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かくてカラスはうたいだす  作者: トトホシ
天からの光の槍

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26/65

起動

 両側に草原の広がる道路をひたすら走り続ける。太陽が頂天目指して昇り、照りつける日差しに車内の温度が増す。

 ヤッタの体温が熱い。熱すぎる。私も暑い。と思っていたら、さすがに参ったのか懐に入っていたヤッタが、はぁはぁ息を荒くして這い出てきた。


「暑いー」

「今はまだ服の中に入ってなくていいよ」


 むしろ入っていてほしくない。私が煮える。


「お水っ。お水っ」


 大きく開けたヒナ特有の赤い口内に水を流し込むと、ヤッタはぷっはー、と景気のいい声をあげた。クーラーをつけるかと言われたが、まだ大丈夫だと断って窓を全開にすると、心地よい風が車内に入り込んできた。


「これから連中が現れると思われる場所に行く」

「そういう情報はどうやって手に入れるんですか」


 簡単なことだとカザモリは笑った。

 情報屋を使うのが一番いい。捜査局の情報は信頼がおけるし役には立つが、それだけでは情報不足だ。情報を得るにはそれなりの金を必要とするが、情報屋はそれを仕事にしている以上、情報は正確で信頼は置ける。今日のターゲットにはあまり関係はないが、街中での犯罪者の情報には浮浪者などの話も役に立つ。彼らは一日中同じ場所にいるから、見かけない顔や不審者がいた場合すぐに気が付く。あんぱんと牛乳とタバコそれと少しのお金で協力してくれる。

 なるほど、と相づちをうちながら、道中カザモリの説明に耳を傾け続けた。


 いつしか舗装された道路もなくなり、あたりは草原から荒野に変わっていた。土の地面がむき出しになり、草は背の低いものがまばらに生えるだけだ。一行が進む道路らしき道にはかろうじてわだちが残っている。


「ここら辺には通常よりも比較的でかい角を持った成人の人馬が現れるんだ。連中はそれを狙ってやってくる。今日の午後」

「それも情報屋からの情報ですか?」

「ああ。いい額だった。そろそろ隠れるか。誰かがいるとわかったら、あいつ等は姿を見せない」


 岩場の陰に車を止めてその中で待ち伏せる。ヤッタがお腹が空いたと騒ぐので、ありがたくカザモリの保存食をいただいた。


「これ美味しい!」


 乾パンを頬張りヤッタが歓喜の声を上げる。本当か、と思いつつ私も食べてみたのだが、確かにおいしかった。昔の乾パンはもっと固くてお世辞にもおいしいとは言えない代物だったのに。時代の変化は早い。そう思いながら乾パンを食んだ。


「クッキーみたい」


 座席に落ちたくずまでもつついてヤッタが目を輝かせる。


「近頃の乾パンは進化してますね。昔のは硬くて食えたもんじゃなかった」

「昔って、アンタ何歳だよ。俺とそう離れてないだろ」

「だから私幼形成熟だって、以前お話しませんでしたっけ」

「あー……、そういえばなんか言ってたな。……見た目は子供中身は大人だっけ? バケモンだろ」

「まぁそうですね」


 年下の言葉に曖昧に笑って見せる。実際はただ無駄に年をとっているだけで中身も子供だという自覚がある。


 遠慮のないヤッタが保存用に特別殺菌でパックされた牛乳までに興味を示し、カザモリに強請って開けてもらい、ぐいぐいと飲み始める。

 育ち盛りは牛乳をたくさん飲んだ方がいい、とカザモリは言ってくれたが、それなら君ももう少し牛乳を飲んだ方がいい、と天井と頭の空間を見て思った事は、さすがの私も口に出来なかった。


 おやつというにはいささか多すぎる量の食料を食べ終えしばらく待ったが、密猟者が現れる気配はなかった。だが、カザモリの顔に焦りは見られない。気長に待つのも仕事のうちなのだろう。

