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捜鷹記  作者: 檻の熊さん
6章

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蒼穹3

 わんわん(わんわん)という鷹はトラクターが大嫌いで、そのルーツは21年前、北海道で暮らしていた折に遭遇した除雪車(除雪グレーダーと呼ばれるタイプ)まで(さかのぼ)ります。ディーゼル車特有の独特なエンジン音と、車体が(かも)す迫力に、当時激しく嫌がり、「苦手な物」としてしまいました。「オオタカとハリスホークの違い」ということで、よく引き合いに出されるのですが、オオタカという鳥種は体重を下げていくと諸々嫌がる物が無くなって、口餌(くちえ)を囓らせて気を逸らしてさえいれば、かなり厳しい物の近くをすれ違うことが出来る様に成るし、その近くで実猟を行う事が出来たりします。ところが、ハリスホークという鳥種は学習に()るところが(だい)になるらしく、一度(ひとたび)「駄目」という事に成りますと、かなり痩せさせて追いつめてあっても、口餌(くちえ)を放して逃げようとする(よう)に成ります。

 学習とはすなわち関連付け(かんれんづけ)という事になるのですが、本州に引っ越した後、時々遭遇する様に成ったのがトラクターです。そうでない物もあるそうですが、ディーゼルエンジンで動いている事が多い車で、タイヤが独特で、似てないこともない。どうやら、わんわんはこの車と除雪車を関連付けて「同じ物」と認識したらしく、態度豹変(たいどひょうへん)、それまで良い感じに落ち着いてその辺を飛ばす事が出来ていたものが、ぱあ~んっと舞っていって、ハリスホークとも思えない速度で一気に距離を取る行動に出る様に成りました。


 当初、気にしていたのは「動いている」トラクターでした。昔からあるオープンカータイプの車種です。風防(ふうぼう)が無いので、その辺に放置しておくと水に濡れて壊れてしまいますから、車庫に仕舞う必要があります。このタイプのトラクターは、仮に農地に放かってあったとしても、人が乗っていないのが鷹から分かるらしく、動かしていない限り、それなりに近い位置に停めてあっても鷹が気にする事はありませんでした。

 いつ頃からの事だったか、この原則(「動いてさえいなければ」)が崩れる様に成ったのは、外観の違う今どきのトラクターを見かける様に成ってからです。この車種には、天井があるだけでなく前後左右にガラス張りの風防・雨除けが標準装備で(こしら)えてあります。この構造のお陰で、この車種は青空駐車して農地に放置することが出来る様に成りました。しかも、どうやら鷹から見て車内の人の有無が分かりづらく、条件次第で中に人が乗っていてトラクターが動いている様に見えるらしいのです。赤系か青系かの違いはありますが、遠目にやけにピカピカと光沢を放っている今どきの塗装が、「一瞬動いているみたいに見える」存在感を放ったりもする(よう)です。

 そうは言っても、この車種を「トラクターだ!」と、わんわんが認識する様に成るのには時間が要ったらしく、以前は「向こうの方に」そんな物が見えても、普通に飛ばす事が出来ておりました。「停めてあるだけで駄目」「トラクターだ!」と、そういう反応が(あらわ)わに成ったのは、前回の猟期からです。ちょうど今年の1月の下旬に差し掛かる頃、数日前より水田に青空駐車してあった同系のトラクターを嫌がる素振り(そぶり)が見え、その時は急いで鷹を箱に仕舞って帰宅しました。その時は、(おり)からの体調不良もあって、そのイベントを契機に私はわんわん(わんわん)を飛ばすのを止めております。その2週間後には、明日をも知れぬ状態となり入院してしまい、長いブランクもあったので、私はそういう事があった事を忘れておりました。

挿絵(By みてみん)

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