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捜鷹記  作者: 檻の熊さん
13章

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灌頂 さぷりめんと

 水路に居るコガモの群れを見付け、道路脇に車を寄せて()めました。鍵を抜いて、余計な音がしないように気を付けます。農地の散水が、良い感じにこちらの気配を消してくれている様です。箱からわんわん(わんわん)を出し、直角に道路を横切り、水面をのぞきます。コガモです。敏感に反応して逃げたりしません。よどみない動作で、声をかけ、立たせ、鷹を投げる。何度も繰り返した動作で以もって、わんわん(わんわん)がコガモを捕らえます。この光景を見て、私は今季の実猟を終えました。


 誤解が多いのが「サプリメントの供給」です。元は、小鳥の飼育で行われていた行為で、「油糧種子(ゆりょうしゅし)ばかりを食べている小鳥たちへの栄養補充」という意味で始められました。油糧種子というのは、菜種(なたね)やヒマワリなど、油を()るための種子の事です。特に不足していると考えられたのがカルシウムで、この栄養素はビタミンDを同時に()ると吸収効率が上がるので、このふたつを合わせて与える事になります。いいえ、種子というのは玄米(げんまい)にあたる物ですが、鳥たちは皮を剥いて脱穀された「白米」の状態でそれらを口にするから「米ぬか」に当たるビタミンBが足りないなどと申しまして、こうした成分も()らせようと言われるようになります。他にもあれやこれや、「総合ビタミン」を小鳥に与える一種の文化が定着します。元は西洋の話であったと、理解しております。

 これと同じ事を、猛禽類で行う人たちがおります。「おかしいな」と思ったのであれば、それはむしろ「分かっている」人ではないかと思います。食性がまるで違う生き物なのです。昔々(むかしむかし)の動物園であれば、猛禽類に与えられていたのは鶏頭(けいとう)馬肉(まずい)のみという、訳の分からん食べ物だった頃がありますが、近頃はヒヨコを与える時代です。お金持ちならウズラを与えるし、鳥種によってはニワトリ1羽を丸ごと与える事もあるでしょう。常識が変わり、栄養学的な問題は随分(ずいぶん)小さなものに成りました。このような条件下で、小鳥の飼育文化からの外挿(がいそう)で「サプリメントの供給」の話が持ち上がるのです。


 結論を先に述べるのであれば、「一般的に飼育されている猛禽類にはサプリメントの供給は不要」です。コチョウゲンボウの様に見かける機会も無い特殊な鳥種には、あった方が良いのではないかとか、病鳥、繁殖前の一時期、育雛(いくすう)中の雛たちの一部に、サプリメントは必要なのですが、(ほとん)どのステージで「不要」です。

 世の中には「総合ビタミン」という物がありますが、これが特によろしくない。「適量が分からない」のです。実は「製品ごとに成分の構成比や含有量が違う」ので、何が○で何が×か、経験から線引きするくらいしか信頼出来る情報がありません。仮に、几帳面(きちょうめん)な飼い主の方が、ちっぽけな小型フクロウに「毎日耳掻き(みみかき)一杯」といった与え方をしていれば、1~2年くらいでその鳥は死ぬはずです。経験から、死ぬ事だけは分かっておりますので、「いかに被害を無くすか?」という部分にのみ(ちから)が注がれる事が多くなるサプリメントです。

 近頃ではブラッシュアップが進みまして、「総合」でない単独のサプリメントについてなら、「こういう物なら与えて良い」と言う事が出来ます。ただし、実際に入手可能な製品は、サプリメントと言うよりは薬として処方される物が主になる様で、一般の飼育者がその辺のペットショップやもしかしたらドラッグストアで人体用の製品を購入してきて使うという、お手軽な物ではなくなってしまう様です。


カルシウム

 卵の殻と同じ成分である炭酸カルシウムのこと。単独で大量に与えても、便と一緒に排泄されるだけなので害は無い。ただし、「○○カルシウム」とある様に、違うカルシウムがある。製品によって血液中への移行の様子が違うカルシウムがあるので、注意が必要。特にビタミンDと同時に摂取すると、血液中への移行が亢進(こうしん)してしまうので危険。ビタミンDは与えない。意外に思うかもしれないが、骨が柔らかく、よく「しなる」はずの若い鳥に与えていると、骨が硬くなってしまい、逆に折れやすくなる。本来であれば、ニワトリやセキセイインコの様な多産な鳥たちに与えるべき栄養素。成長期の短い期間くらいしか与える時期がない。


ビタミンB1

 チアミンとも。元々「水溶性ビタミンは無害」という事が言われていた時代があり、ビタミンB1は「ビタミンB群」という形で他のビタミンBと一緒に用いられていた。ところが、この中に含まれるビタミンB6(ピリドキシン) の過量供給があるとハヤブサやフクロウが死ぬことが分かってきたので、特に必要とされるビタミンB1が単独で猛禽類に与えられるようになった。「与える」というのは経口投与のこと。注射は、中毒とは違う別の問題を引き起こす事がある。体力の低下したロスト後回収した鷹の栄養補給に、病鳥の回復期に、脚気(かっけ)の予防に。意外に思うかもしれませんが、特殊な飼料供給をしていると、猛禽類でも脚気に遭遇します。日本人なら、フルスルチアミンを使うのを好むかもしれません。


ビタミンE

 同じ脂溶性ビタミンの枠の中にあるビタミンDと違い、おそらく有害事象が無い。換羽期や営巣行動を開始する頃にかけて与える事がある。


 実は「これだけ」なのです。総合ビタミンには色々な成分が含まれておりますが、何も残らないのです。そして、与える時季も微妙です。強いて言うならば、産卵前の営巣活動を始める頃の親鳥と、成長中の雛についてなら、短い間だけ栄養補充の意義が見いだせるのですが、一般の飼い主の方たちは、そんなステージの猛禽類を扱う機会が無いはずです。そして、今どき与えられている餌が「濃い」ので、おさおさ栄養上の失敗はありません。大昔の動物園の様に、何故か馬肉(ばにく)の塊がゴロンと与えられていたとか、一部の猛禽類の様に昆虫食で他に与える餌が無いとかであれば、サプリメント、特に総合ビタミン剤を与える意義が出てまいりますが、それは今どきとても珍しいことになると思います。傾向として、フクロウ類の飼い主>ハヤブサ類の飼い主>鷹の飼い主という順に「サプリメント信仰」がある様です。ちょうど医者が酒飲みの患者から酒を取り上げるみたいに、飼い主のみな様にサプリメントを使うのを止めさせるのが「私の仕事」です。

挿絵(By みてみん)

参考文献

猛禽類治療マニュアル2024,KDP,2023


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