蒼穹8
計量は毎日行います。猛禽類の計量方法には幾つかがありますが、調教のノウハウを知っているならば、上皿はかりの一択でしょう。初日だけは予め風袋をかけてゼロにしておいたタオルに包んで一緒に計量というスタイルで済ませてしまいましたが、翌日からは、ちゃんと拳に据えて秤の上まで誘導し、自分から体重計に乗るスタイルで実施しました。
ハヤブサは、その昔の野鳥を捕獲してきては使役していた頃の職業鷹匠から、「簡単すぎてつまらない」だの「馴れすぎる」と評価されていた鳥種です。野生のオオタカや、あるいはノスリとかでもいいですが、同じ事を実施しようとしたら、かなり時間をかけて苦労することになります。「嗜好性の違い」という言い方をされた方もおられますが、とにかく、いくらか苦労させてくれないと張り合いが無いのです。つまり、それくらい調教が簡単で、収容2日目から体重計の上で体重を量らせる様な、そんな個体が数多く現れる鳥種です。
保護収容した野鳥に調教を入れるのは、収容施設内に於いて「つかの間の協力関係」を教える為です。ペット化を目的にしたものではなく、実際に野外に連れ出して放野となれば、「我に返って」一目散に逃げて行くだけです。
この辺り、誤解も多いらしく、巷間に流布されている鷹狩りの調教ノウハウを知ると、みなさん「やってみたくなる」らしいのです。鷹狩りに対する憧れもあるんでしょうが、「調教」をやってみたくなるらしい。
「考えてもみてくれ」という話に成ってしまうのですが、昔の鷹匠は「3年くらいかかって、ようやく鷹を任される」という、職人として技術を身につけたし、技術とはそれくらい修得には時間のかかる物です。「リヤカー1台分くらい鷹を死なせたら一人前」という言葉も残っております。つまり、鷹の調教と使役は、勘どころを押さえて失敗しなくなる様に成るのに年季が必要な「仕事」で経験を要するのです。聞きかじった知識でいきなり対応して何とか成る様な物ではありません。
過去に何度もあった話ですが、一面識も無い方が、それは獣医師であったり動物園職員であったりすらしたのですが、いきなり電話を私の所に入れて来て根掘り葉掘り、情報を抜いていこうとする。有り体に言って、口頭伝達で3年かかる経験を埋めさせる事なんて、出来る訳がないのです。
ましてや、やって欲しいのは「鷹狩りに使う鷹の調教」ではなく、「野生の鷹が野に帰る為の機能回復を目的としたリハビリテーション」なのです。両者は似て非なるもので、「保護された鷹が野に帰ってこそのリハビリである」という原則を。「鷹狩りの為の鷹を作る」では守れなくなってしまうのだという事を、みなさん気付いてすらおりません。だから、過度に詰めて鷹を死なせてしまったり、病気にしてしまったり、怪我をさせてしまったり、そもそも「患者」が調教をする段階に未到達なのに調教しようとしてしまったりと、加減が分からずに無理を押し通して鷹を野に帰せなくしてしまうのです。
余談ですが、「鷹狩り」と書くように、対象がハヤブサであっても「鷹」という記述を使うのが日本です。ジャパニーズスタイル。これが西洋だと「Falconry」と記載されます。日本語に起こすなら、「Falcon」はハヤブサなので「隼狩り」です。いちおう、「Hawking」も使われるのですが、対象がオオタカがハリスホークであっても「Falconry」で通用してしまいます。だから私も、ハヤブサの話をしていても、よく「鷹」という言い方を使ってしまう訳です。
とはいえ、このハヤブサは「とても簡単」な部類の野鳥でした。




