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91話 はじまりの予兆

春の終わり、空気がふとざわめくような日々が続いていた。

“記憶の橋”の仲間たちは、それぞれの土地で、言葉にしがたい“異変”や神話的な夢に導かれ始めていた。


カナエ:月の光に導かれて


図書館の閉館後、カナエは窓辺に佇んでいた。

夜空に浮かぶ月が、いつもより大きく、青白く輝いている。


「最近、夜になると胸がざわつくの。まるで、何かが始まる前触れみたい……」


同僚の真由が不安げに言う。


「カナエさん、私も変な夢を見るの。水に浮かぶ島、空にかかる橋、見知らぬ神さまの声……」


カナエは静かに頷く。


「私も同じ夢を見たわ。天に浮かぶ橋に立つ二人の神さま。矛を海に差し入れて、島を生み出していく――」


真由が息を呑む。


「それって……“国生み”の神話じゃない?」


涼太:天地開闢の夢


大学の研究室で、涼太はノートに夢の断片を書き留めていた。


「天と地が混ざり合い、やがてパッカーンと開かれる。高天原に現れる三柱の神――天之御中主神、高御産巣日神、神産巣日神……」


後輩が興味深そうに覗き込む。


「先輩、最近“天地開闢”の話題がSNSで急に増えてますよ。『天と地が開かれる』とか、『葦の芽が伸びる』とか……」


涼太は苦笑する。


「偶然とは思えないよな。まるで、世界がもう一度はじまろうとしているみたいだ」


カオル:大地のうねり


畑で作業していたカオルは、地面の奥から響く微かな振動に気づいた。

土の中から、葦の芽が勢いよく伸びてくる。


「なんだ、この芽の勢い……。まるで、土地そのものが新しく生まれ変わろうとしているみたいだ」


隣で作業していた青年が言う。


「昨夜、夢で見たんだ。クラゲみたいにふわふわ浮かぶ大地と、そこに降り立つ二人の神さま……」


カオルは驚き、拳を握る。


「それ、俺も見た。神話の“国生み”の場面だ」


レナ:ネットを駆ける神話のさざ波


都市のシェアオフィスで、レナはSNSのトレンドを眺めていた。


「#天と地が開く」「#国生み」「#高天原の夢」


どこからともなく、神話のキーワードが拡散し始めている。


デザイナーがスマホを手に駆け寄る。


「レナさん、これ見て! 全国の人が“天地開闢”の夢を見たって投稿してる!」


レナは画面をスクロールしながら呟く。


「現実と夢が、ネットでつながっていく……。何かが始まろうとしてる」


サラ:神楽の夜の啓示


文化センターで、サラは地元の神楽団と夜遅くまで舞の稽古をしていた。


稽古の後、静かな舞台で一人座っていると、ふいに意識が遠のく。


(……天と地が溶け合い、やがて分かれていく。高天原に立つ三柱の神。天の浮橋に降り立つ男女の神……)


目覚めると、隣にいた団員が声をかける。


「サラさん、寝てたよ。夢でも見てた?」


サラは静かに頷く。


「ええ……とても古い、でも懐かしい夢。私たちの“はじまり”の物語」


仲間たちの共鳴


その夜、仲間たちはグループチャットで不思議な夢や異変を語り合った。


カナエ「みんな、最近変な夢を見ない? 天の橋、矛、島が生まれる……」


涼太「僕もだ。天地が開かれる夢。神々の声が聞こえる」


カオル「畑の葦が異常に伸びてる。土地が新しく生まれ変わろうとしてるみたいだ」


レナ「SNSで“天地開闢”がトレンド入りしてる。全国で同じ夢を見てる人がいるみたい」


サラ「私も神楽の稽古中に見た。天と地のはじまりの夢……」


悠馬が、静かにメッセージを送る。


「これは偶然じゃない。僕たち、何か大きな“はじまり”に呼ばれている気がする」


夢の中の神々


その夜、五人は同じ夢を見た。


――天と地がまだ混沌としている。

やがて天が高く開かれ、地が下に沈む。

高天原に三柱の神が現れ、静かに見守っている。

天の浮橋に立つ二人の神――イザナギとイザナミ。

矛を海に差し入れ、コーロコーロと音を立ててかき回す。

矛の先から滴り落ちる塩が、やがて島となる。

その島に降り立った二神は、天之御柱を巡り、互いを讃え合い、

そして多くの島々と神々を生み出していく――。


新たな旅の予兆


朝、目覚めた仲間たちは、胸の奥に確かな“予兆”を感じていた。


カナエ「私たち、神話の“はじまり”を追いかける旅に呼ばれているのかもしれない」


涼太「天地開闢、国生み……。僕たちの物語も、ここから新しく始まる」


カオル「土地も、人も、世界も――もう一度生まれ変わる時が来てる」


レナ「ネットも現実も、全部がつながって“はじまり”を告げてる」


サラ「私たちの“記憶の橋”が、今また新しい扉を開く……」


悠馬が、静かに宣言する。


「みんなで、“起源の彼方”へ旅立とう。神話のはじまりを、未来の物語につなげるために」


こうして、仲間たちはそれぞれの土地で“はじまりの予兆”を胸に、新たな冒険への第一歩を踏み出した。

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