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捜鷹記  作者: 檻の熊さん
7章

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その後のわんわん2

 「先生!よろしくお願いしやす!」と言えば、渡世人(とせいにん)連中が(かね)で雇っている腕利(うでき)きの浪人を連れて来て、出入りの最中に強敵をぶった切ってもらう時代劇のシーンを思い浮かべられるのは、そろそろ世代の差しか感じられない書き方になってしまうのでしょうか?わんわん(わんわん)という鷹は、まさしく「先生」で、ちょっと難しい場所であっても高確率に獲物を捕ってのける「捕る鷹」でした。だから、「わんわん先生」という愛称が使われる事があります。


 当たり前の(よう)でそうでもないのですが、弱っていようが死にかけていようが鷹は鷹、獲物を捕らえ、羽毛をむしり、殺し、食べる、人間が手を合わせて「いただきます」を言ってから(はし)を使って食事を摂るのと同じくらい、当たり前の事を当たり前に、生きている限り営々(えいえい)と続けます。それこそ死ぬ間際(まぎわ)まで。昔の鷹にも、「死ぬ前日まで捕っていた」という鷹匠の証言が残っているくらい、本当に当たり前のルーチンな作業です。(おり)しも猟期でしたので、鷹の機能回復の評価は、飛翔能力のみに(とど)まらず、実猟の成績についても行いました。


 足腰立たない所まで痩せてしまった鷹が、目標体重680gを前後する様に成ったのは、回収後2週間ほど()ってからです。鷹は飢えており、拳を差し出せば必死に成って飛びついて来ようとします。しかし、「やる気はあっても体が付いてこない」、「相手の方が優秀」という状態が続きます。

 以下、時系列順に当時の夜据日記(よずえにっき)、いわゆる飼育日誌の記述を解説付きで紹介します。これで、十分にその時の雰囲気が伝わるのではないかと思われます。


保護収容の翌日(治療2日目)。

545g。

屋内繋留。温度21.5度。

パーチにギリギリ止まるくらい。鷹に掃除をする余裕が無い、クチバシの汚れ.


2日後(治療3日目。以降○○日目と記載)。

550g。

由来不詳の大量のペリットの排出。砂の様な物が混じっている。この数日、何を食べていたのだろう?


4日目。

595g。

屋外繋留の開始。(くつろ)いでひとり遊びをしている。

車上から渡り、2メートル以内。出来るだけ。やろうとするだけ大したもの。墜落しそうな鷹に手を差し出して「受け取る」。


5日目。

590g。

屋外繋留。

活動性を感じる。

飛翔が「伸びる」。短い距離だと、これ以上の事が出来ない。


6日目。

595g。

車で連れ出して、広い場所で飛ばしてみる。

空中で腰が抜ける。途中で地面に降りる。風に流されて戻って来られなく成ったので、迎えに行った。


7日目。

620g。

食餌量が十分量を満たし、体力が戻り始めた証拠。水平方向への排泄が確認された。尿の多い水分過多便:飽食している。今後は与えすぎると下痢が始まるので、給餌量に注意する。

