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捜鷹記  作者: 檻の熊さん
15章

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無題 おそらくはただの運

 「命がいくつあっても足りない」と申しますが、私の経験した皮膚筋炎という病気は「命がいくつか()()()足りない」という性質のものでした。つまり、(ふた)を開けてみたら「一万人に一人くらい見付かる」病気で、そんなに診察した事のある医師がその辺に居るという病気ではなく、自己免疫性疾患という性質上、一般的な血液検査の数値が全て正常値を示す――――――ところが、その患者が死ぬのです。皮膚筋炎における間質性肺炎の増悪(ぞうあく)は、患者自身に自覚症状を与えないので、患者は生前に「苦しい」とは言わないし思わないしで、「いつも通りに」夜寝て、朝に成って窒息しているのが見付かると言われます。ループ(もの)の主人公にでも成ったつもりで謎解きをするのであれば、これは「初見殺し(しょけんごろし)」と言われるもので、主人公は死亡後セーブポイントまで戻って「なんで自分は死んだんだ!?」と情報収集を始める事でしょう。いえ、周囲にある病院の医師が役に立つかどうかという話から始まって、「何処の病院に行ったら良いのか」「何をどう伝えて調べてもらったら良いか?」、てんで見当が付かないで、トライアンドエラーを繰り返さなかったら、「診断」に辿り着けないはずなのです。実際の話、患者本人がゲームのプレイヤーだとしたら、体力的な制約がありますから、生前に何回も謎に挑戦出来るはずもなく、何度も「死に戻り」して「真実」に近付いて行くしか方法が無いんじゃないかと、私自身が今でも思っております。あれから一年が過ぎてつくづく思うのですが、どうして私は、家で寝ていただけだったのに、膠原病の専門医の所に辿(たど)()けたんでしょうね。強運とか豪運とか、あるいは「運を使い果たした」とか、そういう性質のイベントでした。


 猟期も終盤ともなれば、鷹の方はすっかり出来上がっておりますが獲物がおりません。私は、以前は早朝に車で連れ出しては猟野付近で飛ばしていた飛梟(とび)を据え出して、かなり明るくなってからの時間帯に動物病院の前で飛ばす様に成りました。海の近くの事とて、いつまで経っても強い風の日ばかりが続いております。建物に当たった風、さらにその強さを増すので、建物の前とは風速10メールにも成る風が、ざらに吹き荒れる難所です。

 いちおうのルールとして、鷹には屋内から据えて出たら車まで連れて行き、いったん箱に入れてからもう一度出して、それから飛ばす様にしております。いいえ、鷹というのはショートカットをよく覚える生き物で、ある程度の順番を守らせる習慣を付けておかないと、箱に入る代わりに吹っ飛ぶ勢いで「いつもの場所」に向かって飛んで行ったりする様に成るのです。あくまで、「箱に入れられて」「連れて行かれて」「そこで食べる/実猟」という習慣を定着させたくての、操作手順です。

 箱から出された飛梟(とび)は、やる気も満々に「いつもの場所」に飛んで行こうとしますが、そこは爆風が吹きすさぶ難所中の難所です。満足に止まる事も出来なくて、家々の屋根の上を流され、国道の方に飛んで行くのが見えます。まあその、既に初速の時点で速すぎたんでしょうね。スピードが殺せません。鷹の方で、私の姿を見失うかしてしまえば、風に流されて(はる)か向こうの山までだって吹っ飛んで行くかもしれない風です。なんだか、遠くの方から強風の中をカラスどもが集まって来るのが見えます。あの辺に鷹が居るらしい。(うち)からは、かなり離れております。

 しばらく待って、さすがに風も強いですから、迎えに行こうかと病院前の道路をテクテク歩いて行くと、町内放送のスピーカーが設置してある鉄塔の上に鷹が現れました。ものすごい高所です。風が強い様子が、鷹の翼の使い方から分かります。「風の音に()き消されて、音なんか聞こえるのだろうか?」と思いつつも、試しに餌合子(えごうし)で呼んでみると、躊躇(ためら)いながらも頑張って強風の中で姿勢を(ととの)え、真っ直ぐに鷹が道路を挟んだこちらまで帰って来ました。三角定規の一番長いラインに当たる部分を、飛んで帰ってくる感じです。距離にして100メートルくらいは平気であるくらいですね。私は、飛梟(とび)でもう一猟期頑張ってカルガモが捕れるところまっで持って行ってみるべきか、それとも雌の鷹を導入してヌートリアでも狙ってみるか考えながら、鷹を屋内に仕舞いました。

 いいえ、鷹の購入とはすなわちガチャです。思ったような鷹に育つとは限りません。一番楽しいのは、悩んでいるときくらいなものです。

挿絵(By みてみん)

ハヤブサを見付けたら、手元に鷹を急いで呼び戻してその場を去ります。とにかく危ない鳥で、鷹が殺されたりします。


次回投稿予定日時は、2026年03月21日 18時00分です。

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