疑惑
仕事も徐々に慣れてきた。捕まえた賞金首はこの一カ月で十人。下着泥棒六人に食い逃げ四人。この狭い区域での下着泥棒の多さにも驚いたが、下着泥棒にわりといい額の賞金がかかっていることにもっと驚いた。よほど高価な下着を盗んだのか、下着泥棒程度捕まえられない警察が無能なのかはよくわからない。無銭飲食の方は下着泥棒よりも設定金額がやや高めが多かった。どうやら彼らは食べてからそっと出て行くタイプではなく、食い逃げ時に暴行を働いたり、ついでにレジから金銭を盗んでいったりした人間らしい。暴行強盗のコンボだ。
贅沢をしなければ、十人分の賞金で数か月はゆうに暮らしていけるだけの額が稼ぐことができた。しかも、この他にきちんと最低限の給料がもらえるのだ。
他の賞金稼ぎはこんなちまちまと小銭を稼ぐのではなく、大物を狙っているらしい。大物は一人捕まえれば数年単位で暮らしていけるやつらばかりだ。小者ばかり狙っているのは私くらいだとノエルロードが言っていたことを思い出す。賞金稼ぎってのは一攫千金を狙うのが当然で、堅実なやつはそもそも賞金稼ぎにならないとも。
そして、本来は小者を狙うための特別捜査官ではないことも。
わかる。賞金首を殺していいよと言われたくらいだから、本来ノエルロードたちのして欲しいことはわかる。だからといって危険な仕事をするつもりはない。
なにはともあれ、ライバルがいないのはいいことだが、軽犯罪者をとりつくしてしまってからが問題だ。
そして、罪人度の低い犯罪者とはいえ、私一人の力で賞金首を捕まえたかというと、全くそうではない。実を言うと、それにはヤッタの必殺技、失せ物探しがとても役に立ったのだ。ヤタガラスなら誰でも使える星々の祝福ルネで、ヤタノカガミといわれる鏡のようなものを空中に出現させ、それに探し人の姿を映し出す。今現在どこでなにをしているかを映す優れモノだ。
しかし、これは顔や名前がわかっていること前提だ。分からなくても手がかりさえあれば、ある程度は映しだせる可能性はあるが精度は下がる。
さらに、能力者ルーン同士に限ったことではあるが、ルネを使用する際の能力レベルが、賞金首よりヤッタの方が高い必要がある。もし、ヤッタの精神能力のレベルが探す相手よりも低い場合、まったく探せないこともあれば、仮に運良く探せたとしても、ヤタノカガミで見られていることを知られてしまった際には、カガミを通じて反撃を受けてしまう場合もある。私としては、ヤッタを危険な目に遭わせたくはないので、ルネを使わせることには否定的だったが、逆にヤッタに時短と確実性を説かれると、使わないわけにはいかない。
それに、ヤッタのルネなしにいちから探すとなると、張り込んだり聞き込んだりで、とてつもない時間がかかる。ヤッタがいてくれたので、一か月で十人という偉業も達成できたのだ。
次はどいつに狙いを定めようか。頭にヤッタを乗せながら、凝りに凝った首筋をさすり、特別捜査隊に用意された部屋の一室で、下着泥棒と食い逃げの軽犯罪賞金首のファイルをめくる。
「おい」
ふいに背後から声をかけられ振り返ると、カザモリが立っていた。
「カザモルだー。久しぶりおはよう!」
ヤッタが無邪気に羽を広げた。まずは挨拶しろよという言葉を飲み込んで、適当におはようございますと言ってから、カザモリをじっと見て続きを待つ。不躾に声をかけたからには何か用があるはずだ。
「お前、昨日なにしてた」
カザモリが目を逸らしつつ、言いにくそうに口を開いた。
「昨日?」
頭を傾げて記憶を探る。
「昨日ねー、ヤッタはアンスルちゃんとショッピングに行った! 黄色いおりぼん買ってもらった!」
首に巻いたリボンを誇らしげに見せつけるヤッタの頭を撫でて、カザモリがそうかと頷いた。
「ヤッタちゃんが言った通り、昨日は王宮都市まで行って買い物してきました」
「一日中か」
「一日中なら店に泊まることになるからそれはないです」
「そういう細かいところはいい」
「はい、それで、朝は自分の家で起きて、午前の十時十分くらいに出かけて十一時五分くらいに着いて……って、どうして君に私たちの行動を話さなければならないんですか」
少しだけむっとして反抗的な態度をとる。そんなこちらの様子にたじろぎもせず、カザモリが深刻な顔をして言った。
「昨日、殺人があった。光の槍で殺された」
あやうく手に持ったファイルを落としそうになる。初耳だ。今朝の新聞にも載っていなかったはずだ。
私ではないと首を振る。昨日どころか、カザモリと密猟者を追ったあれ以来、システムを作動させてはいない。
「どこで」
「クロンの町の住宅地。一家三人全てだ。その二日前にも男が一人殺されている。およそ三年振りに姿を現したんだ。ノエルロードのオッサンから聞いた。光の槍ってのもまだ不確かだから表には出てないけど、情報は確かだ」
一家三人。カザモリの追っている賞金首も、一家殺人を犯していたはずだ。ならば、同一人物になるのだろうか。手口が同じとなれば、そう処理される方向になるのだろうか。
「王宮都市に行っていたこと、証明できるのか」
明らかに疑っているカザモリの言葉と表情。お前がやったんじゃないのか。顔にそうはっきりと書いてある。疑っていないと言っておきながら、やっぱり私を疑っているんじゃないか。そう思ったが口には出さなかった。なんだか可笑しくなって、代わりに皮肉に口の端を歪めてみせた。
「あなたいつから尋問員になったんですか。事情聴取のつもりなら無駄ですよ」
「いや」カザモリが怯んだ。「疑っているわけじゃない。お前じゃないことの証明がしたいだけだ」
同じじゃないか。疑っていることに変わりはない。ふっと息をついて首を振る。これ以上話すことはない。無言で彼から目をそらし、再びファイルに目を落とす。
「悪い。言い方が悪かった。本当に疑っているわけじゃないんだ。ただ、あのオッサンが、お前のこと一度全て調べあげる必要があるかも、って言っていたから」
「ワカメが!?」
ヤッタが声を荒げる。ヤッタはノエルロードのことを完全に敵視しており、彼のこととなると名前が出ただけでも激しく反応する。姿が見えた訳でもないのに、デスクの上に降りたち、ふっふと鼻息を荒くして、羽を逆立てる。
「ワカメの頭にヤッタのうんこ落としてやる! ビチビチの!」
「お前じゃないってことを今一度公に証明するためだとは思う。王宮都市にいたのなら、クロンの殺人は無理だ。二百キロは離れている。そこまで遠隔で当てられないだろ、さすがに。だからそこにいた証明があれば……」
「レシートなら証明になりませんかね。たくさん買い物したので」
「いや、ないよりましだ」
ぱっとカザモリの顔が明るくなる。店内の防犯カメラにも映っているだろうし、頭にカラスを乗せた人ならば、店員も覚えているだろう。疑っているように見えた彼の顔は、心配している顔だったのだろうか。どうもここ数十年、穿ったものの見方しかできなくなっているな、と自分でも思う。人間はそう簡単に信用できないと心に染み着いてしまっているのだ。
「心配かけてすみません。いっそのこと一日中私に監視をつけてもらって、その時に光の槍で殺人があれば、確実に私じゃないって証明できていいんですけれども」
「なるほどな」
カザモリが両手を打ち付けた。
かくして後日、私の希望する通りのこととなったのであった。




