灌頂 据下とは体重のこと
投薬の影響から、私の味覚は駄目になってしまいましたが、減ったとはいえステロイドの量はかなりのものなので、美味しさは感じられなくとも食欲はあるのです。そして、普通の人よりも太りやすいのです。酒や煙草はやりませんが、夜蕎麦を止めるのが意外に難しい。
鷹の世界では据下と言いますが、体重のことです。「据下を量る」と言えば「計量」のこと。つまり、体重測定です。意外に難しいのか、計量に失敗している飼育者がたくさんおります。べつにインコとかでやってくれても構わないのですが、一般に飼育されている猛禽類は「体重を量りながら飼う生き物」です。今どき夜行性も昼行性もないので、飼育下にある猛禽類ならば、朝起きたら計量してもらって、その後に1日1回の餌を与えます。つまり、鳥たちのお腹の中に何も残っていない、排泄とペリットの排出を終えた後の一番「空っぽ」な時の体重を量り記録するだけです。
本当に「これだけ」なのですが、診察の時に飼い主さんが付けた体重の記録を見せてもらうと、私は微妙な顔をする事になります。なぜか、計量した鳥の体重が猛烈にバラバラなのです。餌量を一定にして、定時に与え、同じ様な生活をさせている限り、「同じ体重」が維持されるだけです。もしも、体重が増えたら餌を減らすし、減ったら増やします。そうやって、餌加減腹加減を整えるのが、猛禽類飼育の骨子なのです。本当に乱高下する体重をしているのだとしたら、それは「与える餌の量の調整がおかしい」ことになります。
計量の習慣化は、それほど難しくありません。朝一番に、「はかりの上に乗る」「乗ってから食べる」、あるいは「はかりの上でひとくち食べる」といった生活を習慣化させるだけです。これは、特に鷹ならば成鳥になってからでも教える事が出来るくらいの、難易度の低い調教です。フクロウ類ならば、今どき売られている鳥はハンドレアードが多いので、「朝になったら乗せる」という操作を習慣化させるくらいで問題無く機能する様に成ります。飼い主の方は、鳥を購入してきたら、そういう事を鳥たちに教えないといけません。
――――――この辺りが上手く行っていないと、乱高下する体重記録が出来上がるらしい。
つまり、食前もあれば食後もあり、なんなら水浴びの後の体重が記録されてしまっているのです。これでは計量の意味がありません。少なくとも、私の様な第三者から見てサッパリ分からない体重の記録です。「始めに調教ありき」という管理になるのは否定出来ませんが、偶然出来たはかりの上に乗ったときの数値を記録するのではなく、計量は「飼い主が」必ず出来る様に成らねばならない技能です。そして、鳥にとっては生活の一部として教えておくべきタスクです。なんらかの方法で以て「量りたいときに量れる」でなければなりません。私は、猛禽類の入院があれば、タカ・ハヤブサ・フクロウ、対象が野鳥であっても計量を行う様にしております。夜の静かな時間に暗所で行った方が良いとか、はかりは上皿はかりの平らな物ではなく、上に止まり木になった台を付けた方が良いとか、工夫が必要な事はありますし、「こうやって乗せる」といった技術を要求される場合はあるかもしれませんが、「出来ない」という事はまず無いつもりでおります。場合によっては、飼い主の見ている前でその人の鷹なりを使って「こうやる」という実演をする事すらあります。その様子を見た飼い主の感嘆の声を聞くにつけて、「はかり」を教える必要があったのは実は鳥ではなく人間の方だったと気付いたことが何度かあります。
これと似て非なるトラブルで、「決まった時間に決まった量の餌を与えていた」というものがあります。導入当初、ペットショップなどから聞いた給餌内容を、全く変えないで年余に渡って続ける飼い主の方がおります。ある意味几帳面な方たちに多いと思っているのですが、「とにかく、目の前にいる鳥を見てくれ」という話に尽きる、そういう事態が発生します。鳥というのは、周囲の温度、乾燥や湿気、運動量で、食餌の要求量が変わります。これらに、換羽や産卵といったイベントを加える事も出来ます。「いつの間にか太っていた」「いつの間にか痩せていた」、どちらもあるのですが、何があっても同じ量の食餌が与えられていた結果、その鳥が死んでしまう原因に成る事があります。もしも、毎日計量さえしていたら、こういうイベントは防ぐ事が出来ます。
最後に、「元気に餌をねだる鳥」「食欲のある鳥」の注意事項について述べて、終わっておこうと思います。鷹の行動が最も分かり易く顕著なので「鷹」で説明してしまいますが、他の鳥種でも同じです。病気でない「痩せた鷹」というのはつまり、「飢えた鷹」です。こういう鳥は、特にハンドレアードならば、給餌者の前でよく鳴き(「くれ~!」)、活発なパフォーマンスを示します。ペアレントレアードだと静かすぎて分からない事がありますが、普段近付きもしないのに人間の近くに寄ってくるなど、行動の変化は現れます。こういう行動を、「馴れた」「よく馴れている」「元気だ」「健康だ」と勘違いしている飼い主というのが、ちょくちょくおります。しばらくすると、「くれ~!」と叫んでいたその鷹は「最後の芯まで燃え尽きる」ので、やつれはてた鷹が「倒れた」とか「虚脱状態に陥って」来院するという事態に成ります。こういう鳥たちは、直前まで猛烈に元気です。ぐったりしてしまえば,もう助かりません。実際には、元気そうに見える「飢えた鷹」を助けるのが、獣医師が介入するべき「タイミング」で「仕事」です。見るからに死にかけた鷹は、助けられないので仕事に成りません。毎日の計量は、致命的な事態を回避します。




