第1話 はぁー。お腹がすきました。(悲しそうな顔をしながら)
山城絵日記
はぁー。お腹がすきました。(悲しそうな顔をしながら)
「たのもー」
そんな可愛らしい声が門の向こうから聞こえた。
「はい。どなたですか?」
そう言ってちょうど道場のお庭の掃除をしていた遠江が門を開けると、そこには一人の小柄でとても可愛らしいお人形さんみたいな少女がいた。
遠江と同じ十六歳くらいの少女。(背は遠江のほうがずいぶんと高かったけど)
美しくて長い黒髪を白い紐で頭の後ろでまとめていて、(なんだか猫のしっぽみたいでとっても可愛かった)大きな猫のような瞳はじっと遠江のことを見つめている。
背筋は伸びていて、とっても姿勢が良くて、桃色の着物を着ていて、葡萄色の大きめの袴をはいていた。足元は白い足袋と赤色の紐の草履だった。
そして、その腰のところには、その少女が使うには少し大きめの『とても美しい色の鮮やかな桃色の刀』をさしている。
まるで芸術品のような、ぱっと見ただけで名刀とわかる刀だった。
その美しい桃色の刀と、その少女の隙のない(体の軸がぶれていない)立ち姿を見て、都一の剣の道場の門下生である遠江にはこの少女がすごい腕のある剣の使い手だとわかった。
遠江がじっと少女を見ている間、少女はなにも言わずにずっと遠江のことを見つめていた。
空で鳥の鳴き声が聞こえる。
その声を聞いて(いつのまにか少女の雰囲気に吸い込まれるようにしていた)はっとして我にかえった遠江は「あの、なにかご用ですか?」と少女に言った。
すると少女はあどけない顔でにっこりと笑って「はい。道場破りにきました」と優しい声でそう言った。




