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捜鷹記  作者: 檻の熊さん
6章

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蒼穹9

 このハヤブサは、既に落鳥寸前まで衰弱した状態で保護されておりましたから、ちょうど調教における「詰め(つめ)」が終了したステージにありました。収容翌日、前日からダンボール箱の中に入れて置いた、ウズラの胸肉を自分でむしって食べる事が出来ている事を確認した後、「食い付かせ(くいつかせ)」の要領で拳の上の口餌に誘導し、箱から出し、計量操作を教えました。この時点では、体重は「測れたら計る」だけで、あくまでこういう「労働と報酬」という操作を鷹に教えるのが目的です。

 この時点で、ろくに(ほこ)に止まる事も出来ないくらい体力が落ちておりましたので、人の姿を見てもろくに逃げようともしません。まだ、保護した時の(ほう)が気迫を感じたほどです。眼前に肉片一つをポトリと置いてやれば、脇目(わきめ)も振らずに食べ始めます。そんな感じで、猛烈に飢えた「死にかけた鷹」が、そこに()りました。


 既に駆虫を終え、輸液によって食欲を回復させる事が出来てしまいましたから、あとは経過観察が待っているだけです。私は、餌の量を加減しながら、この鷹の適量を模索しつつ、始めは平らになった人工芝の上に食餌を置いて、AからBに向かって歩かせるだけだった労働を、体重計の上に肉片を置いて誘導したり、積んだダンボール箱の上に誘導したり、拳に向かって飛び付かせてみたりと、それなりの負荷を与えながら、滑らかな翼の動きと力強さの程度が回復していく様を観察して行きました。

 特筆すべき点があるとしたら、やはり野生のハヤブサの「()れやすさ」でしょう。正直なところ、その辺のインプリント鳥でも扱っているかの様な「簡単さ」でした。インプリント鳥というのはハンドレアードの別称で、つまり「手乗り鳥」です。人を見て逃げないどころか、ルールを速やかに覚えていくのです。いちおう、余計な体力を消耗させない為に、いつもは入院室は暗室にしてあります。写真の現像が出来るくらいまっ暗です。実際には扉の隙間などから一筋の光が入ったりはするのですが、実はハヤブサはフクロウ類みたいに夜も狩りが出来る夜目の利く鳥種ですから、なに気に私が餌を持ってくるのを待つ為に、ドアを開けた真正面にあるダンボール箱の上に陣取って居たりしました。うっかり蹴飛ばしそうになるほどの位置関係で、「真正面」です。「眼と眼が合う」なんて当たり前、収容後わずか数日で、そんな状態に成りました。最終的には、私に向かって警戒声を放って要求を伝えてくる所まで()れてしまうのですが、ほんの2週間ほどの間の出来事です。あり得ない速度の馴化(じゅんか)でした。


 こんなでしたから、過度(かど)に人に依存させる理由が無く、この鷹には、頻繁に拳に誘導する代わりに、人工物を使って「置き餌」の間を翼を使って移動させる1メートルほどの短い「渡り」を経験させる事で、リハビリテーションとしました。

挿絵(By みてみん)

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