蒼穹7
収容直後にまず行ったのは、予防的な抗インフル薬の内服と輸液でした。
抗インフル薬については、「治療目的」でない所がミソです。使用する薬にもよりますが、エビデンスのある抗インフル薬は高価で、予防量と治療量に差があります。なんと「5倍量くらいから」と、異常な量が必要になるのです。最初からこの量を飲ませる事が出来ますが、あまりにも高価で経済的に破綻してしまうので、エビデンスが不確かな安い薬を使用して誤魔化すか、エビデンスのある薬を使って最低用量で何とか済ますか、そういう選択から入る訳です。ちょうど試験的に使用したかった薬があったので、嗜好性試験も兼ねてそちらの薬を与える事にしました。言わば「治療費代わりの治験のバイト」を、居候中にしていってもらう訳です。こちらは、タオルで拘束した状態のハヤブサの口を開口して、錠剤を食道奥深く嗉嚢の方に押し込んだら処置終了です。
次に輸液です。ルートを確保して血管から入れたり、骨内投与といって骨に穴を開けて入れる方法もありますが、簡便なので皮下投与で対応します。液量が多くなると、鳥類は犬猫でそうする様な頸背部を利用した補液が出来なく成るので、定法に則り大腿部の皮下を利用して結構な量の補液を行います――――――真砂にも、これをやりたかったね。輸液に混ぜるだけなので、同時に抗菌薬の投与や糖を補充済ませてしまいます。
野鳥は当初、「最低限しか触らない」ところから始めます。感染症対策です。鳥インフルに限らず、野鳥は何らかの感染症によって弱って保護されている事があるからです。一見したところ、衝突によって地面でうずくまっているみたいに見えるトリが、鳥インフルによる神経症状により飛べなくなって地面に居る場合があります。もちろん、野鳥なので、人間が触れる事で異常な暴れ方をされてしまい、骨が折れたなど余計なトラブルを発生させたくないというのも理由の一つです。
抗インフル薬の経口投与(強制)と輸液を実施する際に、ハヤブサを入れていたダンボール箱の中、その辺に落ちていた糞便を採取して、糞便検査を行います。A型インフルエンザ簡易検査が陰性であること(潜伏期間を過ぎると、その時は陰性でも後日陽性になる事がある)や寄生虫の有無や種類について確認したら、次は、まっ暗な中を近付いて行って箱を開け、手探りで駆虫薬を経皮滴下します。当院の場合、入院室には窓が無く、暗室に成る仕様にしてあるのは、こういう処置をする為です。昔と違い、今では「何がなんでもトリを拘束して内服させるしかない」といった薬ばかりではなくなり、背中に付けるだけで用を為す薬があり、しかも猛禽類への使用量の試行錯誤についても既に終了しております。良い時代に成ったものです。




