表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捜鷹記  作者: 檻の熊さん
10/38

入院前8

わんわんのこと。

 最後に、「わんわん」について、述べておかねばなりません。2004年生のイギリスブリードの雄のハリスホークです。今ではすっかり珍しくなった、初期の頃に見かけた大型のハリスホークたちの生き残りで、雄なのに体重が750~780gくらいあります。なぜか、こういった鳥たちを種親にして本邦で繁殖させても、その子孫は小さく成ってしまい、現在世間で見かける雄のハリスホークはもっと小さな鳥たちに成ってしまいました。なんなら、雄よりも大きいはずの雌で同じような体格の個体を見かける事があるほどです。年齢の事を鷹の世界では塒数(とやかず)と言いますが、当時20塒を数え、21シーズン猟期を体験させ、なおかつ全ての猟期で獲物を捕らえ続けていたという、ちょっと見ない経歴を持った鷹です。

 私が入院する前の猟期の稼ぎ頭は、実はこの鷹でした。なにしろ20年も一緒にやってきた鷹です、始めは北海道に居た頃から、そして愛知県に引っ越し、怪我もすれば病気も経験しましたが、全て克服し、飼い主の方こそ病に倒れてしまいましたが、なお矍鑠(かくしゃく)として、獲物を捕り続けました。真砂で鴨猟に成功した数日後、本当の最後の獲物を捕らせ、私が据え上げが出来なくなった事に気付き諦め、実猟を終えた。その最後の鷹が、わんわんでした。


 この鷹にまつわるエピソードはあまりにも多すぎてしまい、何から語れば良いのかまるで分からないのですが、皮膚筋炎にまつわるエピソードとしては興味深いものが一つあります。それは,獲物の解体にまつわるエピソードです。

 わんわんというのはコガモをよく捕る鷹で、他の鷹たちに比べてコガモの捕獲羽数が群を抜いております。20年間で500~1000羽くらいのコガモを捕っているはずですが、ちょっと数えた事がないのでその数は推定です。

 皮膚筋炎で入院する前、この鷹で実猟に出かけた日は帰ってからの作業が「楽だ」と感じる事がよくありました。何の事はない、捕った獲物がカラスだと、ハシブトガラスは頑丈すぎるし、ハシボソガラスでも地域によっては体格が大きく、かなりの強度があり、解体作業が辛く感じたのです。

 今振り返ってみれば、それは明らかな筋力低下の症状で、特に放血死(骨が硬い)とその後の羽毛をむしる作業が、どちらも握力が足りないか関節に痛みを感じてしまい(出来るだけロキソニンが効いている間にむしる様にしておりました)、次第に難しくなっておりました。

 ところが、わんわんで出かけた日の獲物は概ねコガモなので、羽毛がむしりやすく、放血死の際に調理用ハサミで頸部を切断するのですが、カラスやカルガモの時の様に、握力が足りなくて渾身の力を動員して「ぶった切る」必要がありませんでした。

 意外に思うかもしれませんが、ハシブトガラスくらいになると、体に付着している羽毛が丈夫で、1枚や2枚ならともかく全身をむしって解体してラップに包んで食餌にするための冷凍保存━━━━━━私は獲れた獲物をそうやって利用しておりました━━━━━━となりますと、ものすごい労働に成ります。都市部の、豊橋方面まで出かけるとそうでもなかったのですが、ハシブトガラスは田舎に寄るほど体格が大型化していくらしく、頑丈で、渥美半島の辺りだとハシブトガラスと大差無い「根性のある」獲物でした。そう、わんわんと出かけて帰って来た日だけ、奇妙なくらい「体が楽だった」、その辺りが真実にかかっていたのだと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