第2話 黒翼とともに歩き出す
夜空を飛び、村を救って――いや、壊したような気もするけど。
気づけば、朝日が昇っていた。
「……なんだこれ、夢じゃないんだよな」
森の出口で立ち止まり、空気を吸う。
湿った風、草の匂い、遠くの鐘の音。
異世界って、本当にあるんだな。
『驚くのはまだ早いぞ、我が器よ』
頭の奥で、あいつ――レガリスが笑う。
「お前、いちいち声が怖いんだよ」
『契約者に文句を言われる筋合いはないな』
返す言葉もない。
何より、この力が本物だって分かってきたところだから。
俺は道を歩き始めた。
少し進むと、小さな街が見えた。
石の壁、小さな屋根の家、そして市場らしき広場。
「……おお、ゲームみたい」
人の声がして、子どもたちが走り回っている。
旅ってこういうことか――と思うと、少しだけ胸が高鳴った。
でも、同時に気づく。
異世界の歩き方なんて、何一つ知らない。
「……とりあえず、誰かに話しかけてみるか」
勇気を振り絞って、広場にいた老人に声をかけた。
「すみません、この街の名前って……」
老人は俺を見るなり目を丸くした。
「おや、新顔じゃな。
ここは《ルーナ村》だよ。旅人か?」
「……まあ、そんな感じです」
旅人なら、細かいことは聞かれない。
そんな安堵が広がった。
「宿なら広場の先じゃ。
それと――背中の布、落ちとるぞ」
「え?」
慌てて背中を触る。
黒い翼が、うっすらと浮かびかけていた。
「……おい、レガリス。出てくんな」
『制御が甘いだけだ。我は常にお前の中にいる』
ぞっとするけど、どこか頼もしくもあった。
宿を取って、食堂でパンを齧りながら考える。
これからどうする? クエストの受け方も分からない。
「旅って……案外大変だな」
そう呟いたとき――
「ねえ。あなた、外から来たの?」
甘い声がした。
顔を上げると、銀髪の少女が立っていた。
赤い瞳、薄いマント、小さな杖。
「……あ、ああ」
彼女は俺をじっと見て、微笑んだ。
「なら、私と一緒に来ない?
あなた、ただ者じゃないでしょ」
その瞬間――レガリスの声がざわめいた。
『面白い奴が来たな。我が器よ……選べ』
旅の始まりって、こんなに慌ただしいものなのか。
だけど悪くない。
俺は少女の差し出す手を見て、答えた。
「……いいよ。案内してくれ」
こうして、異世界での“本当の旅”が始まる。




