幽霊番地 -消えた村の約束-
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あの日のことは、いまだに夢のようだ。 恋人の浮気を知ったのは、偶然だった。問い詰めたその夜、感情が暴発し、言葉が刃となり、そして——本当の刃が私の胸を貫いた。 気づけば、冷たい床に血の匂い。世界の音が遠のいていく。 最後に見たのは、泣きながら恋人の名を呼ぶ“彼女”の顔だった。
——そして、私は死んだ。
幽霊となった私は、気づけば生まれ故郷の山間の村にいた。 けれど、そこはもはや誰も住んでいない。 かつて温泉と古い街並みで賑わった観光地も、今では雑草に覆われ、朽ちた看板だけが風に鳴る。
「……寂しいな」
返事はない。けれど私は思った。 ——この村を、もう一度生かしたい。 たとえ自分が“幽霊”であっても。
その人に出会ったのは、村の旧郵便局の前だった。 「君……喋れるんだね」 そう言って笑った男——**悠真**は、私より五歳ほど年上の青年で、都会からやってきた写真家だった。 古い町並みを撮り歩くうちに、どうやら霊たちの気配を感じるようになったらしい。
「この村、まだ死んでないよ。きっと誰かが“ここにいた”って覚えてる限り。」
その言葉に、私は心を撃たれた。 彼と共に、幽霊の私ができる「村おこし」を始めた。 廃屋を“怪談スポット”として整備し、夜に灯りをともす。幽霊の声が響く「幽霊番地」としてSNSで話題になり、少しずつ人が戻ってきた。 ——幽霊が観光資源になるなんて、皮肉だけれど嬉しかった。
だが、村が再び賑わい始めた頃、悠真の体を病が蝕み始めた。 それでも彼はカメラを手放さなかった。 「……君と、この村を撮りたいんだ」 そう言って、最後に私を撮ってくれた。シャッターの音とともに、私は涙を流した——幽霊のはずなのに。
そして、冬。 悠真は静かに息を引き取った。
村の小高い丘に立ち、私は夜空を見上げた。 「ねえ、悠真……私、あなたに恋してた」 その言葉は風に溶け、光となって消えていった。
——それから、どれほどの時が流れただろう。
桜舞う春の日。都会の小さな喫茶店で、私はバイトをしていた。 名前は水瀬 茜。前世の記憶などないはずだった。 ある日カメラを持った青年が来店した。
「すみません、この席、いいですか?」 顔を上げた瞬間、心臓が跳ねた。 優しい笑顔。あの日と同じ瞳。
「俺、颯馬って言います。……変な話だけど、前にもどこかで会った気がして」
その瞬間、胸の奥が温かくなった。 涙があふれる理由も分からないまま、私は微笑んだ。
「うん……また会えたね。」
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