入院6
「命以外の全てを、支払いにまわして帰って来たんだ」と思ったよ、という話。
入院にかかるお金は、大きく医療費と入院費用(ベッド+食費)に分けられます。幸か不幸か、私の病気は指定難病だったので、医療費助成制度が利用出来たお陰で、医療費そのものについては非常に少額で済んでおります。しかし、入院費用については別で、こちらは結構な金額を支払って出てまいりました。理由として、当時入院室の空きがなくて個室に通されたというのが、入院費用が高額に成った理由です。いえ、昔ならば退院の日に親戚中から掻き集めてきた300万円くらいのお金を支払いにまわして退院し、その後で難病申請の書類を通してもらって命をかけてそのお金を回収する━━━━━━昔はそういう光景が当たり前だったそうですが、今は申請の仕方が違うので、かなり「なんとかなる」状況で推移させてくれます。どのみち、医療費が少額でも、3ヵ月も入院していたら、いよいよトンデモナイ額を支払って出て来たであろう事に変わりはありません。
いいえ、お金の話だけではなかったのです。実際には、「命を拾う代わりに全てを支払いにまわして帰って来た」かのような、様々な「代償」が存在しました。一番分かり易いのが、「健康な体」であり、「普通の生活」であり、最もダメージを感じたのが「動物たちとの暮らし」でした。
入院する前、1月の時点で、私の周りには鷹3羽以外にも、北海道犬の八兵衛、猫の弥七、オカメインコの手羽ちゃん、ウロコインコのパイくんが居ました。八兵衛については当時18歳の老犬だったのですが、私が身動き出来なくなった事が原因で発生したトラブルで、1月の末頃、おおよそで2週間ほど治療した後に安楽死しております。つまり、入院前の時点でもう犬は居なかったのです。弥七とインコ2羽については、追い返されてはしまいましたが、入院前提で近所の総合病院にかかった折に、知り合いたちに預かってもらい、結局その後に大学附属病院の方に入院し退院が決まる頃には、あらためて新しい飼い主たちの元に引き取られて行きました。弥七については八兵衛と同じ18歳、インコたちの飼育歴も6年に及んだ連中で、昨日今日に飼い始めた子は1頭1羽も居なかったのですが、退院の時点で、医者から動物との同居についてクギを刺されただけでなく(実は、特にインコはオウム病の関係から問題視される。投薬による調整は可能なのだが?)、それ以前に筋力低下によってケージの清掃が出来ないのが明らかで「もうどうしようもない」と、諦めるしかなかったのです。
入院前には既に、「動物病院が空になった日」を体験しておりましたので、今さらではあったのですが、その時はそれどころではなかったので、退院後にその寂寥感を骨身に染みて味わうことになりました。
3月2日、26日間の入院を経て、私は退院し、自分の足で歩いて鉄道を乗り継いで、自宅に帰ってまいりました。それでも希望はあったかな?