風の中で姿勢の制御が出来ていない。風に逆らって飛べない。

おっかなびっくり車上から2メートル以内の渡り。今日くらいの風程度でも、流される侭になりそう。


8日目。

625g。

水平方向への排泄。

無風の広い場所で飛ばす。以前の1/3くらいの飛翔継続能力。途中で怖くなって拳に呼び戻した。決して、飛翔中の鷹から目を放したら駄目だ。


9日目。

640g。

水平方向への排泄。

拳の上の鷹が、「重く」感じる様に成った。

雨天、屋内で飛ばしただけ。

違う労働をさせてみると、問題が露呈する。ギクシャクした動きを感じるが、(あぶ)()は無い。


11日目。

650g。

風の吹かない広い場所(神社駐車場)。「やや乱流」程度で、空中で姿勢を正せずに地面に降りる。飛翔距離は確保出来ている。反応は良い。

本来切れるような素晴らしいパフォーマンスが発揮されるべき体重だが、到底その様な飛翔ではない。


13日目。

660g。

クチバシに光沢を感じる。掃除をしている。

地面に降りた。


16日目。

690g。

無風状態の広い場所で飛ばす限り、(あぶ)()なく飛んで帰ってくる。反応良し。以前の1/2以下くらいの飛翔距離で戻って来る。


17日目。

670g。

実猟に出てみたものの、まるでやる気が無い。捕ろうとしているように見えない。トラクターをとても嫌がる。


18日目。

690g。

カルガモ1。

町の方にある、民家近くの川幅のない水路の、あまり逃げないカモを捕らせる。1メートル少々離れた所まで接近し、プレッシャーを与え、驚いて棒立ちしたカモに向かって羽合(あわせ)る。問題無く、空中で捕らえた。据え上げも良好。

A型インフルエンザ簡易検査キット(-)。


20日目。

695g。

コガモ。

工場地帯に近接する、近くに民家もある水路のカモを捕らせる。ほぼ寝ているような状態のコガモの群れに接近し、声をかけて立たせ、羽合(あわせ)る。いやにあっさりと獲る。

追う感じは無い。揚力が認められ、鷹が高所に上がる様に成ったので、そうしようとして瞬間的に足を出したら捕れただけという感じ。しかし、出来るだけ大したもの。

A型インフルエンザ簡易検査キット(-)。


21日目。

685g。

ヒドリガモ。

遠丸嘴(とおまるばし)の要領で遠投、干潟のカモの群れに向かって放つ。一羽だけ逃げ遅れたカモがいたので、それに気付いて戻って押さえた。

不意打ち感強し、スピードが足りない。

A型インフルエンザ簡易検査キット(-)。


25日目。

680g。

ハシボソガラス。

こちらを気にせず、地面で寝ているような物しか取れない。相手の方が余ほど機敏に動いている。たくましさがまるで違う。ほぼ全てのカラス相手に歯が立たないことを確認した。捕れただけ大したもの。

A型インフルエンザ簡易検査キット(-)。


29日目。

690g。

欠失した尾羽の新たな萌出(ほうしゅつ)を確認。


35日目。

690g。

コガモ。

一目で分かるキレの良い動き。問題無い。しばらく前とはまるで違う。

A型インフルエンザ簡易検査キット(-)。


38日目。

690g。

風の無い日に、水田地帯で飛ばす。

以前と同等の飛翔距離を確認。


46日目。

670g。

ハシボソガラス。

器用に使っているものの、カラスの口の中に咬ませた指の細さがまだ気になる。

飛翔能力捕獲能力共に申し分ない。

A型インフルエンザ簡易検査キット(-)。


47日目。

680g。

水田一枚を超える、極めて長い距離を飛んでいった。実力でターンして戻って来たものの、途中で一度地面に降りている。

拳に戻った後も、疲れた様子で、しばらく飛ぼうとしなかった。

その間、体内よりポコポコという稔髪音が続いた。


49日目。

680g。

ハシビロガモ。

危なげなく捕ってはいるものの、飛翔にキレが足りない。

捕獲後に体内から音がしていた(稔髪音)。

すぐに消える。明らかに音がしている時間が短くなった。

興奮や運動により、気嚢(きのう)の拡張に伴って音が出現し、風船が小さくなるにつれて消えていく感じ?

A型インフルエンザ簡易検査キット(-)。


50日目。

680g。

ハシビロガモ。

水面から立った所を、羽合(あわせ)る。

空中でつかみ、水面に落ちて鳥筏(とりいかだ)に成って待つ。

据え上げで人間の方が死にそうになる。

問題の見られない能力。音はしなかった。

A型インフルエンザ簡易検査キット(-)。


51日目。

705g。

実猟に出るも猟果ならず。

戻りはよく、機敏な動きをしている。

何度手元に戻って来ても、体内から発生する音が一切聞かれなかった。


――――――この後は、消化試合的に尾羽が伸びきるのを待つ間、しばらく飛ばすのを主にして過ごしました。


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