 食べてしまった分の食料を補填しなくては、と呑気なことを考えているとヤッタが大きなあくびをした。


「ヤッタ、眠くなってきちゃった」

「いいよ、寝て」


 膝の上でヤッタが丸くなる。ヤッタの体温と心地よい日差しに私の瞼までもが重くなる。


「そういえば、そのカラスの性別だけど」

「ああ、話の途中でしたね。ヤッタちゃんは……」


 ふと、地面を踏みつける重苦しい音に顔を上げると、近くを角象と人馬の群が通り過ぎていった。角象二頭に人馬が六頭の合わせて八頭。水飲み場にでも行くのだろうか、ゆっくとした歩みだ。角象と人馬は穏やかな性格だからか混群をつくことがある。

 その名の通り角の生えた象、久々見たな、と思った途端、思考を遮って空気を打ち砕く銃声が聞こえた。人馬たちが叫び声をあげて走り出し、驚いたヤッタが飛び上がり天井に頭を打ちつけた。


「やつらだ!」


 座席から体を起こして周囲に視線を凝らす。後方からエンジン音が近づいてきた。続いて炸裂音が鼓膜を震わせる。人馬たちの足下で土埃が舞い、一頭が大きくのけぞった。そして聞こえる銃声。

 隠れている岩場のすぐ近くをジープが走り去っていく。天井はついておらず軽装甲ですらない。速度もそれほど早くない。近くに寄りさえすれば銃でなんなく頭を打ち抜ける。そう考えてから、今はもう保安官ではなくここも保護区域ではないことを思い出す。

 そしてなによりも今は先輩の仕事の邪魔をしてはいけない。そう頭では分かっているものの、黙って見ているわけにはいかない。

 狂ったように暴れる人馬に向かい、彼らは再び発砲した。


「助けにいかなければ。ヤッタちゃんはここにいて」


 車から飛び出しかけた私の腕を、運転席に座っていたカザモリが身を乗り出して掴む。


「まて、捕まえるチャンスはまだだ。今動いたら逃げられる」

「今動かなければ、あの人馬たちが殺される」

「動くのは殺した後だ。角を切っている最中に狙うんだ。今なら逃げられる」


 なにを言っているのかすぐに理解ができなかった。

 殺したあと? 殺されてしまってからでは遅いから、今動くんじゃないか。

 カザモリの目に迷いはない。密猟者捕獲とはこういう風にするんだ、という自信に満ちた表情。

 そうか。確かにそうだ。彼は保安官じゃないしそもそも目的が違う。仕方がないか。

 眠っていた絶望と怒りの固まりが腹の奥で膨れあがる。


「人間の子供の臓器の時もそうですか」

「は?」

「殺してから臓器を摘出している隙を狙うのですか」


 こういう判断を下すのであれば、こいつも密猟者と同じ人間だと思わざるを得ない。お金の為に命を奪う種類の人間。耳の奥で血の沸き立つ音が聞こえた。怒りを越えてどこまでも哀しくなった。心の奥が痒くなって口元が歪む。泣きたいのか笑いたいのか、自分でもよくわからない。


 人間。これが人間よーー。


 記憶の奥底で母親の声が聞こえる。


 こんな人間を、私たちカヅキは長い間守ってきたのねーー。


 母よ、あなたは正しかったな。愚かな自分を心の中で笑いとばし、しばらく目を閉じてから、ふっと息を吐いた。


「離せ」


 乱暴に言い放ち、カザモリが怯んだ隙に叩きつけるように腕を振り払う。膝にいたヤッタを助手席に乗せ車を降りる。


「アンスルちゃん」


 私の様子にヤッタが不安げな声を上げる。


「ヤッタちゃんはここにいて」

「でも」

「ここにいなさい。ヤッタちゃんの目の届かないところには行かない。約束するから、ここにいなさい」

「……うん、わかった」


 ヤッタが素直に頷き、助手席に体を伏せた。


「おい、おまえ一人でまさか突っ込んでいくってのか。バカか。お前がどんなルネを持っているか知らないけど、そんなことしたら死ぬに決まってんだろ。いいからまだ待てって!」


 カザモリが車から飛び出して来て、私の肩を掴む。


「待っていたらあの人馬たちが殺される」


 振り向きざまそう答えた。


「俺たちの仕事は動物を助けることじゃない。賞金首を捕まえることだ」


 脳の奥で甲高い電子音が聞こえた。己の選択に対する警戒音だ。怒りがどこに向かっているのかわからなくなる。


『システム解除シマスカ』


 警戒音に乗せて声が聞こえる。

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