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捜鷹記  作者: 檻の熊さん
14章

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よしなしごと 振り鳩

 昔は「数奇者(すきもの)」と言ったそうですが、好事家(こうずか),つまり趣味人(しゅみじん)のことです。「鷹数奇」は「鷹が好き」。諏訪流初代であるところの小林家鷹(こばやしいえたか)という人は、この鷹数奇で、職業として鷹匠をやっていた人ではなかったらしいと、資料を読んだら書いてありました。読んでみた理解だと、社長のゴルフに駆り出される社内のゴルフの上手い人といった所か、ちゃんと別に仕事を任されていた上での「鷹」だったらしい事が分かる。どうやら、諏訪流初代は後代の人の後付けという事になるのか、生前に本人が諏訪流初代を名乗ったわけではないらしく、物好きが高じてその道の大家(たいか)というか流派の開祖になっちまったか、されちまった人とも読めます。意外なところで、(もっぱ)らハイタカを使った人だったのだろうかとか、獣医の様なことをした人だったともあります。なんと申しましょうか親近感の湧く有名鷹匠です。この人、生涯「鷹を切らしたことが無い」とも読める書簡を残しているので、死ぬ間際まで身近なところに鷹が居た人だったのかもしれません。私も、そういう路線で行きたいところですが、願い叶うのでしょうか?


 私が、長い間やってみたかったけれど、とうとう満足に出来なかった技能に「振り鳩(ふりばと)」があります。元々の振り鳩(ふりばと)は、忍縄(おきなわ)という(ひも)の先に羽毛をむしるなどして用意した「鳩」をくくりつけ、呼子(よびこ)を吹きながら振り回して鷹を呼びます。この「鳩」というのは、シラコバトという小さな鳩を用いたことになっています。だいたい200gくらいの鳥で、キジバトと同じくらい、レース鳩が300gくらいです。参考までに、体格のあるオカメインコやウズラが100gです。いわゆるドバトはカワラバトのことで、その昔に伝書鳩が野に放たれて野生化したものの子孫という事になっております。現在のレース鳩も伝書鳩も同じ様な物という認識でおりますが、レース鳩は系統が維持されている体格の大きな鳩で、カワラバトの方がひとまわり小さいと感じます。シラコバトは、これらよりももっと小さな鳩です。

 私の皮膚筋炎という病気の「心あたり」は10代の後半くらいから始まるのですが、表面化した問題として突きつけられたのは50代に入ってからです。私が「振り鳩(ふりばと)」を教わったのは30代の中頃(なかごろ)の話ですが、「ふり返ってみると」、私が振り鳩(ふりばと)をあきらめた理由は筋肉や関節の痛みでした。昔はシラコバトを使ったそうですが、そういう鳩は売られていないので、現在の振り鳩(ふりばと)で実際に使うのはレース鳩です。300gほどの物体です。これを(ひも)に結んで振り回します。渾身(こんしん)(ちから)で、ものすごい勢いで回転させたりはしません。ちゃんと鷹が視認(しにん)出来るように、それなりの回転で(もっ)て鷹に鳩を「見せて」呼びます。パフォーマンス的には、空高く投げられた鳩を空中で捕らえさせると会場が()きますが、実際の振り鳩(ふりばと)は、鷹匠の頭上(ずじょう)でふんわりと鷹に捕らえさせる感じで、難易度の低い狩りをさせたらそれで問題ありません。技能として猛烈に難しいという事は無いのですが、私、これを実施すると翌日から猛烈な「筋肉痛」に見舞われてしまい回復に1週間を要しました。いえ、それ以前に、振り鳩(ふりばと)を行う最中に、膝関節に強い痛みが発生してしまい、どうにもよろしくなかったのです。膝については、左脚を骨折したことがあり、その後遺障害なんだろうと(なが)らく思っておりました。本来なら毎日だって行う必要がありますから、この様な有り様(ありさま)では鷹に振り鳩を教える事は出来ません。

