入院前4
真砂のこと。
真砂は雌のオオタカで、アメリカオオタカ系の交雑種です。ようやく片塒(1歳)を迎え、「いよいよ、これからが本番!」という鷹だったのですが、残念ながら、年々鷹狩が出来る環境が悪化してしまい、活躍の場が無くなってしまっていた、そんな頃に作った鷹でした。
この鷹、ひどく手元への戻りの良い鷹で、真冬の吹きすさぶ渥美半島の爆風の中で、ちょうどハリスホークたちがよく披露してくれる飛翔「ポ~ンと飛んで行って、自らターンして帰って来る」を、当たり前の様にこなしてくれる鷹でした。つまり、よくオオタカで見かける「ロケット花火のように飛んで行ったきり、戻らず、発信機の電波を頼りに捜索、発見後に呼び戻す」という回収をしないで済む、「ポ~ンと投げたら、そのまま帰ってくる」という、とても実猟に使うのが楽に感じる鷹でした。
真砂は、カラスを捕るのが得意な鷹でした。カラスを捕獲していたのには理由がありまして、近頃では毎年流行があるのが当たり前に成った、高病原性鳥インフルエンザ(鳥インフル)の監視を行っていたのです。つまり、カラスを捕らえる度に、私はA型インフルエンザ簡易検査キットを使って、捕獲したカラスから検体を採取し、特に陽性鳥を発見した際には、鷹に抗インフル薬を与えてその影響を判定するという治験的な仕事をしていたのです。もちろん、鳥インフルに感染するのはカラスに限った話ではないのですが、如何せんカラス以外の獲物に出会う機会がとても少なくて、そのシーズンもカラス以外を捕獲したのはわずかに4羽のみでした。
結論を言ってしまえば、当時の段階でだいたいの予防的投薬のノウハウは出来上がっておりまして、抗インフル薬は「ほぼ問題無く鷹を守る」ことが分かっていました。真砂という鷹は、抗インフル薬の試用に際して、その初期の頃から最後まで、おおよそ2年越しに鳥インフルの影響を受けている可能性の高そうな鳥種ばかりを選んで捕らせ、なんなら鳥インフル陽性のハシブトガラスなんかを食べさせた直後に抗インフル薬を飲ませたりしていましたが、私の実験じみた仕事に付き合ってもらった鷹でした。いえ、とにかく使い勝手の良い鷹だったからこそ、こういう仕事に付き合わせたのです。




