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第七話 反撃は、規則どおりに行われる


 反撃は、夜に来る。


 怒鳴り声も、警告文もない。

 ただ、予定どおりに。


 それが、この国のやり方だった。


 星野の端末が鳴ったのは、午前二時過ぎだった。


「……来たわ」


 声は低い。

 眠そうではない。

 予想していた声だ。


「どこから」


「統制庁。正確には、その外側」


 俺はペンを止めた。


 雑居ビルの一室。

 紙と端末と、冷めたコーヒー。


 もう、ここが俺たちの“現場”だった。


「内容は?」


「公正連盟への調査要請。

 名目は――」


 一拍。


「資金の流れの確認」


 俺は、鼻で笑った。


「王道だな」


「ええ。

 正しくて、合法で、反論しづらい」


 星野は画面を操作し、

 調査文書を表示させる。


「期限は?」


「三日」


「短いな」


「圧をかけるには、ちょうどいい」


 俺は、椅子に深く座り直した。


「で、実際は?」


「問題はない」


 星野は即答した。


「でも、

 問題がないことを証明する手間が、問題」


 それは、

 よく知っている感覚だった。


「人を止めるのに、

 罰はいらない」


 俺は言った。


「手続きを重くすればいい」


「……そう」


 星野は、少しだけ唇を噛んだ。


「次は?」


「次は、

 内部告発者探し」


「つまり――」


「あなた」


 星野は、俺を見た。


 睨んでいるようで、

 確認している目だ。


「怖い?」


 俺は、少し考えてから答えた。


「……正直?」


「ええ」


「もう、今さらだ」


 それは強がりじゃない。

 現実だった。


 守る立場を失うと、

 怖さの種類が変わる。


「霧島」


 星野が、少し声を落とす。


「今なら、

 まだ引き返せる」


「できない」


 即答だった。


「だって、

 もう見ちゃったからな」


「……何を」


「書けば、変わるってことを」


 星野は、しばらく黙った。


 そして、

 静かに言った。


「じゃあ、反撃しましょう」


 その言葉は、

 怒りでも、宣言でもなかった。


 手順だった。


「方法は?」


「二つある」


 星野は指を立てる。


「一つ。

 向こうの調査を、

 “無意味”にする」


「書類で?」


「当然」


「もう一つは?」


 星野は、少しだけ間を置いた。


「先に、公開する」


 俺は、目を細めた。


「内部資料を?」


「正確には、

 “誰でも確認できる事実”を、

 誰もが確認できる形にする」


 俺は、理解した。


 そして、

 その危険性も。


「……面倒くせぇな」


「褒め言葉?」


「ため息だ」


 星野は、ほんの少しだけ笑った。


「あなた、

 本当に向いてないわね」


「何に」


「安全な人生」


 俺は、紙を一枚引き寄せた。


「じゃあ、

 書こうか」


「ええ」


 星野は、端末を開く。


「まずは、

 “前提”を一つ」


「どれだ」


「調査は、

 疑義があるから行われる」


「……」


「その前提、

 崩すわよ」


 俺はペンを走らせた。


 条文。

 定義。

 運用例。


 調査要件の成立条件。


 そして――

 調査対象者への事前説明義務。


「……ああ」


 思わず、声が出た。


「これ、

 書いてないな」


「でしょう?」


 星野の声が、少しだけ弾む。


「書いてないなら?」


「書けばいい」


 二人同時に、

 同じ結論に辿り着いた。


 その瞬間、

 反撃は始まった。


 剣も、拳も、

 叫び声もない。


 ただ、

 静かに。


 世界は、

 また一つ、

 自分の“常識”を疑うことになる。


 たぶん――

 これは、

 もう止まらない。


 だが、それでいい。


 終わりじゃないから、

 歩ける。


 俺たちは、

 今日も一行、

 書き足す。


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