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捜鷹記  作者: 檻の熊さん
8章

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猟野にて 飛梟様無双2

 まるで獲物を捕りそうな雰囲気が無かったのですが、こんな鷹でも可能性の片鱗を示すシチュエーションがありました。カラスです。


 その辺に飛ばしに出かけると、飛梟(とび)という鷹は意外に樹木を利用したがらないので、農地にある堆肥(たいひ)置き場の屋根や電柱を利用します(今どき、堆肥置き場やビニールハウスには電気が要る)。初めは何も居ない事を確認してから投げるのですが、どういう訳か結構な頻度で何処からともなく大量のカラスやトビが集まってまいります。そんなとき、「うおお!たぎってきたぁ~ッ!」とでも書けばいいのか、()(わめ)く鷹がカラスどもに突っ込んで行くのです。もちろん、こっちで呼ぼうにも拳に戻ってはまいりません。(しま)いには、ある意味思い通りにならない状況に癇癪(かんしゃく)を起こしてなのでしょう、眼前を飛翔しながら通過する挑発行為をする黒い物体に向かって「足を突き出す」などの攻撃的な行動が出る様に成ります。

 どのみち、挑発に現れているカラスですから捕れるはずもなく、それでおしまいなのですが、鷹の方はそうでもなく、眼前を通過するカラスに飛び付いて絡んでみたり(逃げられる)、次第に「捕る」べき行動を採る様に成っていきます。具体的には、初めはおおよそ1メートル以内くらいの所まで接近してきたカラスに飛びつこうとしていたものが、「ここ」と決めた拠点の電柱を中心にして数十メートルを追いかけ行って再び元の電柱に戻り「待ち」に入るまでに成りました。それでも捕れないのですが、こういう行動は次の行動発達を促し、「捕る鷹」への成長を促していきます。

 カラスどもも馬鹿ではないので、本格的に身の危険を感じる様になる頃には、鷹の姿を見つけて遥か彼方から大勢集まって来たりはしなくなります。2ヵ月くらいかかったでしょうか、飛梟(とび)は「人気者」ではなくなったのです。この頃には、電柱に止まりに行って「待ち」に入ったりしない、周囲の様子次第で呼べばすぐに拳に帰って来るといった、鷹狩りの鷹らしい、狩り場を荒らさないで静穏的にちゃっちゃと移動が出来る鷹と成ります。つまり、「この方法では駄目だ」と、鷹の中で整理が出来るのに、それくらいの時間を要したのです。


 こう成るまでの過程で、私自身も度々(たびたび)危険な目に遭っております。言うなれば、カラスどもの行動は鷹にとって「()らし」そのものです。捕れそうで捕れない所まで接近を繰り返しては、相手が逃げて行くのです。その間、「向こうの方で」五月蠅(うるさ)くしつこく、餌合子(えごうし)を鳴らし声をかけて呼んでいる奴がいる。「捕れるはずだ。捕れとれ!」と。

 鷹が興奮したのも、しつこく諦めなかったのも、実はその所為(せい)ですが、鷹は気付かずにいた訳でもなければ、無視していた訳でもない。拳に戻ってきた途端に大興奮、餌合子(えごうし)の中身の肉を、あるいは呼餌(おきえ)を食べる代わりにパッと放して、私の顔にむかって攻撃を仕掛けてきます。片足のみ突き出されてくる事もあれば、全部放して飛び付かれた事もあります。気を付けてはいるのですが、ちらりとでも目を合わせたその瞬間が危険で、鷹の方から「そのように」見えただけでも攻撃が解発(かいはつ)されてしまい、こちらに身に覚えの無い状況でも攻撃を受ける事がありました。

 具体的には、医療用帽子を持って行かれたり、帽子を剥ぎ取られた後の剥き出しになった頭髪に飛びかかられて頭皮ごと(つか)まれたり、眼鏡が吹っ飛んでいった回数は思い出せませんし、一度だけ眼鏡の上からしっかり(つか)まれてしまい、眼球を守る必要がありますから、両足をひっつかんで鷹ごと爪を抜いた事すらあります。

 信じられないかもしれませんが、こんな大興奮があった後もそのまま鷹を()(まわ)して、獲物が居たら突っ込ませます。それを繰り返している内に、拳の上の鷹が落ち付いてくるのです。いえ、頭部から垂れてくる血に再び鷹が興奮しないかとか、片眼が垂れてきた血で血まみれで、その血の感じに大興奮して顔に飛びかかってこないかと、かなり冷や冷やしながら、あたかもノーダメージであるかの様に振る舞いながら、鷹を使うのです。


 オオタカは、猟期も終わる頃には、ジェットエンジンの中に突っ込んだ野鳥の如く、長い羽毛の全てがボロボロに失われている事がよくあります。これは興奮による自損行為が主で、獲物を捕らえたから折れたり歪んだりした物はあまりありません。つまり、ただの、ぶち切れ阿呆鳥であるからこその「ボロボロの鷹」です。二年目から先は、色が変わるだけでなく羽毛の品質が向上するのに加え、鷹も身だしなみを気にする程度に落ち着きを見せる様に成り、羽毛が傷まなくなります。

――――――出来たら、一年目からそうであって欲しいと、大概の鷹匠は一度は思う事でしょう。


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