しつつ、なんとか怒りを沈静化させる。


 それにしてもヒナの方を狙うとは親のいない隙をついたのだろうが、やつらの気合いもたいしたもんだ。大鵬の親となると簡単には捕獲できない。彼らの気性は荒く、人間をも鷲掴みにする巨大な爪はするどく、なによりも口からは地獄の業火とも思える炎を吐くのだ。そうなると密猟者の視線は、自然と力の弱いヒナの方に向くのは当然だ。幼鳥はまだ火を吐けないし、爪は柔らかいし、小さいしなにより弱い。土埃にまみれながらひとり唸った。


「不老になるという肉を生きたまま食らうのか。それとも生きたまま切断した足を長寿の妙薬として売るのか」


 頭上から大鵬の長が問いかける。彼の言うとおり、大鵬の肉を食べた者は永遠の命が手には入ると言われており、まだ血の滴る新鮮な足を煮込んで飲むと若返ると言われてる。そして、羽根は魔除けのお守りとしてむしり取られてきた。


「どれも迷信だ。そうやって死ななかった人間がいるのか。愚かだな、人間よ。何十年何百年経ってもなにも変わっていない」


 なにも言い返せない。彼の言うとおりすべては迷信だ。そんな程度の低い迷信を信じて犯罪を繰り返す人間たちと、犯罪で手にしたそれを買う人間たち。同罪だ。


「焼き尽くしてくれる」


 大鵬たちの目がより一層赤く燃える。


「ですが、あいつらは武器を持っています。遠くからあなた方の体を打ち抜くことも可能です。ここは危険です。我らに任せて下がっていてください」

「そうはいかない」

「でも」

「お前も人間だ」


 反論しようとして言葉に詰まった。お前も人間だ。そうか、私も人間なのか。 


 確かに彼らにとっては自然保安官も密猟者と同じ人間で、信用できないのは当然だ。いくら私がいろいろな意味であいつらと自分は違うと思っていたとしても。


 何も言わない私をひと睨みして、長が大きな翼を羽ばたかせて、再び上空の群へと合流した。


「大鵬はなんだって言ってた。風でよく聞こえなかった」


 シキが私の腕を掴んで下がるよう促した。


「密猟者の車両に大鵬の子供が三羽、捕まっているようです」

「あらら、やっちまったな」


 鉄帽の顎ひもをきつく締め直しながら、サフアンが苦笑いをした。


「丸焦げ確定だ」

「でもあいつらは武装しています。大鵬の火炎はある程度接近しなければ届きませんが、ライフルで撃ち落とされたら大鵬だって死にます。ぽんこつ装甲車で機関銃などついていないのは幸いですが」

「サフアン分隊長。タイヤを狙います」


 操縦手が前方に顔を向けたままで、目だけをサフアンに向ける。


「横転しない程度にな。子供が人質ってのが厄介だな」


 サフアンの指示に従い射撃手が前を行く密猟者の後輪に照準を合わせた、時だった。前を行く密猟者の車両天井のハッチが開きそこから小銃を手にした人間が現れ、銃口が空に向けて突き上げられた。まずいと思ったときにはもう遅く、轟音が辺りに鳴り響いた。


 上空を飛んでいた大鵬が一羽、地上めがけて真っ逆様に落ちていった。巨大な体が太陽を遮り、私たちの乗る車両に大きな影を落としながら落ちていく。その姿に隊の人間全員が息をのむ。


「このやろうっ……!」


 反射的に体が動いたのだろう、ユイス二等保安官が今にも飛び出さんばかりの勢いで車体から体を乗り出した。

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