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捜鷹記  作者: 檻の熊さん
8章

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猟野にて 飛梟様無双6

 目標達成の瞬間は、あっけなく訪れました。


 「昔の水路」と聞かれたら、どの様な物か説明出来るでしょうか?水郷(すいごう)地帯と呼ばれる地域まで行けば、昔と同じ光景を見る事が出来るかもしれませんが、水路沿()いにフェンスやガードレールが設けられていない水路の事です。鷹が獲物を捕る時の捕獲方法は、「慕い飛び(したいとび)」と呼ばれます。これは、離れた樹上や今どきならビルの上といった場所から、ジッと獲物の様子を見定めていた鷹が、一気にスタートを切り、目にも止まらぬ速さでスキーで傾斜を滑り降りるようにして獲物に向かうという捕らえ方です。もしも、ここにフェンスやガードレールがあると遮蔽物になってしまい、上手く獲物に飛びかかれません。昔の水路は生き物も多かったですが、猛禽類にとって狩りが成立しやすい場所でもあったのです。

 意外に思われるかもしれませんが、こうした人工の構造物は鷹狩りをしていても邪魔で、「獲物の腹の下に潜り込ませるようにして投げる」と言いますが、拳の上の鷹を獲物に向かって投げるにあたり、目の前に障害物がある状況に成ってしまうので、上手く投げられず、やけに角度のある上の方から斜めに投擲(とうてき)といった、ちょっと難しい投げ方をしないと獲物に鷹を届ける事が出来ません。そして、その「角度」は、大概の場合、鷹にとって獲物を捕らえる事の出来る角度ではないのです。だから捕れない。そういう悪循環が続いてしまいます。


 農業用の物が(ほとん)どですが、当地は海が近いので水産関係でも水を使います。こちらから流れ出る水は、つまり海水ですが、施設自体は陸にありますから排水があります。今どき農業関係の水路は整備が行き届いており、水路は垂直でコンクリの護岸が施してありフェンスかガードレールがありで、よほど良い具合に真上に棒立ちする鴨でもなければ、ちょっと獲物が捕れる感じがしません。ところが、水産関係の水路の整備は大して行われていないらしく、昔ながらの「春の小川」みたいな光景が残っている場所があります。しかも、真横を歩いて近付ける。

 そうは申しましても、水深が浅く遮蔽物の無い水路は、野生の猛禽類どころか猫たちにも狙われる危険がある場所なので、何年に一度も鴨が入らない「居たらラッキー」な場所です。「駄目で元々(もともと)」私は、離れた場所に車を停めて鷹を出し、水路から少し離れた場所を鷹を水面から隠しながら歩いて行きます。背後には、水産業者の施設からモーター音が轟いておりますが、さいわい飛梟(とび)という鷹はこれを気にしない、構わず歩いて行きます。ふと前方を見やると、ハシビロガモのペアを見付けました。


 本来ならば、声をかける、太腿を叩く、ポキッと音のする草を折るなどして獲物を脅すのですが、そんな事をせずとも人間に接近に驚いて、鴨が飛び立ちました。水深の浅い場所ですから潜ったりもしない、種類的にも飛んで逃げる鴨です。棒立ちです。本気で驚いて、真上に向かって飛び立ちました。「ぬるい!」一見したところやる気の無いみたいに見える飛び立ち方です。この鴨に向かって、飛梟(とび)を投げます。背後のスクリーンが草と木です。鷹から見て水面には見えません。雄の鷹は、こういう獲物の見せ方をしないと、何故か獲ろうとしないのです。

 空中高く舞ったハシビロガモに、空中を追いかけて行った鷹の姿が重なるのが見えました。私の居たところから、15メートルくらい離れた場所だったでしょうか。そのまま、進行方向を変える事なく、遥か薮の向こうに獲物ごと消えて行きました。素晴らしい光景でした。


 あとは探すだけです。その場所というのは、何年か前までは人の住んでいる民家があり、猫がたくさん居たのですが、今では全く人が居ない事を真砂(まさご)を探した折に確認しておりました。余談ですが、真砂(まさご)の前に雌のオオタカで「やじろべえ」というのが居たのですが、この鷹は7年ほど使いました。この鷹が1年目の頃ですから10年くらい前です、この場所の近くの道路で突然飛び出した猫を避けようとして車のハンドルを切り、「車止め」の心算(つもり)で堤防の端にぶつけて停めたはずがそのまま乗り上げて車が浜に転落してしまい、人間は無事でしたが車を廃車にした事があります。いえ、(くだん)の水産業者の施設からして、私は過去にA型インフルエンザ簡易検査陽性のノスリを保護した事がありまして、鬼門も鬼門、そこいら中に良くない思い出が蔓延(はびこ)る場所で鷹に獲物を捕らせたのです。

――――――いかに、獲物を見かける機会が無かったのか。御理解いただけるのではないかと思います。


 30メートルくらい離れていたでしょうか?すっかり草に埋もれた廃墟に続く私道の途中に、獲物を押さえている飛梟(とび)を見つけました。鷹も馬鹿ではないので、比較的開けた場所があればそこを利用します。いきなり草の中に落ちたりはしません。

 ろくに獲物を捕った事がない上に、相手が生きておりますから、据え上げ(すえあげ)の方は下手くそを通り過ぎてダメダメでしたが、最後は交換に応じてくれて拳の上で落ち付いて口餌(くちえ)を囓るところまで持って行きます。昔は鷹にとっての卒業試験だと言いました、「初鳥飼(しょとりかい)」終了です。

挿絵(By みてみん)

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