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捜鷹記  作者: 檻の熊さん
6章

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蒼穹10

 さて、順調だったのは保護したハヤブサと飛梟(とび)だけです。


 植物には、一定以下の気温になると葉が赤く色付く仕組みがあるそうですが、例年だと、山々が紅葉(こうよう)に色付くのは渥美半島なら12月の頃です。ところが、今季はどういう訳か冷えるのが早く、わんわんをロストして雨が降って風が吹いて、いきなり紅葉(こうよう)が目立ち始めます。先月まで、夏の残滓(ざんし)(あえ)いでいたのが嘘の様な冷え込みを、夜に早朝に体験する様に成りました。寒暖差は、体重減少を(うなが)します。毎日、飛梟(とび)を飛ばしておりますから、こういう変化はむしろ実感を伴って感じられます。フィールドに放された鷹が十分な食餌を得ることが出来る保証が無い以上、よろしくない傾向です。


 真砂(まさご)が死んで見つかったのはロスト7日目のこと、つまり、同じくらいの体重であるわんわん(わんわん)も、それくらいから死ぬ可能性が出てまいります。1日目、2日目、3日目…、いつまで経ってもわんわん(わんわん)は見付かりません。青い空に向かって、餌合子(えごうし)を打ち鳴らす日々が、過ぎていきます。

 筋力低下の影響はそれなりで、餌合子(えごうし)を鳴らすだけの労作(ろうさく)でも、次第に背筋(せすじ)を伸ばしているのが(つら)くなってみたり、腕を伸ばすのに(ちから)が入らなく成ってみたり、車のドアの開け閉めを腕でやっていたのは最初に内だけで、次第に足で蹴って開ける様に成っていきます。

 「もう今日で捜索を止めよう」、何度も思いましたが、少し休んで体が動く様になると「ちょっとだけ、ちょっとだけ」と、朝、飛梟(とび)を飛ばした後に、昼から、午前の診療が終わった後に、昼食を摂りに出かけた帰り道に、毎日、鷹を探しながら青い空に向かって餌合子(えごうし)を鳴らし続けました。

 捜索範囲は広大で、既に渥美半島を南北に縦断していました。探すのは、猟期に成ると獲物を獲りに出かけていた水路のある場所とその周囲です。鷹の方で地形を覚えていて、自分からそういう場所に現れる事があるのです。静かな場所もありますが、相も変わらず農地にはトラクターが停めてあったり、走行中のトラクターともすれ違います。周囲の条件は厳しいままです。


 気が付くと、7日が過ぎ、10日が過ぎていました。一面がセイタカアワダチソウに成った耕作放棄地や、行けども行けども枯れススキが続く荒れ地の周囲で、餌合子(えごうし)を鳴らします。相も変わらずカラスどもが様子を見に来ますが、その中に私の鷹の姿はありません。鷹とカラスのシルエットは似ているので、光線の加減でその様に見える事があるのです。いえ、連中は「鷹役」と「逃げるカラス役」を用意して、あたかも私の眼前で鷹がカラスを襲っているかの様な「実演」をしてのけたりすらします。その行為自体にはちゃんと意味があって、カラス連中が巣立つ過程で行う訓練なのですが、私としては迷惑(きわ)まりない。

 やはり、わんわん(わんわん)は空に帰って行ったと見るべきか、そういう気持ちが強くなってまいります。鷹狩りが出来ない体に成った途端に、鷹狩りに使っていた鷹が1羽、また1羽と私の前から姿を消していく…。これが人生というものなのか?「最後に失ったのがわんわん(わんわん)で、むしろそれで良かったのかもしれないな」、そんな事を思ったりしました。このところ何回も降った雨の影響から草丈(くさたけ)が伸び、わんわん(わんわん)を繋留していたビニールハウスの周囲が、鬱蒼(うっそう)とした草に埋もれ始めていました。「つわものどもがゆめのあと」、思わず、そんな言葉が口をついて出ました。

 この頃、診察時間に成ると病院に居なければいけませんから、やる事がなくて、わんわん(わんわん)の繋留に使っていたボーパーチの(さび)を落として再塗装し、来院のあった猛禽類の飼い主の方に差し上げたりしました。そんな作業を完遂(かんすい)してしまうくらいの期間、わんわん(わんわん)は見付からなかったのです。いいや、世間にはロスト後25日も経ってから無事に見つかったハリスホークの話もあります。まだ(あきら)める時期ではありません。


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