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かくてカラスはうたいだす  作者: トトホシ
星々の祝福

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36/65

捜査協力

「いやー、頑張っているみたいだね!」


 執務室に足を踏み入れた瞬間、いつもの素っ頓狂な声が響いた。それを聞いたヤッタがボエーと不機嫌な声を上げる。


「呼びつけて悪かったな」


 ま、座れとノエルロードがソファを勧めてきた。


「話ってなんですか」


 高そうな黒いソファに腰掛けると、部下らしき女性がコーヒーを運んできた。ヤッタには飲むヨーグルトで、これではまるで客人扱い。ヤッタにまでお水以外のなにかが出てくるとは珍しいとノエルロードを見ると、バチコーンといつもの『開けておくべき方の目が半目』のウインクをした。


「ありがとうございます。いただきます」

「いえいえ」


 ヤッタはノエルロードの配慮を知ってか知らずか、「ワカメの半目ボエー」と呟いてから、コップにくちばしをつけてちゅーと飲み始めた。私も遠慮なくブラックのままコーヒーをすする。


「で、話なんだか」


 どすんと向かい側のソファに腰掛けた男を挑むように見た。話の内容は大方予想はついている。


「昨日、一家三人が殺害される事件があった」


 やっぱりな。小さく頷いて、持ったままでいたコーヒーカップからまた一口すすった。


「その様子ではもうカザモリにでも聞いたか?」

「はい。凶器が光の槍だったと」

「そうだ」


 ノエルロードが頷いた。コーヒーカップに手を伸ばしつつ、口をつけずに話を続ける。


「一般家庭の夫婦とその子供。三人とも心臓を貫かれていた。凶器は見あたらなかったが、付近の目撃情報では、閃光のような光を一家の上空で見かけたとあった。アンスール、俺はお前を疑っている訳じゃない」

「そうですか」


 彼の目は嘘をついてはいなかった。適当な人間だが正直な人間、というのがノエルロードという男だ。


「一応は捜査官として聞かなければならない。昨日はどこにいた」

「王宮都市に行って買い物してました。デパート巡ったりして。カザモリにも同じことを聞かれましたよ」

「そうだろうな」ノエルロードが頷く。「俺もあいつも、お前が潔白だと思ってる。疑う奴がいるから、それを証明したい」

「捜査局が騒ぎだしましたか」

「俺も捜査局だけどな。まぁ、そういうことだ」


 想像は出来ていた。私が保護区域で働いていた頃は、密猟者を抹殺しても事件は全て保護区担当のノエルロードが率先して処理していた。ほぼ彼とその部下だけで、処理してきたといってもいい。

 私が保護区域内でシステムを使って障害の消去を謀ったのは、過去十数年間で数えるほどだ。システムをそこそこ使いこなせるようになってからは、怒りのせいでシステムが作動する前に、サーベルを抜くなどするようになった。システムを使って殺害をしてしまったときの事件報告書への記載は、所長やシキ隊長からのたってのお願い(ノエルロード談)で、凶器の部分についてはごまかして書かれていたらしい。捜査局の中でこの特殊能力を知る人間はごく限られた人間だったのだ。


 だが先日、保護区域外でサテライトシステムを作動させてしまった。こうなるとさすがにノエルロードがどうにかできる状況ではなくなる。当然事件の処理に当たった捜査官に知られ、報告を受けた上官に知られ、私が持つ能力は瞬く間に捜査局全体に知られることとなった。


「それでどう考えてもお前しかいないから監視すべき、という結論になった」

「まぁ、そうですね」


 それが自然だ。なにせ凶器が残らないという、前代未聞の能力を使ううえに、それを使える人間が賞金首と私しか確認されていないとあれば。

 ソファに沈みこんで深く息を吐いた。柔らかい座り心地に、ずぶずぶと心も体も埋まっていく。このまま眠ってしまいたい。そう思って目を閉じる。その時、浮かんできたのは一人の青年の姿だった。


「カザモリは喜んでいるでしょうね。今回の殺人が起こって」


 暗い瞼の裏を眺めていたら、自然と言葉が口をついた。


「どうして」

「数年間姿を見せなかった家族を殺した犯人が、のこのこ巣穴から出てきたんです。しっぽを掴むのには今しかないでしょう」

「殺人が起こって喜ぶ、か。特別捜査隊の捜査官としてはあるまじき感情だが、まあ、そうだろうな」

「私だったらいいのにと思っているでしょうね」

「なんで」


 ノエルロードがややくぐもった声を上げる。


「楽だからです。私を殺せばすぐに苦しみから解放される。誰が犯人でもいいから、それっぽいやつを心の中で決めつけて、それでとっとと殺したいもんなんですよ。怒りや不安から解放されるためには」


