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捜鷹記  作者: 檻の熊さん
14章

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よしなしごと 策は杖にあらず

御存知ですか?猟期が終わると、売ってるチョコレートが白くなるんですよ。

 「いつ自分は死ぬのか?」、それが問題だ。容態が変わってすぐ死ぬときはあるだろうし、10年では足りないくらい長生きしている人もいる。私の病気はそういう病気で、個々のケースについて対応とはつまり「いじってみれば分かる」病気だという事です。ちょうど異動の時期で担当医が変わりましたので、「先生方にだって、これだけは分からんと思いますが…」と、自分がいつまで生きているかは分からないけれど、短命に終わって構わないから、生前の生活の質が維持出来る方向で治療を進めて行って欲しいと、言うべきことは言ってみたつもり。いやいや、ある意味、医師とは平気で嘘をつく人たちです。獣医の自分が言うのだから、間違いない。


 皮膚筋炎の影響で、手の平や足の裏を構成する骨の周囲の筋肉が痩せていて足りてない。この所為(せい)で、歩いていると筋肉が足の構造を支えきれないで骨が音を立てて鳴り、何日も足の甲の関節が痛くなるとか、そういう事が起きたりします。今だから「そういう事なんだ」と説明出来るけれど、以前は何でそう成るのか分かりませんでした。実は()んだりすると筋肉の損傷が(ひど)く成ったりするんですが、筋肉痛みたいに感じてそれをやり、なんならストレッチしてみたり、いじめて「鍛えようと」してみたりと、逆に悪化させていたことを知ります。つまり、私は杖を使って足の負担を減らし続けていないと、気が付いたら歩けなく成っていることのある、微妙な足の人だったのです。

 私の言う「杖」とは、片手杖(かたてづえ)のことです。松葉杖(まつばづえ)などの両手杖で歩く様になったら、人生いろいろ終わりです。要介護者への道を、まっしぐらに突き進むことでしょう。私の足が悪いのは既に10年以上の年季の入った話であり、退院後は杖の必要性が更に十二分に理解出来たので、鷹を杖に()らすことを考えました。既に以前より、鷹に杖を突いた姿を見せるなどして、問題無い事は確認していたのですが、鷹を()えているときには使った事がなかったのです。ところが、鷹を()えるのは左手なのですが、どうやら左手に杖を持って歩かないと足の負担が増す事が分かり、右手に杖で左手に鷹を()えてだと、私の足だとかえって危ない。さらに、右手をフリーにして足革(あしかわ)をさばくなどの操作を行う為に、自立型の杖という物も試してみました。残念ながら、私の住む土地だと吹く風が強くて容易に倒れてしまい、用を為さないことが分かりました。風の吹かない雪の積もる土地なら、そういう事が出来たかもしれません。


 気になって少し調べてみたのですが、昔の鷹匠は(ぶち)という杖のような鷹道具を右手に持ち歩いていた事になっております。しかしながら、この鷹道具は体重を預ける目的で使う道具ではなかったので、候補から外れました。以下、(ぶち)()()()()です。

 「策」は杖とか鞭という意味のある漢字です。実際の(ぶち)は、杖と言うよりは細い棒です。(ぶち)は藤づるで作ります。その昔、犬を操るのに使った狩杖(かりづえ)と呼ばれた物も藤づる製ですが、別の道具です。常時(じょうじ)手に持っていた訳ではなく、長短二本を帯などに差して持ち歩いた(よう)です。(ぶち)の両端それぞれには、ブラシのように成った先と鈍性に丸めた先があり、鷹の(くちばし)に付いた汚れを取り除いたり、鷹の()ずまいを整えるのに使ったと言われております。これは鷹の体に直接触れない為の工夫で、手に付いた汚れを羽毛に付着させない為にこういう道具を使ったと説明されています。他にも、獲物の体に穴を開けるのに使ってみたり、鷹を据えているときに足元に寄って来た犬をペシリと叩いて追い払う鞭としての役割もあったと記録されておりますが、現代では販売こそされているものの使っている人を見ないので、具体的なところがよく分からない鷹道具になってしまいました。ちなみに、東京都の新宿区にある「策の井(むちのい)」の「策」とは、この(ぶち)のことだと思います。徳川家康公は、この鷹道具を使いこなしていたようですね。「さすが」としか言い様がない。


 結局、私は鷹を据えているときは、(あらかじ)め薬を飲んで杖無しで歩き回ることにしました。つまり、一周して元に戻ったのです。代わりに、靴を選ぶ様になりました。高い靴とかではありません。量販店で売っている運動靴です。半分ギプスのような物ですが、足元の骨をまとめて支えてくれて、足への負担が軽減されそうな、そして重くない、そういう製品を選びます。なぜか、履くと足が痛くなる靴とそうでもない靴があり、購入後しばらくして足の形に靴が馴染んできた頃からむしろ痛く成る靴があるとか、分かってまいりまして、頻繁に靴を買い換える様に成りました。筋力低下の関係からウェーダーが履いていられなくなりましたが、実は靴底の問題からも「足が痛くなる」履き物にも成ってしまいまして、そちらの方でも駄目で、似たような靴底をしている長靴も「合わない」らしく、なんやかやであまり履いておりません。今の私の足には、運動靴が一番負担が少ないようです。

――――――かつて、夜中に起き出して、夜の水田地帯を1時間とか2時間とか、鷹を据えて歩き回れた日々が懐かしい。


 今では、UVカットが効いている所為(せい)もあり、助手席の鷹と一緒に水田地帯を徐行運転しながら巡るのです。歩かないで。むしろ車の運転をするだけなら「歩いて行くよりまし」、そういう身体能力になってしまいました。車の運転も出来なくなる頃には、本当に鷹をやめなければならないんでしょうね。

 いいえ、そういう事もあって医師に「あとどれくらい生きていられそうですか?」と聞いてしまった訳ですが、私だって検査の数値を見て、それが「当分」先の話だという事が分かっております。ある日呼吸が難しく成り、投薬しても反応が無ければ死ぬ、その日が今日来るか来月来るかという事を、「今は」検査や薬の調整をしながらドキドキしながら見ているだけが仕事なんです。その前にリンパ腫が活動を始めるとか、投薬の影響で臓器に異常を来すとか、他にも色々、あればそっちの方で死ぬ事もあるでしょう。患者が獣医師だと、医師の方も微妙に困っているのが伝わってまいります。

挿絵(By みてみん)

石鴨がいっぱい。


参考文献

花見薫, 天皇の鷹匠, 草思社, 2002

大塚紀子, 鷹匠の技とこころ─鷹狩文化と諏訪流放鷹術, 白水社, 2011

一般社団法人新宿観光振興協会, 策の井, https://www.kanko-shinjuku.jp/spot/-/article_354.html

鷹詞拾遺集,https://watavets2000.blog.fc2.com/blog-entry-1478.html

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