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捜鷹記  作者: 檻の熊さん
1章

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入院前5

ヌートリアの話。

 真砂(まさご)にも、入院前、私の病気に関連したエピソードが、いくつかあります。


 私の皮膚筋炎は、ちょうど薬研(やげん)でカルガモを獲った後、12月に入り夜間から早朝にかけて壁越しに冷気が伝わってくる(よう)な寒さが始まった頃に、発症・顕在化しました。具体的には、「ゴッドロン徴候」に「ヘリオトープ疹」という、手指や顔に現れる病変が出現したのです。主観的には、指先の赤みや皮膚の変化、むくみなどにより、何十年ぶりかに「手に霜焼けが出来た」のだと思いました。顔に病変が現れるヘリオトープ疹についても、鏡で顔を見ると「人相が変わっている」のが分かったのですが、痛みや痒みといった物が無く、紅斑(こうはん)の様子がちょうど「雪焼け」の顔みたいに見えたので、いよいよ「霜焼け」という考えに傾倒してしまいました。つまり、「自分も老いたな」と、そんな風にしか思わず、「暖かくして寝ていたら治る」と思い込んでしまった(わけ)です。

 手に現れる皮膚の症状がゴッドロン徴候ですが、出現とほぼ同時に筋肉の損傷を伴うので、患者は「把握痛(はあくつう)」を経験します。つまり、筋肉痛のことです。具体的には「握ると痛い」のです。皮膚筋炎について書かれた説明を読めば、テキスト上は筋肉の損傷から来る痛みやチカラの入らなさの事だと解説されているし、もちろんそれで納得出来るのですが、私の実体験から述べてしまえば、把握痛は「関節痛」と区別が出来ないものでした。つまり、「握ると痛い」と説明される痛みは、「手首が痛い」「指の関節が痛い」と感じる異常なのです。


 ある日、いつも通り飛ばすだけ飛ばして帰るだけのつもりが、ふと思い立ってとある用水路で鴨を探してみる事にしました。(あん)(じょう)と申しますか、鷹はやる気なのですが鴨は見かけません。真砂(まさご)の先々代以前くらいの鷹の頃までは、毎シーズン、その水路には鴨が入っていたのですが、開発があって、生き物たちの遷移(せんい)が進み、色々と様変(さまが)わりがありました。もちろん、シーズンが来る(たび)に、私が鷹で鴨をイジメ続けたのも原因だったかもしれません。そうは申しましても、渥美半島については、豊橋市や豊川市の水路のように壊滅的に獲物を見かけなく成ったりはしていないんですがね?

 この数年、フィールドでよく見かける様になったのがヌートリアです。外来種で、以前は見かけなかった生き物です。この生き物を見かける様に成ると、バンやカモ類を周辺で見なくなります。ヌートリアは、水路の草むらに隠れている生き物たちを、その巨体で(もっ)て追い出してしまうのです。この生き物は、あまり生活の場所を移さないでその場所に居座る傾向が強いので、その行為は猟期だけでなく繁殖シーズンにも行われ続けます。そう、「みんな()なくなる」のです。草食動物ですから直接的な捕食とかはあり得ない生き物ですが、いわゆるニッチを()めて、事実上の地域絶滅を誘導してしまう(よう)です。ええ、鴨はおらずとも、この生き物だけは水路に()りました。

 前提として、鷹はウサギを捕るのにも使われます。雌のオオタカや雌のハリスホークは、ノウサギやアナウサギの捕獲に使われております。しかしながら、「捕らせて獲れないことはない」というのが実態で、獲物からの反撃に遭うと、かなり手ひどい怪我をしてしまう事があるので「推奨しない」というのが、経験から来る私の考えです。(ただ)しくは、ヨーロッパアナウサギ(よく見かけるウサギのこと)は大人しく、海外では野生化したものを「害獣」として駆除している地域があるそうなので、これについては捕って獲れない事はないみたいです。ところが、本邦に生息するノウサギやユキウサギという動物は、実はヨーロッパアナウサギとは別種で、よく咬み付かれる事があり、咬む動作も素早く、ちょっと危なすぎて迂闊(うかつ)に鷹を突っ込ませる気にはなりません。(さいわ)いにして連中は夜行性なので、昼間その辺を歩いていてウッカリ鷹が突っ込んで行く心配はありません。ちゃんと(やぶ)の中から叩き出すような真似をしないと、獲ろうと思っても捕れない生き物です。

 この前提が適応されないのがヌートリアです。狩猟鳥獣の一種で、昼間頻繁(ひんぱん)に見かける。なんなら動きも鈍くて鷹がつかまえ易く、とにかくよく見かける。鴨の居ない水路をひょいと(のぞ)いたら、()たのです。水中を泳いでいる、(やつ)が。

挿絵(By みてみん) 

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