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かくてカラスはうたいだす  作者: トトホシ
星々の祝福

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38/65

オリン

☆☆☆


 捜査に協力することも決まり、私に監視がつくこととなったので自由に動くことができなくなった。賞金稼ぎの仕事もできず商売上がったりだ。

 なにもすることがないというよりもなにも出来ず、客人など滅多にこないノエルロードの執務室に入り、ベットよりもふかふかのソファでヤッタと共に寝ていた時のことだった。


 夢を見た。


 夢の中で私は確かに夢を見ているのだとわかった。何度も見てきたものだからわかる。またかと暗澹たる気持ちになるほどに繰り返してきた夢だった。覚めたら終わる夢であるとわかっているのに、今自分が存在する夢の中の現実に心が沈んで絶望を感じた。

 心は現在の自分なのに、夢の中での肉体や状況が今以上に幼い頃のままの自分だということがまた心を重くさせた。脳味噌は幼い頃よりも確実に劣化していて、あらゆる新しいことを受け入れられずにいるというのに、夢の中では常に肉体は脳味噌と反比例して若々しい。


 夢の中なのにそれがもどかしい。夢とわかっているので、受け入れられない結果になった場合は何度でもやり直せるはずなのだが、何度やり直しても思い通りの結果にはならなかった。夢だというのにだ。だからもしかすると夢ではないのかもしれないと、夢も五回目あたりからそう思うようになった。

 夢の中で私は母がシステムを使ってカイトスの人々を殺すところをじっと見ていた。何度も何人も。私はそのたびに母のシステムを中断させようと試みる。母に人殺しをさせてはいけない、私が制御すべきなのだ、そのためだけに私はいるのだ。そう思うのだが、私はいつも母が発動したシステムを停止できずに終わる。

 これでは私が産まれた意味がない。

 そうだ、母を失ったら、私はなんのために存在していることになるのだろう。


「……い、おいおーい」


 肩口に軽い衝撃を受けて瞬時に覚醒した。瞼を開けてすぐ、視界の端にノエルロードが映りこんできた。


「は……」

「うなされてたぞ」

「あ、すみません。帰ってきてたんですね」

「いや、全然いいんだけど。どうせ適当にハンコおしてるだけだし。どうした。顔色悪いけど」


 ソファからむくりと起きあがった私の顔を覗き込んでノエルロードが言った。部屋の中は蒸し暑く額には汗をかいていた。暑いからちょっと、と適当に言い訳してお腹の上で寝ていたヤッタの体を撫でる。ヤッタは目を覚ますことなくぐっすりと寝入っていた。

 額の汗を拭い、所詮夢だとわかっていながら、どこまでが夢なのだろうと考える。


「悪い夢? 話してくれてもいいぞ」

「暇なんですか」

「うん、仕事一段落して暇。アンタの話も聞きたい。考えてみたらゆっくり話す機会なんて今までなかったし、昔話とか聞きたい。惑星カヅキのこととか、子ガラスちゃんの生態とか」


 物好きだな。しかし彼の言葉に少しだけ気が楽になったのも確かだった。

 膝の上のヤッタの頭をなでてから、少しだけ考えて口を開いた。


「カヅキの人々はカイトスの人と一緒で短命なのに、どうして私が長命になったのかって話、しましたっけ」

「カヅキの血を引くアンタの母親は短命だったけど、父親が長命種だったからだろ」

「では種の違う母と父がなぜ子を成したかは」

「それは聞いてないな」


 がぜん興味が出てきたようで、ノエルロードが席を立った。


「お茶にしようか。コーヒーでいい?」


 そう言って部屋を出て給湯室に消えていった。

 折角だし母と祖母との昔話をしてしまおう。頭の整理のためにもちょうどいい。ぐっすりと寝ているヤッタをそっとソファの上に置いて立ち上がり窓を開けると、室内よりもほんの少しだけ涼しい風が入り込んできた。

