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捜鷹記  作者: 檻の熊さん
11章

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飛梟回生3

 かつて、ハリスホークの薬研(やげん)を購入したときの経緯ついて、述べておこうと思う。


 そのしばらく前、私は1羽のハリスホークの入院管理をしておりました。雄のハンドレアードで、屋内で飼育されていた若鷹です。いわゆるペット鷹で、調教・使役とは縁がありません。上手く行っているならば目くじら立てる必要は無いのですが、個人的に特に大型鳥類の室内飼育は勧めておりません。端的に言って「駄目」なのです。

 鷹を飼う人たちにも色々おりまして、同じ使役を目的に鷹を使う人たちでも、趣味で鷹狩りやフリーフライトを行う人たちと、「追い払い」を業として行う人たちでは、持ち込まれる鷹のトラブルに違いがあります。これらに年中室内飼育されている「ペット鷹」という枠が追加されて、だいたいの飼育傾向が埋まります。一部で鑑賞や繁殖目的のみでの飼育がありますが、あまり見かけません。私の周囲では、鷹という生き物は全て、何らかのコンパニオンバード的な側面を持った生き物として飼われております。

 年中室内飼育が前提のペット鷹は、私が使役鳥関係で見かけない独特なトラブルを持ち込みます。普通は、鷹というのはシーズンになれば飛ばす物だし、外に居る時間の長い生き物です。これが屋内に居る事で、「奇妙な」トラブルに見舞われる事があります。

 元々、呼吸器系の感染症のある猫で見かけるトラブルで、開口呼吸をしている内に消化管内が空気(エア)で満たされる患者がおります。経験の浅い獣医師がそういう猫のレントゲン写真を見ると大騒ぎする事がありますが、実は大事に至る事は稀です。同じレントゲン像が、鷹で撮れる事があります。鷹の場合は「何でそう成ったのだろう」となるのですが、おそらくは揮発性のガス(塗料やヘアスプレーなど)の吸引です。猫なんかと違い、「普通は」絶対に見ない所見です。

 私の元に、消化管内が飲み込んだ空気で満たされた鷹が持ち込まれました。この鷹、幸いにして一命を取り留めるのですが、消化管に後遺障害を抱えてしまいました。要は、空気に触れていた消化管粘膜が影響を受けてしまい、後になって壊死して剥がれ、中途半端に治癒したそれらが「栓」を形成してしまったのです。食べ物が流れなくなります。当初の話ですが、飼い主もまた閉塞の原因と成る可能性のある微妙な物を与えておりました。区別が必要です。入院して管理しながら、色々と調べていきます。

 この時の鷹は、餌を与えると喜んで食べる鷹でした。食欲はあるのです。しかし、それが上手く流れて行かない。おしりの穴から出てくるのは、尿と尿酸ばかりです。じゃあ糞はどうなるんだという事に成りますが、数日に一度くらいのペースで口から出て来ます。「吐糞(とふん)」と言います。ドロドロになった液状の便が、口から吐き出されるのです。そういう時は、前日に与えた肉も一緒に出てまいります。糞が出てくる以上、閉塞部位は胃ではなく腸です。鳥類にも色々おりますが、猛禽類の「腸」は大半が小腸です。そういう構造の所為(せい)か、栄養や水分の吸収が出来ているらしく、最終的に便にして排出が出来ないだけで、その鷹はかなり長い間生存を続けました。

 当然ですが、数日に一度前日に与えた全量を吐き出してしまうくらいですから、やはり十分な食餌を摂る事が出来ていた訳ではないのです。死なないだけです。なんなら元気もあり、各種投薬も続けているから色々と平衡を保つ事が出来てしまっている。ハンドレアードとはつまり、人間が育てた鷹です。その鷹は入院してしばらくすると、私の顔を見て激しく鳴いて餌をねだるようになり、騒ぎ、それはもう大変なものでした。しかし、いざとなれば吐く原因に成りますから、それほど食餌を与える事は出来ず、日に何度も鷹の前に顔を出しては餌をやり、鷹の退屈を紛らわす意味で、箱入りを教え、拳に乗ることを教え、屋内で飛ばす事すらしておりました。


 初めは「何故こうなった?」「どういう事が起きている?」と、五里霧中(ごりむちゅう)の中で状況を把握(はあく)するところから入って行く訳ですが、いじっている内に色々と分かってまいります。結論として、「自然回復は無理」、「安楽死ないし探査的開腹術の適応です」と、飼い主に伝えました。しかし、いずれの選択肢にも同意は得られず、ただ鷹が衰弱死していくのを見ていく運びとなりました。もちろん、これはケースバイケースの話で、違う顛末(てんまつ)を辿る事はあったでしょう。しかし、この患者はそうならなかったのです。

 私はこの時、吐いては鳴き、吐いては鳴き、餌をくれと私に向かって飛んで来る鷹が、衰弱して餌を食べなくなるまで日々寄り添って過ごしました。鷹が死ぬまでの1ヵ月と少々の間、私たちは濃い時間を過ごしていたと思います。鷹が死んだ後、私はこの時のハリスホークの鳴き声が頭から離れなくて、ちょうどオオタカ(真砂(まさご)のこと)を購入する予定だったのですが、「ついでに」雌のペアレントレアードのハリスホークを連れ帰りました。それが薬研(やげん)でした。


 私は、仕事柄(しごとがら)飼い主に二択を迫る事があります。つまり、「やる」か「やらない」かという事です。手術でも入院でも、そんな感じです。私が人間の病院に入院した際に、同意を取った形を残す為の書類にたくさん署名しましたが、事実上「やる」以外を選ばせない状態で仕事がドンドン推し進められていきました。ずいぶん違う光景だと思いました。動物病院の診察室の光景ですか?よく目にするのは、二択の内のどちらかを選ぶではなくて「選ばないを選ぶ」飼い主たちです。口にしてしまえば「何もしません」と主張しているのか(?)という事になるのですが、それも嫌だという。決められないのです。結局、無駄に支持療法のみを繰り返して、積極的な、あるいは直接的なアプローチを避け続けている内に患者の生命が終わるという顛末を辿る事がちょくちょくあります。「日本人はそういう民族なんだ」と言われたらそうなのかもしれませんが、やはり「やるなら今しかない」その時に、決められる飼い主であって欲しいと思います。もちろん、飼い主がどちらを選んだとしても、私はその決断に従うだけです。


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