無題 おそらくはただの鼠
昔、花粉症に悩む知人が「花粉が舞う頃になると目が見えにくくなる」と申しておりました。免疫系の病気には似た様な話がありまして、私も、具合が悪くなるときの前兆で、物が見えにくくなった後で喉や歯茎が腫れてみたり手や足の痛みなどが「始まる」という経験を何度もしております。私の場合は皮膚筋炎ですから、瞳孔の筋肉が影響を受けているのではないかと思うのですが、同じく免疫が介在するギラン・バレー症候群では、こちらは神経が影響を受けて視力に問題が生じるそうです。つまり、免疫の関わる病気には「よく似た話」が付きまとうのです。いえ、昔から私、やれ花粉症だ黄砂だと、「何かのアレルギーだ」と言っては春先や梅雨頃にかけて頻繁に体調を崩しておりました。医師の方たちは、こういう中から真実を拾い上げる作業をしているんですね。
免疫抑制剤を飲む様になって、私は長年続いた腰背痛や喉の腫れを体験しなくなりました。それでも、相も変わらず「物が見えにくくなる」という違和感を強く覚える事がありまして、そういう時は、歯茎の痛みが始まってみたり、皮膚が痒くなったりという事が始まります。つまり、私が体験してきた様々な異常は皮膚筋炎に由来する「症状」だったのです。私は、こうやって自分の体調の異常を整理してとらえる様になりました。朗報と言うべきか、近頃では、この目の異常の原因らしいものにも辿り着けました。退院直後より、目に違和感を覚えて頻繁に眼科を受診しておりましたが、「ようやく」と言うべきなのか眼圧の軽度な上昇が確認されまして、緑内障治療薬の使用を開始したところ、一年に渡って続いていた目の違和感が改善し、明らかに物がよく見える様に成りました。直接の原因は不明ですが、現象は眼圧の異常で説明が出来たのです。なにはともあれ、色々ありましたが、「死にそう」に感じる辛さはすっかり無くなりました。
日本では殆ど見かけませんが、海外ではウサギを捕獲する鷹狩が盛んな地域があって、オオタカやハリスホーク、アカオノスリが活躍します。いずれも体格のある雌です。今の世の中なら、SNSや動画投稿サイトを通じて、実際の様子を視聴する事が出来ます。いえ、猟果の数や捕殺の瞬間を捕らえた映像を見ているだけなら「すげえ!」でお終いなのですが、よく見ると、鷹の指にテーピングが施されているなど、負傷した鷹の映像を見付ける事があります。ちょくちょく、見付けるのです。ものによっては明らかな骨折であったり、おそらく獲物に頭部を蹴られたのだと思いますが、目を回した鷹の瞳孔が散大している様子が間近で撮影されていたりとかですね、かなり衝撃的な映像が世界中にばら撒かれております。
私自身、こういう光景に心当たりが幾つもありまして、なんなら自分の所有する鷹で治療を行った事があります。私の場合、怪我の犯人はウサギではなくヌートリアです。水辺に現れる狩猟鳥獣で、ウサギに似た大型のげっ歯類です。何羽かそういう事があったのですが、中でも「やじろべえ」と呼んでいた雌のオオタカが再起不能レベルの足の怪我を負った原因と成ったのがヌートリアでした。この鷹、5ヵ月もかけてある程度まで回復したものの、その時の怪我が原因で発生した二次的な損傷により安楽死を決意しなければならなくなりました。基本は「ヌートリアなんか捕らせたらいかん」、それに尽きるという話です。
とは言うものの、私、ヌートリアを駆除したくてたまらないのです。捕まえるのを楽しみたい訳でもなければ、食べたい訳でもありません。連中が増えた所為で、フィールドから他の生き物たちが姿を消してしまったのです。外来生物の侵入による遷移です。今さらですが、かつて狩猟鳥獣であったバンという鳥は、この生き物の姿を見かける様になった途端、数年でフィールドから姿を消しました。草は無くなるし、地面は踏み固めてしまうし、食害だけでなく糞尿の影響もあるのか、水の中に見かける生き物たちまで変わってしまいました。連中の住み着いている水路の中には、臭いでそれと分かる所もあります。アメリカザリガニやミドリガメみたいなものですが、「あの生き物さえいなければ」自然の様子が大分変わるのです。いえ、かつて鴨たちを見かけた場所は、今では何処に行ってもヌートリアたちの楽園です。天敵に当たる動物が、日本には居ないからだと説明されております。