 やがてノエルロードが戻ってくる足音をが聞こえてきた。ソファに戻って話を始める。


「単純な話なんですよ。もともとシステムは数十人で運用するシステムでした。制御する人間が母と祖母だけになったとき、母はその重圧に押しつぶされたんです。母は自分の力を制御できる人間が欲しかった。それは自分よりも早く死ぬ可能性があってはいけない。それで長命の種族と交配して産まれたのが私ってわけ」


 カップをふたつ持って帰ってきたノエルロードが向かいのソファに座った。


「単純かな、それ」


 ずずず、とコーヒーをすすって彼は首を傾げた。


「ただ、運がよかったことは確かです。短命と長命が交配して必ずしも長命が産まれるとは限りません。遺伝子上の優劣はないようですが、どういうわけか統計的には短命種が産まれる可能性が遥かに高いらしいです。子供よりも親が長生きする事が多くなったことで、惑星カヅキの移住者の中では、長命種と短命種の交配は禁忌とされていたこともあったのですから」

「寿命として中間が産まれるということはなかったのか」

「なくはないのかもしれませんが、私は聞いたことがありません」

「そっか」

「母の話、していいですか」

「めずらしいな。もちろん」


 一呼吸おいて、私は話し始めた。自分でも途中で躊躇してしまうほどの長い長い話だ。


「私の母はオリンと言いました。

 祖母に聞いた話ですが、オリンは自分がシステムを用いて間違いを犯しそうになったとき、それを制御できるのはカヅキの血を継ぐ数人しかいないのが、たまらなく恐ろしいのだと日々泣いていたそうです。そして、子供ーーつまり私ですーーが生まれるよりも前、カヅキの血族が母と自分、つまり私にとっては祖母と母ということですが、それだけになったとき、彼女の不安は頂点に達しました。母は自分の心を制御することが苦手だったようで、自分の憎しみがカイトスの人間へ向くことをいつも恐れていました。ということは、既に憎しみの目は確実に心の奥底で育っていたということなのでしょう。それに気が付かないふりをして、気が付いてからは押し殺して、やがて心が壊れ始めて、そして諦めました。母が抱いていた恐怖は現実のものとなったわけです。自分の利益の為だけに他者を貶め排除する人間を長い間見続けてきたのち、ついにシステムの矛先をカイトスの人間に向けました。かつては神とあがめられるほど盛大に迎え入れられた惑星カヅキの人々も、数百年と時が流れるにつれその影響力を徐々に弱め、やがてそれは神話の中の話となり、歴史からは忘れた存在となっていました。遠くの空で光の槍が見えても、それがなんであるのかカイトスの人々にはわからなくなっていた。もちろんたった一人の人間の仕業だと思うはずもなく、光の槍が落ちた付近で死者が出てもただ神の怒りだと恐れるしかなかった。今もそうですよね。カヅキの人間がやったなんて思う人間はいない。そもそもカヅキのことを知らない。オリンはさまざまな理由でカイトスの人間を殺しました。中には感情にまかせて放った光もあったでしょうが、オリンの母、つまり私の祖母ですが、彼女もオリンの行動を肯定はしなかったものの、止めもしなかったそうです。惑星カヅキで生きていた頃のカヅキの人々は人間同士もそうですが、天馬や大鵬といった異種間でも意思疎通をして平和に暮らしていたそうです。星外から火種が持ち込まれることがあっても、基本は惑星内での争いはなかったようです。けれどもカイトスは違った。……悪口になってしまいそうですね、カイトスの。私もカイトス生まれなので悪く言うつもりはないのですが」


「いいや、いいんだ。続けてくれ」


 ノエルロードが気分を害した雰囲気はなかったが、母星を悪く言われて気分を良くする人間はいない。続きを離すべきか迷ったが、鳩尾に堆積した不安のような重苦しい不の感情が、全てを話してしまえとせきたてた。


 私は苦めのコーヒーで喉を潤してから、再び話し始めた。

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