入院3
「検査に殺される」と思ったくらいでしたからねえ…。
「自己免疫性疾患ならば免疫抑制剤」という治療薬の選択は、ある意味定番で鉄板ですが、皮膚筋炎における急性間質性肺炎は、治療に抵抗性であることが知られており、つまり、免疫抑制剤を大量に使用しても上手く反応が起きないことがあります。有り体に言ってしまえば、「必要な薬をジャンジャン使用しているのに反応が得られず、死亡してしまう患者が現れ易い」のです。後で聞かされ「あの人が?」となっただけなのですが、実は私と同じ日に同じく間質性肺炎で入院した患者の方がもう一人おりまして、何の事はない、幾つかの検査を受ける際にニアミスした方が居たのを覚えていただけの話だったのですが、薬石効無くして1週間ほどで亡くなっております。「入院する1週間ほど前は、ゴルフが出来ていたほど元気だった」と、どこかで聞いたような話を聞かされ、なるほど医師から「苦しくありませんか?」と頻繁に話しかけられ続けた訳だと納得してしまった次第です。
私の方の間質性肺炎は、入院当日の血ガスの数値もCT 像もてんで駄目だったのですが、同日より行われたステロイドパルス療法の1療日目から劇的な反応が得られまして、翌朝一番に行われた肺機能検査では、既に致命的な状況を離脱しておりました。こういう事はあっていいらしいのですが、かなり珍しい部類の患者の一人だった様です。
私は大学附属病院に26日間入院して、退院してまいりました。この入院期間はかなり短かった方で、3ヵ月くらい入院していてもおかしくない内容の病状だったそうです。ただし、「病気の治療として3ヵ月かかる」と言ってしまうと語弊がありまして、入院中に消化するべき検査の方が、予約の関係でそれくらい時間をかけないと全て終了する事が出来ない事が多いというのが実態だった様です。たまたま、異動の時季と重なり、検査の空きが重なり、事実上始めの10日間くらいの間に、1件を除いて大がかりな検査は全て終了してしまっていたからこそ、この程度の期間で出てくる事が出来たのだと理解しております。
具体的に何の検査だったのかと言えば、それは癌の検査です。皮膚筋炎は、同時に癌が見付かることの多い疾病で、胃がんの可能性や大腸癌、胆管癌といったものについて調べられ、実際の話、胸部縦隔内にMALTリンパ腫を疑う非活動性の悪性腫瘍が見付かっております。これをどうするべきかという話で、検査が増え入院期間が延びという事をしたのです。割とどうしようもない話で、免疫抑制剤を大量に使用し続けないと患者が呼吸が出来なく成って死んでしまうという条件下では、傷が治らなくなるなどの問題で手術のしようがなく、「経過観察」、つまり事実上放置するという方針が採られたのです━━━━━━正直なところ、場所が悪いし大きすぎるのです。私は獣医師ですが、「へたにいじらないでいた方が、見かけ上は元気でいられる期間が長いんじゃない?」と思ったほどです。「キャリアのため」などと言ったら失礼ですが、摘出してみたい腕自慢な先生は居ると思うけれど、私は付き合う気にはなれなかった。そんなシロモノが胸の中、心臓の真上にドンと居座っていたのです。大学附属病院ですから、「この物体に対する免疫反応が、免疫系の暴走を引き起こし、皮膚筋炎という異常を来したのではないかと考えられる」という仮説に基づいてアプローチを試みてみたいという考えが底辺にあるのは分かるけれど、色々難しい。私の意向としては、対症療法に徹して動ける間だけ動ける状態を維持してもらったら、自宅で果てようと、思ったのですが、それも色々難しかった。
さて、始めの10日ほどは、とにかく朝から晩まで毎日、受診も検査も多くて、入院室のベッドの上で休んでいる暇など無く、なんなら入院ベッドのテーブルの上には、検査の説明書や同意書が毎日ドンドン積まれていくといった塩梅で、仕事をしていない、動物の世話をしていない、鷹たちはどうなった(いちおう、ラインで報告してくれていたのだけれど、確認してる時間が無かった)━━━━━━気にするだけの余裕がありませんでした。周囲を見渡す余裕が出てきたのは、入院して二度目の日曜日を過ぎてからです。




