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かくてカラスはうたいだす  作者: トトホシ
ヤタガラスの子供

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17/65

とてつもなく怪しいお仕事

 もともと人々がこの星の中から出られなかったときは犯人もこの星以外に逃げようがなく、たとえ国外に逃げたとしても、国同士の連携や人々の通報により、比較的簡単に犯人を捕獲することができていた。しかし、ここ数十年で一般人が自由に星間を移動できるような時代になり、犯罪者も比較的簡単に星外へと逃亡することができるようになってしまった。


 星外に逃げられるととてもやっかいだ。まず、星と星の間で連携をとれない場合が多い。星間連合に加盟していない惑星は他星とほとんど交流がない状態なので、そんな惑星に逃げられでもしたらほぼ打つ手がなくなる。また、星間連合に加盟していたとしても、それぞれの星の秩序や法律、思想などがあり、そう簡単に引き渡されないことも多い。当然、捜査局の検挙率も下がる。

 そこで、捜査局よりも自由に動けて多少の強引な手段なら許される組織として、表向きは賞金稼ぎという特別捜査隊が結成されたということだった。

 だが、問題は星間移動に関することだけではない。むしろそれはあまり問題ではない。

 わざわざ捜査局が賞金稼ぎを募集する一番の理由。それは、賞金稼ぎと賞金首との癒着が問題になりだしたからだった。


 賞金首には当然ながら賞金がかかっている。賞金稼ぎはその賞金を目当てにして賞金首を追う。しかし、ここ最近になり重大な犯罪を犯す賞金首は、自ら膨大な資金を持っている者や、大金を持つ人物が囲っている殺し屋であったりと、金持ちの後ろ盾のある者が増えてきた。つまり、たとえ賞金稼ぎに捕らえられたとしても、自らにかかっている賞金以上の額で彼らを買収しまんまと逃げ仰せる、という事例が多くなってきたのだ。

 また、最初から捜査局に引き渡すのが目的ではなく、その賞金額プラスアルファで見逃してやる、と自ら交渉する賞金稼ぎも多くなってきていることが、大きな問題となっているとのことだった。


「悪いやつがお金を持つとろくなことになりませんね」

「クズ同士だから始末が悪い。それに賞金首を逃がすってのは、自分にもものすごい危険性があるってことだ。なんであいつらそれに気づかないかな。そうやって買収した直後、逆に賞金首に殺された賞金稼ぎも少なくないってのによ」


 ノエルロードが番茶をすすって背もたれに身を預ける。ヤッタは相変わらずサンマを征服しようと息巻いている。

 つまり、この仕事は賞金首が賞金稼ぎと手を組まないようにと考えられた『捜査局おかかえの賞金稼ぎ』とのことだった。この仕事についた者は、そこら辺にいる野良の賞金稼ぎとは違い、賞金首と取引した時点で就業規則違反となる。免職ではすまされず、規定を破ったことにより当然処罰を受ける。

 代わりに野良の賞金稼ぎとは違い、公務員に準ずる扱いなので、最低限毎月の給料は保障される。しかも社会保険つき。しかしながら、採用にはそれなりの審査がある。


「というのは表向き」


 ノエルロードがそう言って薄く笑った。


「審査なんてあってないようなもんだ」

「はぁ」

「殺していいよ」

「は?」

「賞金首殺していいよ。軽犯罪はまずいかもだけど、重犯罪のやつはいいよ。本音は警察にできないことをやってほしいんだよ」


 思わず眉間に皺が寄る。

 警察が殺人推奨してるまずくないか。思い切り不審に思ってることを顔に出しても、目の前の男は口角を持ち上げたままで表情を崩さない。


「殺しても殺人として立件しない」


 しかし、この男の言うことはいまいち信用できない。大船に乗ったつもりでと言われても、この男の船は乗ったが最後、泥船でした。という予感がぬぐい去れない。


 怪しげな仕事だし、危険もありそうだし、まだやると決めた訳ではない。今日は話を聞くだけだ。そう言ってもこの男は試用期間ということで、試しに一か月だけでもやればいい、イヤならそれでやめればいい、と引かない。よほど人手が不足しているのだろう。


「参考までに、これが今人気の賞金首。みんな捕まえようとやっきになっている」


 ノエルロードが資料の束の中から、一枚の紙を取り出してテーブルの上に置いた。

 いかにも凶悪そうな人物の顔写真がずらりと並ぶ。中には顔が知られておらず、名前と罪名と賞金額だけがかかれていて、写真が空白になっている者もいる。こういうやつは見つけるのが難しそうだ。

 連続捜査官殺人で手配されている男。逃走先不明。賞金三千万イェン。なかなかいい額だ。

 麻薬の密売及び臓器密売及び人身売買及びストッキング強奪及び殺人の男。逃走先不明。賞金四千五百万イェン。色々悪いことをしているが、突然出てきた下着強奪が謎だ。

 殺人と殺人幇助、脱獄の罪を犯した双子の兄弟。銀河系地球に逃走中。賞金八十億イェン。これは星外での事件で星間連合での指名手配なのだが、わりと大きな案件だから一応入れておいた、とノエルロードが言う。確かに来来世まで一生遊んで暮らせる額だが、ここから辺境の地の地球に行くだけで莫大なお金がかかるのではなからこれはなしだ。