私の知るヌートリアは、キャベツ畑に侵入してキャベツを丸かじりする悪魔ども、たわわに実った稲穂をむさぼる害獣です。全体に植物食のイメージが強いのですが、水田地帯の真ん中にある、私がウェーダーを買いに行った釣具屋には、「ヌートリアが入ってくるので必ずドアを閉めて下さい」と店の入口から店内から、どこぞの怪談でも思い出したらいいのかというくらい何枚もベタベタと貼り紙が貼ってあります。店員に聞くと、釣り餌にする貝などが食べられてしまうのだそうです。なるほど、生き物の大きさを考えたら甚大な被害です。ヌートリアの巨体は、雑食によって維持されているのです。
実行性を考えたら、ヌートリアの捕獲は、鷹を使うよりも箱罠を設置した方がよほど安全で有効です。しかし、こちらは免許の取得や、猟期以外なら有害鳥獣駆除の許可申請が必要で、駆除に至るまでのハードルが高くなります。そして、片っ端から駆除しようと思ったら、罠の設置数は相当なものになります。「巣穴が道路を陥没させる危険がある」とか、具体的な被害があれば、「そこだけ」行政の方で対応してくれるかもしれませんが、「見かけたから駆除する」という訳にはまいりません。鷹を使う利点を考えたら、その場で捕まえられること、鷹をいじれること、鷹の世代サイクルが短くなる可能性が高いことが上げられます。私が何年も生きない事を考えたら、何年も鷹を飼わなくて済む、そういう鷹の使い方も「あり」かなと思ってしまいます。もちろん、そんな鷹を使い潰す様なやり方はするべきではないとも思うから、悩むのです。もっと言ってしまえば、意外にも使える様に成った鷹をヌートリアなんかに突っ込ませたいとは思いません。「捨て駒」みたいな酷い癖の強い鷹でもなければ、ちょっと使う気にならないのです。海外の兎猟の動画を眺めながら、私は悩みます。あの鷹たち、どれくらいの間使えているんでしょうね?
――――――しかし、ヌートリアを見かけなく成ったら、その場所には鴨が入る気がする。
結局のところ、鷹というのは鴨くらいを捕らせるのが「ちょうどよい」生き物で、鷹狩はそういう自然が「まとまりよく」残っていることで成立する遊びらしいのだと、思い至るのです。ヌートリアの侵入は、そういう事を自覚させてくれます。十年一昔とは申しますが、ちょっと前の「昔」に見たその光景を「もう一度」見てから死にたいと思うのは、私の贅沢なんでしょうか?
いいえ、以前から悩みに思っていた事で、「もう実猟は卒業にしよう」と、そんな事を言ってはいたのです。「もう、この鷹で最後にしよう」と。それくらい、私の住む田舎ですら環境が変わりました。「この鷹」というのは、真砂であり薬研の事でした。病気さえ見付からなかったら、予定が色々と変わらなかったら、そうしていたかもしれない未来もあったのです。悩みは尽きません。
私は子ヌートリアと呼んでおりましたが、初めの頃、連中がフィールドに侵入してきたばかりの頃はまだ小さくてそれ程の大きさに見えないのですが、育ち切った親ヌートリアは、タヌキの大物か、何頭か集まればイノシシが徒党を組んで歩き回っているみたいに見える様に成ります。とうてい、鷹でどうこう出来る大きさではありません。親ヌートリアの寿命がざっとで2年、子ヌートリアを片っ端から駆除していったら、鷹を損なうこと無く数年で何とか成る?うん、よっぽど酷い鷹でなかったら、土壇場になって投げられない自分がいる。そんな未来しか見えませんね。
参考文献
愛知県, 特定外来生物について ヌートリア, https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/490522.pdf
次回投稿予定日時は、2026年03月28日 18時00分です。




