猟野にて 飛梟様無双5
コガモの群れを見つけました。いちおう階段はありますが、左右が垂直に切り立った場所で水深があり、そんなに簡単に捕れる場所ではありません。かつて、「すもも」という雌のハリスホークで、初めての出猟で、その場所でコガモを獲っているのですが、これは雌の鷹は自身が水に濡れようがお構いなしに獲物につかみかかるからの結果であり、水濡れを嫌い、水面に突っ込む事を忌避する傾向の強い雄ではそうもまいりません。
試しに、鴨を脅して水面から剥がし、鷹を投げるのですが、ほぼ水面を水平方向に向かって逃げる「横っ飛び」です。そもそも捕れないときの逃げ方です。鷹は投げられる侭に水平方向、対岸の木の中に消えて行きます。そのまま呼び戻そうと準備を始めたところ、なんと鷹の方でその場所から更に対岸の岸に移り、もう一度自ら鴨の群れにプレッシャーをかけ、自分のリズムの中でアタックを試みております。もちろん、この方法で捕まるほど野生は優しくない。コガモたちは逃げて行き、鷹の方も諦めてこちらが呼ぶと帰ってまいりますが、もう拳の上で大興奮したりはしませんでした。
「ひたひたひた、ひた」「ひたひたひた、ひた」、文字に起こすとこんな感じに成るでしょうか?鴨が湿った地面を歩いている音がします。もしかしたら埋まったかもしれないけれど、水深があって足首くらいしかない浅い水路に、潜水鴨が居たので捕らそうとしました。潮位の関係で、海の近くの水路は、とても水深のある時間と殆ど水の無い時間があります。いえ、流石にこれなら捕るのではと思ったのです。
なんと、水路の獲物に向かって鷹を投げるのですが、見てない訳ではない様なのですが、ちょっと迫ったかと思ったら、一気に上昇して、大層高所な電柱の上に移りそこから「水面」を眺めております。その後も何度も試したのですが、同じ事が繰り返されてしまいます。どういう事なのでしょう?
実は、その場所で歩いている鴨は、上手に日陰の中を歩いて、その場所を選んで移動しているのです。私の目から見て、水なんか無い地面であるその場所は、湿り気と影になった様子から「光って」見えるらしいのです。つまり、鷹の目からすると、そこに居るのは「水面に居る鴨」に見えるのです。普通なら、鴨は上に向かって飛び立つのですが、潜水鴨は飛んでも水平方向にしか逃げません。それが余計に「潜って逃げる!」みたいに見えるのです。連中は、そうやって我が身を守るからこそ、そういう逃げ方をしていたのです。
よくある話ですが、「歩いている。今だ行け!」という私に対して、「水面を悠々と泳いでいる。あれは無理」と様子見に入る御鷹様、お互いの行動が、咬み合っていないのです。こういうところ、雄は選球眼が厳しくなります。雌の鷹ならば、何も考えずに突っ込んで捕るなり失敗するなりして終わる方が普通です。鷹の雌雄の行動には、そういう違いがあります。だからこそ、雄の鷹には成功体験を重ねさせて、躊躇わずに獲物に向かって「突っ込んで行く」ように、調教して行かなければならないのです。この様な行動は、同様に川幅2メートル未満の細い水路にひしめくコガモの群れでも確認されました。
そうは言ってもやはり、そんなシチュエーションにしか獲物を見かけないのです。私は「捕れる」と思ってやっておりますが、鷹からすると「あれは無理」と思っているかもしれません。木片や小石を「捕って」「頑張って」いた姿を思い出し、ふと、そう思いました。この考えが正しければ、コガモどころかカラス連中が難しいのも、理解出来ます。スピードを見せられた瞬間に萎えている可能性について、考慮いたしました。
「もっとしょぼい獲物」「遅い獲物」とは何か?考えを巡らします。昔なら、サギ類がそうだったはずです。しばらく前までなら、バンなんかも利用出来たはずですが、今では全て狩猟鳥獣から外されているので、捕る訳にはまいりません。追い払いの業者の方達は、許可を取って「有害鳥」という枠の中にある非狩猟鳥を捕ったりもしているみたいですが、一般人にはこの辺りちょっと難しい。私は、狩猟鳥であるカワウを試してみる事にしました。
正直なところ、カワウという鳥は獲ってきても扱いに困る鳥で、魚食性の鳥特有な生臭い肉と、意外なくらい油臭い羽毛、とにかく丈夫な骨格で解体に困ると、三拍子そろったどもならん鳥で、雌の鷹が捕りたがるので時々獲っていたのですが、そのまま肉すら利用しないでゴミに出した事が度々あった鳥です。
御存知の通り、有害鳥で、漁業被害の酷い鳥種ですから、もしも私がその辺で獲っても群れを蹴散らしても、むしろ見ていた人たちは快哉を上げる鳥種です。なにしろ海が近いので、「数百羽」と書いたら流石に嘘になるのだろうかというくらい、空が真っ黒になる数が、日常的に漁港に河川に海辺に現れるのです。
カワウという鳥は、群れで行動している事が多く、それなりに人の接近を嫌って逃げるくせに飛び立つ初速が遅く、特に逆風だと空中でバタバタ止まって見える飛び立ち方をします。なにより余裕を持って近付けるし、羽衣が黒いので鷹がムキになるカラスの様に見えなくもない。この群れに向かって飛梟をぶち込んでみました。
意外でしたが、最も可能性を感じた獲物になりました。捕れはしないのですが、始めこそ大きく距離を取って様子見で電柱に上がってしまったものの、空中で肉薄するも下が水面で諦めたか大きさに躊躇したかという姿を見かけるまでに成り、「あとちょっと」という所に辿り着きます。なんだか目つきまで変わってカワウを見付けるようになり、遠く離れた水路にカワウが着水したのを私が知るまでになります。いえ、鴨でも同じ行動を見かける様になります。どんどん、鷹がよくなってまいりました。
カワウ。写真の場所でやった訳ではないのですが…。