 やはり殺人犯は賞金額も跳ね上がるので、賞金稼ぎには人気らしい。だが、その分危険が伴うのも確かだろう。お金はそこそこでいいので、できれば軽犯罪者を専門にしたい。

 こうも凶悪犯ばかりだとこの仕事は難しい。渋い顔を作って唸ると、それではこれはどうだと、もう一枚の紙を差し出された。それほど人気はないけれど、比較的捕まえやすそうな犯罪者のリストということだ。期待せずに目を通す。

 食い逃げ百回。オウ・マンプク。丸顔の中年だ。賞金額百万イェン。

 盗んだパンツは男女モノ問わず千枚に及ぶ下着泥棒。一度捕まえたが逃走。ブリンフ・ブラスキー。賞金額百二十万イェン。

 男性を押し倒してブリーフをはぎ取る強盗型下着泥棒(ブリーフ以外は興味をなくして逃走)。名前不明。賞金額五十万イェン。


 ここまでわかっていて、どうして捕まえられないのか、と疑問に思うようなやつらばかり。だが、こういうやつらならヤッタを連れていても、そう危険はないかもしれない。


「それにしても、将来有望な鋼鉄の殺人幼女がこんな子ガラスのために仕事をやめるとはねぇ。子ガラスちゃん、アンタ、しばらく色々な人から恨まれるよ」

「なんですかそれ」


 殺人幼女だと。顔を上げてノエルロードを睨むと、彼は俺がじゃねえよと首を振った。


「誰がつけたんだか、アンタのあだ名だよ」

「私はもうババァです。それに鋼鉄ってのはどういう意味ですか」

「銃弾の雨につっこんでいっても、死なないからじゃないか。俺がつけたわけじゃないから知らんけど。でも陰でそう呼ばれてるぞ」


 それは防御のルネを使っているからだ。なんの対策もとらずに突っ込んでいったら、私だって当然蜂の巣になるーー。といっても、いくら防御のルネを使ったからと言って、何のためらいもなく弾丸の雨の中に突込んでいくのは、通常の人間ではありえないことも確かだ。普通は圧倒的に恐怖の方が勝る。


 特殊な魔法である程度は攻撃が防げるから、安心して鉄砲を持っている相手に向かっていけ、と言われても、誰もが怖じ気づいてその場に立ち尽くすのは目に見えている。

 事実、保安官の多くがそうだった。シキですら防御のルネをほどこされても、やはり恐怖があって特攻はおそろしい。そう言っていたことを思い出す。それにルネはある程度受けたら効果が消えるのも、誰もが怖ろしがる要因のひとつだ。

 ならば、ためらいなく相手を殺しにつっこんでいける私は確かに冷徹で、鋼鉄、なのかもしれない。至極納得してひとり頷いた。


「どうしますかねぇ。殺人ババァは迷いますねぇ」


 賞金首たちが印刷された紙をノエルロードの眼前でひらひらと振ってみせた。

 殺してもよいと言われても、当然ながら保護区域での密猟者抹殺とは話が違うのだ。ヤッタの前で人殺しはしたくない。

 テーブルの上では、そのヤッタがまだうまくご飯が食べられずに癇癪を起こし始めている。食べると言うより散らかしているという方が正しく、皿の上はぐちゃぐちゃだ。


「むー! ごはんー! 食べられないー!」


 半泣きでその場に座り込む。その頭を撫でて落ち着かせ、箸でサンマを集めてくちばしの先まで持っていく。ノエルロードを気にして躊躇していたが、あきらめたのかついには大人しく口を開けた。

 飲み下したのを確認してから、少し冷えてしまったサンマフレークを再びヤッタの口に運ぶ。


「動物には優しいよな。人間には冷徹だけど。人間嫌いでしょ、カヅキさんは」

「そんなことないですよ」

「人間が好きならあんな風には殺せない」


 ノエルロードがテーブルに両肘をつき手を組んで、私をまっすぐに見る。その視線はなにか言いたげで、雰囲気もいつもの彼と違うことがわかった。


「好きとは言っていません。嫌いじゃないだけです」


 割と興味ないと言った方が正しいか。しかしそんなことどうでもよいだろう。自らの口にもサラダを運んで心の中で悪態をついた。


「ここの保安官が作った死体、たくさん見てきたけど、アンタは最初からためらいがなかったな」


 まっすぐとこちらを見てくるその瞳と、今更な会話の内容に、そういえばこのヒトは知っているのだと思い出した。あまり知られたくはない自分のことを。無意識に箸を握る手に力がこもる。


「ヤッタちゃんの前で、そういう話はしないでもらえますか」


 自分でも驚くほどに低い声が出た。一瞬ぽかんとしたノエルロードだったが、不機嫌なこちらの様子に素直にわかったと頷いた。だが、私を見る冷ややかな視線には変わりはない。まだなにか言いたそうだったが、気づかないふりをして彼から目をそらした。


「おなかいっぱい」


 ようやく全てを食べ終えたヤッタが、頭の上に飛び乗って羽繕いを始める。御飯分重くて首が痛い。


「ま、仕事の話はこんな感じ。どう興味持ってくれた? あとで面接日教えるから電話番号教えてくれ」

「はい。えっと」

「アンスール! ここにいたのね!」


 突然背後からかけられた声に振り返ると、凶悪な顔をして腰に手を当ててこちらを睨むリアがいた。賞金首のリストにいそうな顔だ。私だけでなくノエルロードもその剣幕に思わずのけぞる。バランスを崩したヤッタが頭からテーブルの上に滑り落ちてきた。

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