 実はこの「筋肉痛」の話、「初めて」は私が学生の頃、10代後半まで(さかのぼ)ります。当時、大学に入学したばかりの頃、大学にも体育の授業がありまして「ストレッチ」をやっております。高校の頃にも体育の授業はあったのですが、「何がどう違うのか」猛烈な「筋肉痛」を体験しまして、回復に1週間ほどかかっております。周囲を見渡してもそこまで(ひど)かった学生はおらず、跛行も顕著(けんちょ)で、当時は「受験勉強でなまっているな」と思っただけだったのですが、体育の授業は毎週行われたので、回復が追い付かず、何も出来なかったときがあったほどでした。いえ、当時は運転免許を取得していなかったので大学まで歩いて通っていたのですが、ひと月も()つ頃にはちょっとえらい事に成っていたのです。その後も()たような話があり、例えば北海道暮らしの際の除雪がそうですが、私はとにかく肉体労働を避ける様に成ります。一度発生した「筋肉痛」は、並大抵(なみたいてい)のダメージではなかったのです。今なら、免疫担当細胞から常時攻撃を受けている筋肉を「いじめる」と、容易に筋肉の損傷が発生してしまい、これが修復されないで症状が続くという背景が説明出来る訳です。当時は、「惰弱な!」と言う人間はいても「おかしい」と思う人間は一人もいなかった、「その程度」の異常だったからこそ、長い間「普通の暮らし」を続けてこられたのでしょう。

 当時の話、300gもある鳩が重いから出来ない/おかしくなるのだのだと思い、重さ(おもさ)(うち)に入らないルアーを振って「振り鳩(ふりばと)」とすることも試しました。ところが、同じ様な異常が現れてしまいました。結論を言ってしまえば、徒手空拳(としゅくうけん)で、自分の手足を振り回していれば、その労作(ろうさく)で手足の自重で、「痛くなる」のです。鷹をやっている仲間からそう言われたことはないのですが、「ひ弱な」とか「根性が足りない」とか「わがままだ」とか、言われて当たり前な話だと思っておりました。さらに、こちらは異常を感じた時期を明確にすることは出来ないのですが、振り鳩(ふりばと)の際に呼子(よびこ)つまりホイッスルを吹いていると、「めまいがした」ことが何度もありました。「今考えたら、間質性肺炎の影響だったのだろうか」と、指摘することが出来る異常です。つまり、「肺活量が足りない」「すぐに息が上がる」とか、そんな感じです。鳩を振り回しながら笛を吹き鳴らす行為が、いかに無理のある労作(ろうさく)だったか、人生今頃(いまごろ)になって理詰め(りづめ)で理解出来たのは「よかった」と言うべきなのでしょうか。


 知っていると知らないでは大違い。技能としての振り鳩(ふりばと)は実施出来なくとも、その技法と鷹道具は便利なものでした。時々ある話ですが、鷹を拳に呼んだ際に、呼餌(おきえ)をつかんだ鷹がそのままスポ~ンと持ったまま飛んで行ってしまうことがあります。それでも、その辺で食べていたらそれまでの話だったのですが、何を思ったか人跡未踏(じんせきみとう)で侵入不可能な(やぶ)の中にそのまま潜ってしまい、呼んでも姿を見せません。そんな時、忍縄(おきなわ)の先に生き餌を付けて(やぶ)の中に放り込み、そのまま引き釣り出すと「鷹が釣れます」。そうやって、その昔こばん(こばん)という鷹を回収したことがあります。他にも、ルアーを地面に放り手元に向かってたぐり寄せていると、高所(こうしょ)にいる鷹が地面に降りてきてくれたりします。いえ、高所(こうしょ)というのは鉄塔のほぼ頂点です。私はそうやって、さんご(さんご)という鷹を回収しました。鷹たちが行方不明になった時に、たくさん猫を「釣った」のも、この方法でしたね。今では懐かしい思い出となった鷹ばかりです。

 「振り鳩(ふりばと)」というのは、本来なら生き餌を使った技法ですが、鳩自体の流通がないので、ルアーによる代替(だいたい)は以前より行われておりました。今では「振りルアー」こそ「振り鳩(ふりばと)」であると、そういう時代です。内容に貴賤(きせん)を問うのは如何(いかが)なものかと思いますが、本来であれば獲物の心臓を報酬として鷹に与え「据え上げ」まで行っての「振り鳩(ふりばと)」でしたから、どうしても所作の中に異物感と言うよりも手抜き感が混じるのは、やむを得ないことなのかなと思います。いいえ、むしろ綺麗な動作でみなさん鳩を振っているその姿を、私は何度も見てまいりました。もちろん、ルアーでもいい。私はその姿を見て、「うらやましい」と思っておりました。

挿絵(By みてみん)

キジは、猟期が終わるとよく見かける様になる鳥です。


参考文献

福田千鶴, 豊臣秀吉の鷹匠とその流派, 鷹・鷹場・環境研究. 4, pp.57-70, 2020

小峯昇, シラコバト, Bird Research News Vol.13 No.11, 2016


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