凧と鷹
ひと頃、ホームセンターの売れ筋商品の一つだったのが、鷹カイトなどの名前で売られていた鳥よけ凧です。同時期に鷹のデコイが売られていたのも見た覚えもありますが、こっちはそれほど売れなかった様です。すぐに見なくなりました。
風の無い地域ではどうだったか存じませんが、冬に成ると風が吹き続ける当地では、この凧の効果は絶大でした。ただし、農家の人たちが考えていたのとは少し異なる顛末で効果を及ぼしたというのが、実態だった様です。
そもそも、鷹カイトが使用されていたのはキャベツ畑です。「青いダイヤ」と呼ばれる事がありますが、安すぎて畑にすき込むほど育つ年が続く中、数年に一度くらい不作の年があり、ものすごく値段が高騰します。こういう年には「一億円プレーヤー」が現れるほど、農家の収入が爆上がりする、そういう商品作物です。投機的な側面があるのは確かですが、大概の農家は数年に一度訪れるキャベツの値段が高い年にそれまでの傷を癒やして帳尻を合わせるという生活をしております。このキャベツを、ムクドリやヒヨドリが、水辺に近ければオオバンがカモ類が、食い荒らすのです。キャベツの値段が高い年に限って?
「いったい、何処にこんなに売っていたんだろう」というくらい、キャベツ畑というキャベツ畑が鷹カイトだらけになった年がありました。青々とした広大なキャベツ畑の中に、竿の先に付けられた鷹カイトが何羽もブンブンと一日中舞っている光景は見ものでした。吹き晒しになった場所で使われている事が多かったので、私が鷹を飛ばすのに邪魔になったとか鷹が嫌がったとか、そういうイベントは無かったのですが、あまりの数の多さから、なにかの「群れ」みたいに見えてしまい、私はそういう場所を避ける様にしておりました。集団の力と申しますか、動いてもいますから視覚的にインパクトがあり、なんだか鷹が嫌がりそうな気がしたのです。
私は、鷹カイトを避けた方でしたが、逆に集まってきたものがおります。当時は「珍しいな」と思っただけなのですが、何年も見かけなかったトビが、時々姿を見せる様になりました。英語の「Kite」は、凧という意味もありますがトビの英名でもあります。どうやら、鷹カイトの独特な動きは、仲間がその辺に集まっている時のそれを、トビたちに連想させたらしいのです。そんな状態が数年続いた頃には、農地の周辺で電柱の上にトビの止まっていない場所は無いという程の数が見られる様に成りました。
農家にとっては、それでも良かったのでしょう。気が付くと、キャベツ畑の周囲にあった各種防鳥ネットを見なくなりました。鷹カイトも、風で壊れてしまったのでしょうか、見なくなります。代わりに天然物の「鷹カイト」であるところのトビが、周辺に無数に居座るように成りました。今では、カラス並みに空が暗く成ったと感じるほどの数が集まります。お陰で、ネットや防鳥アイテムを見ない、青々とした美しい景観のキャベツ畑が広がる様に成りました。ええ、農業被害をもたらす野鳥が何処かに行ってしまったのです。
トビというのは雑食傾向の強い猛禽類で、魚でも貝でも残飯でも、割と何でも食べて生きていく事が出来ますが、いざとなれば鴨を襲って食べる事もしますし、その辺の野鳥の死骸を片付ける事もします。ちょうど、追い払いの鷹が無償でその場所に居座って、期間中にらみを利かせているのと同じ状態が出来上がったのです。
おそらく、防鳥グッズとして、効果のほどは二重丸だったのが鷹カイトです。しかし、商品として見れば、継続的に売れていかなければビジネスが成り立ちません。鷹カイトは、今では、ホームセンターに行けば1つくらいは置いてるよという、あまり売れてない商品になってしまいました。鷹カイトが集めた天然物の影響が、大きすぎたのです。私は、堤防沿いとその近くの電線にズラリと整列したように並んだトビたちを見て、ため息を漏らします。今季も、その場所に鴨が入らなかったからです。
次回投稿予定日時は、2026年02月03日 18時00分です。




