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捜鷹記  作者: 檻の熊さん
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入院前7

カモを捕った。

 「ヌートリア事件」の後、まず行ったのは鷹の治療と休養です。もちろん、私の右手は満足に箸も使えないほど痛みを放っていたのですが、そんな事はどうでもよい。抗菌薬の内服と創傷保護剤による創面の被覆、縫合は不要━━━━━━それだけ確認したら、毎日飛ばしながら鷹の気力や患部の熱感、足の挙上の様子など、経過を見て過ごしました。

 以前にいた雌のオオタカ「やじろべえ」が、もっとズッと小さな子ヌートリアを捕ったときは、ほぼ眼前の陸上で水際立った捕獲とトドメと据え上げが出来たにもかかわらず、縫合が必要で治癒までに3週間近くかかった経緯を考えれば、まるで軽症で、おそらく金属性の足環が鷹を守ったのと水上に居た所為で親ヌートリアも思ったほど達者に鷹を攻撃する事が出来なかったのでしょう,一週間ほどで真砂はさっさと回復してしまいました.


 体の不調の話はあったのですが、私は考えました。「真砂にカモを捕らせたい」。渥美半島と言うよりも、三河地方の狩場は年々絶望的な状況に成っておりまして、河川の浚渫工事や大型商業施設の建設など、もうどうにも成らない理由でカモたちの居た場所が消えて無くなってしまいました。渥美半島なら、まだカモは居ない事はないのですが、先日のヌートリア事件のように昔のような環境は既に昔日の思い出の中にあるだけです。「そうだ、○○市に行こう」、思い立ちました。折しも正月休みの頃であり、年末にかけてそっちの方で高病原性鳥インフルエンザにやられた養鶏場が出たと報道があったのです。つまり、フィールドが無人化して「誰も鷹狩に来ない場所がある」。予防の為、専ら対象はカラスでしたが、真砂には既に抗インフル薬を常用していたので、なんなら鳥インフルの野鳥を見付けてもいたので、「いまさら」です。恐れる必要はありません。

 車での移動は片道二時間ほど、必ず渋滞を経験する蒲郡市を通過しなければならないのが痛いですが(本当は、この町にも昔はカモを見かける川がたくさん有ったんですがね?)、とにかく、移動して、移動して、矢作川を越え目的地に到着です。毎年一度は鷹狩に出かけていた場所なのですが、「楽園」、他に形容のしようが無いほどあちこちを走る細い水路に、ほど良くカモたちがばらけて入っている水田地帯です。適当のその辺を走り回り、あらかじめカモの入っている水路を確認して、鷹を出します。へたな場所で鷹を出して、カラスどもに気付かれてしまうと、大騒ぎになって獲物がみんな逃げてしまうので、気付かれぬように素知らぬ顔してその辺を探して周り、最短ルートで獲物に近付いてサッと投げてサッと捕るのです。なにしろ、真砂の場合、獲物を捕るのにしくじっても空中でターンしてサッと帰ってまいりますので、静穏的に周囲に影響を与えまくる前にパッパと移動してしまえるのです。

 一投目カルガモ。細い用水路に10羽近く入っていたのに近付き、声をかけ、空中高く棒立ちしたものを「立たせて捕る」。鷹狩りの教本のような綺麗な空中での捕獲、そして据え上げ(獲物と口餌を交換すること)。

 二投目ハシビロガモ。良い感じに寄せて立たせるも、予想よりも高く上がってしまい鷹が追いつけず、空中でターンして手元に戻る。次の場所へ。

 車を走らせていると、水田地帯、つまり陸上に集まってハトの群れの様に成って落ち穂をついばんでいたコガモの群れが一斉に水路に避難したのが見えました。真っ直ぐに近付いて行く事をしないで、離れた場所に車を停め、足音を殺して鷹を据えながら水路に近付いて来ます。細い水路です、連中はギリギリまで息を殺してジッと隠れ、パッと飛び立って逃げるしか道がありません━━━━━━はたして、予想通りの棒立ちです。その中で、一番高く上がったコガモに向かって鷹を放つと、そのまま空高く追いかけて行き、空中でこれを捕らえ、対岸に獲物と共に降りました。静謐な瞬間です。私は、美しいものを見ました。


 この時の鷹狩行は、あらかじめロキソニンを内服した状態で出かけ、「薬が効いている間に」行って帰ってくるという事をしました。とうてい薬が効いている状態でなければ、車のハンドルを回す事ができなく成っていたし、「据え上げ」が出来そうもなかったからです。事実、この4日後には、とうとう据え上げが出来なくなってしまい、その年の猟期の実猟を諦めてしまいました。これが、事実上私の「最後の鷹狩」だったのです。


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