第3話
「本当に強い人は自分の負ける戦いをしません。自分の実力を理解していて、相手の実力をみる力があって、自分の得意な戦うところを知っていて、自分が必ず勝てるとわかっているときにだけ、戦うからです。
自分の力を大きく見せることもなければ、自慢をすることもありません。ありのままにそこにいつも立っているだけです。無駄な動きをせずに、無駄なことを考えたりしないで、そこにいます。きっと笑っていると思います。強い人は笑っているものです。いつも。なにがあっても大丈夫だよって言うような、そんな優しい顔をして」
「なにが言いたんですか?」
天井とにっこりと笑っている山城の顔を見ながら遠江は言う。
「私は遠江さんに勝てると思ったから勝負を受けたんです。負けると思っていたら、きっとなにかの拍子に、いつのまにかどこかに逃げていたと思います」
くやしい。
ぎゅっと手に持っている木刀に握りしめながら遠江は思った。
遠江のはなった必殺の突きは簡単に山城に受けられてしまった。
山城は自分の木刀で突きをはなった遠江の木刀を緩やかに絡めとるようにして、受けながら、その力を受け流して、そのまま遠江の手首を持って、道場の床の上に投げ飛ばしたのだった。
こんなに簡単に負けたのはいついらいのことだろう。(遠江は道場ではある人いがいには負け知らずだった)
思わず遠江は床の上に倒れたままで泣いてしまった。
そんな遠江を見て、山城は思わず慌てた顔をした。
そんな優しい山城を見て、遠江はまたくやしくなって久しぶりに自分のことが嫌いになりそうになった。
「一本。とても綺麗な背負い投げだったね」
そんな二人にとっても優しい声で誰かが言った。
その優しい声を聞いて二人とも声のしたほうを急いで振り返って見ながら驚いた。
山城はその声の人の気配に気がつくことができなかったから。
遠江は、それが大好きな若様の声だったからだった。




