大緒を作る
鷹の繋留には、犬がそうである様に、首輪とリードに相当する道具を用意します。足革と大緒です。読んで字の如く、足革は足に装着する革ひもであり、その先に大緒と呼ばれる紐をさらに結わえて使います。洋の東西を問わず、鷹の飼育と使役にはこの様な道具が使われておりますが、和式洋式で詳細が異なります。余程のこだわりを持たないのであれば、今どきは洋風にアレンジされた和式っぽい鷹道具が使われております。大緒についてはその最たるもので、本当の大緒といったら式典用のすごい道具なので普段使いする様な物ではなく、「簡易式」とか「和洋折衷」と呼ばれている物が主に使われています。
この大緒ですが、大した金額の物ではない一方で、鷹によっては頻繁にパーツを破壊してしまいます。完全に食い千切られて鷹が居なくなってしまっていたとか隣に繋いである鷹に襲いかかって(相手も反撃するので)双方共倒れとか、そういう事は滅多にありませんが、放置しておけばもちろんそんな事態を招いてしまうので、頻繁に新しい物と交換するかパーツ部分を交換して修繕します。
ちょっとした手作業なのですが、以前は易々と行えていた行為が出来なく成った事を知ったのは退院後の事でした。
大緒は、先端にある小槌緒とヨリモドシ以下の紐部分に分けられます。これらの素材のパラコードは、そうしないと解れてしまうので、処理する際に切断した断端をライターで炙って丸くします。いちおう火力の一番あるタイプの使い捨てライターを使用するのですが、このタイプの着火には結構な握力が必要で、なんと右手で左手で、どちらの手を使っても火が付かないでスイッチがビクともしなく成っておりました。初めに左手で、次に右手で、ステロイドの減薬が進むにつれて再び出来る様に成っていくのですが、体調にムラがある様で、安定した能力とまでは行かずに、出来たり出来なかったりという事の繰り返しを頻繁に体験する様になります。
これよりはマシですが、「小槌緒を結ぶ」「紐とヨリモドシの接合部」には縫製を行います。軽く接着剤で固めるだけでも機能しない事はないのですが、いざとなると強度がまるで違うので、腐食等の影響を受けにくい、深海魚を釣るのに使うナイロン糸を使って、結び瘤を縫い合わせて、接着剤で固めるのです。「ただの重労働」と言えばそれまでですが、チカラが入りきらなくて綺麗に縫えない、とにかく疲れるから休み休みやるとか、自分の体の変化をこうして知る事になりました。用を果たすからいい様なものの、微妙に以前と同じ鷹道具が作れていない事が分かってしまいます。
正直なところ「出来るだけマシ」と言うしかない能力です。いいえ、大緒を架に結ぶ作業すら、入院前には出来なく成っていた事を考えたら、むしろ「よく回復した」と、ここは自画自賛するべき所なのでしょう。
鷹を再び得る事を決めた後、私はこういう事をコソコソとまた始めたのです。端的に言って、「昼間やる事がある」、それだけの話だったのかもしれません。しかし、私は生活に張りが戻りだしたのを感じる様に成りました。




