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捜鷹記  作者: 檻の熊さん
6章

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蒼穹5

 かつて、知人の所有する雄のオオタカに「蒼穹(そうきゅう)」と号するものがおりました。オオタカは「蒼鷹」と書いて「オオタカ」と読ませる事があるので、それと掛けたのだと思います。「青い空」という意味になるそうです。「青い空」と、書けば全て同じに成ってしまいますが、春夏秋冬、それぞれの「青」が違うものである事を、私たちは知っております。


 真砂(まさご)を探したときは、しつこく続く残暑厳しい、やや色が薄く感じる真夏の青が広がっておりました。まだひと月しか経っておりませんでしたが、あたりに有るのは、いわし雲が一面に広がる青みの強くなった秋の青でした。

 私は、わんわん(わんわん)を見失ったロストポイントの周囲を、カラスを探して歩きました。特にカラスの集まっている場所には、鷹が居る事があるので、そういう場所を特に気を付けて探すのです。いえ、実際に2本の足で歩いたのはごくわずかで、車で走り回り、それらしい場所で停め、そこから歩いて行っては餌合子(えごうし)を鳴らしてみたり声をかけて鷹を呼んだりしながら車まで戻るという事を繰り返しました。

 皮膚筋炎の影響で、太腿(ふともも)にチカラが入らず、言うほどは歩けません。何となく(ちから)が入りきらず、歩ける事は歩けるのですが、舗装してある道以外になると途端に足元が(あしもとが)覚束なく(おぼつかなく)なります。よくカラスを見かけたのは、柿の木のある場所でした。季節的に色付いた柿が鈴なりに成っている木が、そこいら中にあったのです。もちろん、集まるカラスも1羽や2羽ではなくて、余計にそれらが「鷹の周りに集まるカラス」に見えてしまいます。


 秋の空は変わり易いのが定番ですが、折しもそんな季節だったのです。ロストの翌日には雨が降り、ハリスホークは羽毛が濡れると途端に飛べなくなる鳥種なので探しにくくなり、それでも水場など獲物が現れる場所に現れる可能性を考慮してそういう場所を巡り、やはり遠くにカラスが集まっている場所が見えればその場所を見に行くという事を繰り返しました。

 夏頃はそうでもなかったのですが、海の近くは冬が近付いてくると雨の翌日は極めて強い北西の風が吹く様に成ります。ちょうど、季節の変わり目のそういう時期で、雨の翌日はあり得ない強風が吹きました。ハリスホークは、オオタカの様に強い風の中を風に逆らって私の方に向かって飛んできたりしません。風に流されて、はるか下流に流されて行く鳥種です。

 ロストポイントの周辺には風の無い場所がありますが、同時にちょっと離れた所に青空駐車してある他のトラクターを見付けてみたり、目をやると向こうの農地にも別のトラクターが放かってあったりと、ちょっとその辺で鷹が(くつろ)いでいる気がしません。そもそも、瞬き(まばたき)をしている間に姿を見失ったので、鷹が西側に逃げたか東側に逃げたのか、まるで見当が付きません。私は、風のある日は鷹が(くつろ)いで居そうな風の無い場所を、風の無い日はそこいら中を、探して回りました。真砂(まさご)の時と違い、雨の日と翌日の強い風の日は、短い期間に何度もありました。


 しばらく前までの暑さは何処に行ったのか、夜間から早朝にかけて、気温もグッと下がる様に成りました。屋内には、エアコンだけでなく床暖のスイッチも入れ、待合室のガスストーブがサーモスタットが働いて運転状態に成っている朝を当たり前に見る様に成ります。「これはまずい」と思いました。

 ろくな捜索の出来ない天候が続き、気温も下がり、ロスト1日目にはまだ周囲にカラスの集まっている場所があったのでその周囲を探したりしましたが、じきに柿の木の周囲や堆肥置き場くらいでしかカラスを見なくなりました。いわゆる「小鳥遊(たかなし)さん」が周囲に広がる様になります。何処まで行っても、穏やかな青い空が広がっている様に成りました。

 中には、意外なほどカラスどもが騒ぐ場所がありました。3週間前、真砂(まさご)が見付かった周辺の農地です。連中こそ私の事を覚えていて、「ここに鷹が居るぞ!」と、私を見て判断して仲間を集めるのです。もちろん、これでは周囲に鷹が居るかどうか分かりません。奇妙な連帯感を覚えたりもしましたが、それも次第に無くなり、いよいよカラスを見かけなくなります。

 わんわん(わんわん)は、同居している鷹連中が嫌いで、なんなら犬や猫も嫌いで、ちょくちょく「ぶっ殺してやる!」と言わんばかりに、なわばりの中に居る同居動物を追い払おうとする鷹でした。そろそろ見付かる見込みが薄くなった頃から、私はロストポイント周囲に飛梟(とび)を連れていって飛ばす様にしました。何かの偶然から、鷹の方で私か飛梟(とび)を見つけてアクションをしてくる可能性を考慮したのです。もちろんと言うべきか、周辺をなわばりにしているカラスが数羽集まって来る事はありましたが、本当に何も起こらず、その静けさがわんわん(わんわん)の不在を裏付けていきました。

 現場百篇(げんばひゃっぺん)と申します通り、ロストポイントにはとにかくしつこく足を運びました。トラクターへの恐怖から、周辺に鷹が潜んで居るとは考えられないのですが、地形や木の隠し具合から「こっちへ飛んでいったのではないか?」と、(かん)が働く事に期待したからです。ロスト当日の風向きならば、最悪は山一つ越えていった「向こう側」に移動した可能性があるとか、途中で山林に潜ったならここだとか、こんな所に人の住まなくなった廃墟がある(風の無い場所なので、鷹が寛いでいるかもしれない)、試しに飛ばしてみた飛梟(とび)の飛んで行った方向から考えてみたらどうだ――――――来る日も来る日も、そんな事を徹底的に繰り返しながら、ロストポイントを中心にグルグルと捜索範囲を広げていきました。


 強い風の吹いた日の翌日、捜索9日目のことでした。私はロストポイントから山一つ越えた向こうに広がる水田地帯で、大量のカラスが集まっているのを見付けました。なにやら何かに対して攻撃を仕掛けている様で、目をやると鷹の如きシルエットをしております。一瞬ドキリとしました。

 急いで走らせていた車を路肩に停め、小走りに走り出すのですが、何歩も行かない内に、それがわんわん(わんわん)でない事は、すぐに分かりました。私は、今年巣立ちした、衰弱したハヤブサの幼鳥を保護しました。

挿絵(By みてみん)

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