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捜鷹記  作者: 檻の熊さん
12章

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みかんと鷹

 鷹狩の帰り道に、みかんを買って帰ってくることがある。つまり、直売をやっている農園があるのです。土地柄か、地域ブランドのみかんというのがありまして、いくつか売られております。伊良湖みかんとか保美みかんとか、農園ブランドとでも言うのか、自分の農園の名前で売っているところもあります。価格も違えば大きさも違う、皮の硬さや味、香り、販売の時期の違う物もありますから、多様性に富んだ品揃えです。


 私がよく利用している直売所は、背後には鬱蒼(うっそう)と茂るみかん畑が控えている、かつてのカラスの楽園でした。いいえ、その周辺が見渡す限り農地だった頃があったのです。近所に養鶏や畜産をやっている農家があり、農地には堆肥(たいひ)鶏糞(けいふん)がまかれ、そういう場所を行ったり来たりしながらカラスたちが餌稼ぎ(えかせぎ)をしている。そういう場所がたくさんありました。今では見かける事も無くなった「カラスの畑」が、無限に広がっていたのです。いつ頃からだったか、その農地を縦断する形で道路工事が始まりまして、明らかな「分断要因」と成る盛土(もりど)の道路が出来上がる頃には、餌場となる農家と農地が完全に遮断される様になります。つまり、「向こう」が見えなくなった上に、農地からとても高い高度まで舞い上がらないと堆肥(たいひ)のある農家まで辿り着けない場所に成ったのです。風の無い地域なら違ったのかもしれませんが、当地だと毎日強風が吹き続ける冬があるので、鳥たちが利用出来る空間が狭くなってしまった訳です。

 私の知る限り、その場所の「命日」は、野生のオオタカによってカラスが捕殺されている現場に出くわした日でした。生息圏が(せば)まった関係で、カラスの群れが山林側に移動する様に成り、ある日オオタカに仲間が捕らえられてしまったのです。私は、偶然その場所を通過した際に、カラス達の騒ぎ具合からそれを知りました。つまり、畑のど真ん中で、うちの鷹がカラスを捕らえたときと似た様な騒ぎが起きていたので、まさか誰かの鷹が何か捕ったのだろうかと、見に行ってみたらカラスと格闘している野生のオオタカが居たのです。これが最後のキッカケになったのだと、思っております。以来、その周辺で大きなカラスの群れを見ることは無くなりました。道路工事は今も続いておりますが、今となっては、わずかに農家の敷地内にある堆肥(たいひ)置き場に少数のカラスを見かける事があるくらいで、すっかり周辺から鳥という生き物を見ない場所に成りました。


 私が直売をやっているみかん農園を見付けたのは、まだカラスがたくさん居た全盛期の頃です。なぜか、周辺一帯、農地にも農家周囲にも、何も見あたりません。そういう日がありました。当時は、近所にキジの出る(やぶ)がありまして、猟期になると狩猟者の方たちが犬を入れている光景を見たことがありますが、その場所も不発、本当にやる事が無くなり、帰路に()こうとしました。そこで、ふと思いついて、農地から見て県道を挟んだ向こう側にも農地があるのを思い出したのです。いえ、思い出すもなにも、「そっち」を見れば農地が見えます。「見に行ったことの無い場所だったな」と思い、帰り道は何となくその農地の辺りを適当に巡りながら通過してみました。

 結局、何も見かけなかったのですが、ある場所に近付いた途端、異変が起きました。私はその近くだけでなく、少し離れた場所にある池やら水路やら、おそらく連中の生活圏である場所で、かなり悪さをしておりましたので、カラス連中にとって私と私の車は逃走中の指名手配犯が眼前を通過している様なものです。一見したところ耕作が放棄されているみたいに見える、古いビニールハウスがありました。中には木が生い茂っているのが見えます。ビニールも残ってはいるのですが、そこいら中で破れて用を()しておりません。その(わく)だけに成ったビニールハウスだか林だか分からない茂みから、一斉に黒い鳥たちが飛び立ったのです。空が真っ黒になる勢いでした。なんだか、狂騒状態と言うよりはパニックに成っている感じです。私は、連中からどれだけ恐れられていたというのでしょう?よ~く見ておりますと、カラスの中にやけに大きな黄色い物体をクチバシにブッ刺したまま飛んでいる連中がいます。1羽や2羽ではありません。その場所は、元はハウス栽培のみかん畑だったのです。車を回して周り混んだところ、私はそこでみかんの無人販売を見付けました。いえ、カラスどもが持ち去っていったみかんの数を見たら、圧倒的に少ない(つつ)ましやかな販売量です。

――――――ひと袋なんと200円。

 私はその時、何とも言えない哀れな気持ちに成って、200円を賽銭よろしく料金箱に投入してみかんをひと袋持って帰りました。意外にもそのみかん、香りが強くジューシーで、ちょうど絞りたて(さわ)やかオレンジジュースみたいな、飲み物的な美味しいみかんでした。以来、私は時々その無人販売所で鷹狩の帰り道にみかんを買って帰る人になりました。


 いいえ、ここからがオチというか近頃の話です。カラスに限らず、野生動物の食害(しょくがい)枚挙(まいきょ)(いとま)がありませんが、大概「食べ頃(たべごろ)になると、やられる」ものです。私がその無人販売所を見付けた頃は、カラスがとんでもない数いて、まるで肉に群がるピラニアの群れの如くみかんを食い尽くしていたのです。その影響で、どうやら当時は「食べ頃のみかん」なんて物は売っていなかったらしい。高架の工事が始まり、カラスを見かけなく成った頃から、その無人販売所のみかんが甘くなり始めます。正直なところ、以前のサッパリした味の方が好みだったので、「また元の感じにならんだろうか?」と思い、ちょくちょく買って帰るのですが、もう何年も甘いみかんしか食べておりません。

 いいえ、すっかりカラスを見かけなく成った周囲の農地を眺めながら、今季も私はみかんを買って帰りました。無人販売所のみかんの値段は、今も変わらずひと袋200円です。持ち帰ったみかんは、とても甘い「美味しいみかん」でした。味覚障害の影響で甘味を強く感じる様に成ったことが影響してないとは言いませんが、今季のみかんも「かなり甘い」と感じました。今となっては、内服している免疫抑制剤の関係で、柑橘系を食べていいのは昼と3時のおやつくらい。つまり、鷹狩りの帰り道くらいしかみかんを食べる機会はありません。

挿絵(By みてみん)

たぶん、こいつが犯人だ。

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