蒼穹
楽しみながらのびのびと自由に生きることを、鳶飛魚躍と申しますが、世の中それが難しい。抗がん剤治療を回避したものの、やはり私が病人である事に変わりはなく、次のトラブルに見舞われます。真砂の死からようやく3週間に成ろうかという頃、私はわんわんを探して野山を彷徨っておりました。
結膜下出血という、眼のトラブルでした。自覚症状は特にありません。ふと鏡を見たら、自分の左眼が、昔の吸血鬼映画の吸血鬼の様に真っ赤に成っておりました。文字通り「血のような赤」です。もちろん、そんな事実はありませんが、プロボクサーに顔面を強く殴打されていたら、この様に成ったのではないかという、そんな「赤」です。いちおう、白目部分の出血でした。黒目部分まで赤いと、意味が変わります。やや腫れぼったくて乾いた感じがするのは、充血を伴うからでしょう。視力的に影響はなくて、視野欠損の様なものは生じてないようです。
私の場合、眼については敏感にならざるを得ない話がありまして、退院直後に一度、物の見え方が大きく変わっているのに気付いて(入院室の中では、普段と違う殺風景な同じ景色を見続けていたので、分からなかった)、週明けの皮膚科再診を前にして、退院後わずか数日であわてて眼科を受診した事があります。
理由は二つ、一つは私の飲んでいるステロイドには眼圧を亢進させるという副作用があり、網膜の変性や緑内障を発生させる危険があります(急いで薬の点眼を開始すれば、事無きを得る)。もう一つは、やはりステロイド関連になるのですが、ステロイドは糖尿病を悪化させる薬なのです。私の場合、「予備軍」とか「境界型」と言われる位置にあったはずの血糖値が、入院治療開始後に「糖尿病域」まで悪化してインスリンの補充や投薬を開始する事態に陥りました。糖尿病は、白内障を誘発してやはり眼圧に影響を与えてしまい、視力を障害する病気です。膠原病に於いて、ステロイドは服用を避ける事の出来ない薬ですが、他の問題を色々ともたらしてしまう「諸刃の剣」なのです。「やめたくてもやめられない」、とても嫌な薬です。私の眼の異常は、それほど危険なものではないらしいと、ネットで調べた程度でも分かるのですが、とにかく視覚的なインパクトが絶大で、「こうやって、いつの間にか見えない所から駄目になっていくものなのか…」、そんな事を考えたりしました。
━━━━━━減薬が進んだとはいえ、8か月間に渡ってトンデモナイ量を飲んでおりましたので。
いいえ、退院直後に眼科を受診した後も、眼の不調と違和感は継続しました。当時診察を受けて、そもそもの不調は通称「スマホアイ」と呼ばれるもので、入院中に他に娯楽がなく、それまで全く使用した事のなかったスマホの画面を見続けた事が原因で起きたピントフリーズ現象と老眼の進行であると説明を受けました。いちおう胸をなで下ろしたのですが、とにかく物が見え難いシチュエーションが多々あり、眼鏡のレンズを換えております。ところが、眼の異常は継続する事なく、いちおう回復傾向が現れ、しばらくして、そのレンズだと逆に見え難くなってしまい、3ヵ月かからないで再び眼鏡のレンズだけ作り直しをしておりました。結局のところ、体調次第らしいのですが、退院後の視力は不安定で、見え難くなる事がしばしばあり、気になる状況がズッと続いていたのです。それと分かるほど大いに狼狽え狼狽したという訳ではなかったのですが、やはり動揺はあったと思います。