 ふっと目を開けると、ヤッタが顔を覗き込んでいた。その不安げな様子にはっとして背中を浮かす。


「すいません、なんでもないです」


 姿勢を正して飲んだコーヒーは冷めきっていて、何故か味がしなかった。ノエルロードは苦笑したが、それ以上私の言葉を追及することはなかった。


「監視すればいいですよ。ご勝手に。私には探られて痛む腹はありません」

「そう言うだろうと思ったよ」


 ノエルロードが豪快に笑ってコーヒーを飲み干した。私も最後のひと口を飲み干して再びソファにもたれる。ヤッタはすでにヨーグルトを全て飲んでしまっていた。

 すると、先ほどの部下がヤッタにヨーグルトのお代わりを持ってきた。ヤッタは目を輝かせてヨーグルトに飛びつく。


「このヨーグルト美味しい」

「おお、子ガラスちゃん。味が分かるな! 美味しいだろう、そうだろう! 俺の実家で作った飲むヨーグルトだ」


 ノエルロードがふんぞり返ってわははと笑う。


「ご実家酪農家さんかなにかなんですか」

「ああ。まさに酪農家だ! チーズも作っているぞ」

「えー……。ワカメのおうち、漁師かと思ってた……」


 微妙な顔をしてヤッタがコップのヨーグルトをのぞき込む。


「ワカメ入りのヨーグルト……」

「ワカメは入っていない。帰りに土産で持たせてやるからな。美味かったって宣伝しておいて。注文増えると両親が喜ぶ」

「わーい。ワカメたまにいいとこある」

「たまには余計だ。あ、アンスールの土産には俺の田舎で作っている地ビールもあるからな」 

「こちらもどうぞ」


 美味しそうなクッキーが出てきた。ヤッタの好きなウエハースもだ。挟まっているものの色を見ると、おそらくストロベリークリームサンドと、ヨーグルトクリームサンド。ヤッタのお気に入りだ。

 なんだ。ここまでくるとますますあやしいな。ノエルロードとテーブルの上のウエハースを交互に見て首を傾げた。

 お代わりのコーヒーを注いで女性が席を外す。ヤッタの目はウエハースに釘付けだ。


「ウエハース、食べたい」

「毒は入ってないよ」


 ノエルロードはいやらしい笑みを浮かべて、ウエハースを摘み、ぱりっと一口食べて見せる。窓から射し込んだ太陽光を反射させて白い歯がきらりと光り、それを見たヤッタの目もきらきら光る。


「ヤッタも! いちごヨーグルト味!」

「ノエルロードさん、なに企んでるんですか」


 警戒しつつウエハースを一枚摘む。まさかヤッタの好物までリサーチ済みだったとは。


「いや、企んでいるというか、なんというか」


 ノエルロードが視線を宙に浮かせて頭を掻く。私が摘んだウエハースを、ヤッタはジャンプをして咥えた。かけらをぽろぽろとこぼしながら、ぽりぽりと小気味よい音を立てて咀嚼する。


「お、子ガラスちゃん。あーんしなくても上手に食べられるようになったのか」

「ばかにするな! ヤッタはもうひとりでご飯も食べられる」

「もっと食べていいよ~。おいしいだろお?」

「うん、美味しい」


 もう一枚、とライバルであるはずのワカメに促されるがまま、ヤッタはお皿に乗ったウエハースに嘴を伸ばす。 


「それで、このウエハースで私達を買収するつもりですか。監視だけならこんなご機嫌をとることはしないはず。なにを企んでるんですか」

「企むなんて人聞きの悪いまさかそんな」ノエルロードは両手のひらをこちらに向けて、首を左右に激しく振った。「うーん、あのさぁ。ただ後をついて監視されるよりも、一緒に仕事しないか? 四六時中捜査官と一緒にいて、捜査なりなんなり仕事に加われば……」

「いや、いいです。どうぞ存分に監視してください」


 面倒臭い。先ほど言った通りこっちは探られて痛む腹などない。

 それにしても意図が見えない。捜査に参加しろと言うことか。捜査局は人員が不足しているのだろうか。どちらにしろ胡散臭いし、こちらとてウエハースなんかで買収なんぞされない。そう思っていると、ノエルロードが突然ものすごい勢いでソファから立ち上がった。かと思うと、崩れ落ちるようにがばっと地面にひれ伏した。


「お願いします! 手を貸してください!」


 思いも寄らない男の行動に、私は口を開けたまま言葉を失った。ヤッタも咥えたウエハースをぽろりと落とす。落とされたウエハースが、乾いた音を立ててテーブルの上を転がった。

 先ほどの女性はすでに席を外しているので、ここにいるのはノエルロードと私、それにヤッタだけで、彼の部下はいない。それがせめてもの救いだと思うしかない。こんな情けない姿を見せたら、部下は泣き崩れるに違いない。


「軽犯罪者とはいえ、一か月に十人もの賞金首を捕まえるのは優秀だ。経験の積んだ捜査官でも難しい。いや、無理だろう」


 土下座したままノエルロードが叫ぶ。

 そうだろうと頷いた。だがこれはヤッタのルネがあってこその業績だ。さすがヤタガラス特有の力。人を映し出せるルネを使える人間など聞いたことがない。もちろん、いくら捜査局といえども、そういった人材はいないはずだ。


「その力貸してくれ! 頼む! どうしても解決できない事件があるのよぅ」


 そういうことか。ならば初めから協力してくれといえばいいものを。顔を上げた彼は、今にも泣きそうなこの上なく情けない顔をしていた。


「話は聞きます」

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