86話 再会と共鳴
それぞれの新天地で、孤独と葛藤の中にあった“記憶の橋”の仲間たち。
しかし運命は、彼らを思いがけない形で再び引き寄せていく。
偶然か、あるいは必然か――
彼らは再会し、互いの成長と変化を認め合い、新たな絆を結び直していく。
冬の終わり、都心の大学で「地域文化と現代社会」をテーマにした公開シンポジウムが開催された。
全国各地から、伝統や神話、地域再生に携わる若者たちが集う。
その参加者リストの中に、“記憶の橋”の仲間たちの名前が並んでいた。
再会の瞬間
シンポジウム会場のロビー。
カナエは、受付で名札を受け取ると、ふと見覚えのある後ろ姿を見つけて駆け寄る。
「涼太……?」
涼太が振り返り、驚きと喜びの表情を浮かべる。
「カナエ! 本当に来てたんだ!」
二人は思わず抱き合い、再会の喜びを分かち合う。
そこへ、カオルが大きな声で駆け寄ってきた。
「おーい、二人とも! やっぱりここで会えると思ってた!」
カナエが笑顔で手を振る。
「カオル! 元気だった?」
カオルは拳を突き上げる。
「もちろん! 新しい農業の話、みんなに聞かせたいんだ」
レナがスマホを片手に現れる。
「みんな、SNSで実況するから、いい顔してね!」
サラも、和服姿で静かに近づいてきた。
「皆さん、お久しぶりです。こうしてまた会えるなんて……」
五人は自然に輪になり、互いの顔を見て微笑み合った。
成長と変化の語らい
シンポジウムの合間、控室で仲間たちは近況を語り合う。
カナエが、図書館での出来事を話す。
「“月の物語”を調べていたら、町の子どもたちが不思議な歌を歌い始めて……。最初は怖かったけど、今は物語の力を信じてる」
涼太が頷く。
「僕も、龍神伝説と開発の狭間で悩んだけど、神話の知恵が現実の課題を解く鍵になるって気づいた。伝承は未来を照らす道標なんだ」
カオルが拳を握る。
「俺は、科学と伝統のあいだで揺れたけど、どちらも大事にしたいって思った。村の人たちとも、やっと本音で語り合えるようになったよ」
レナがスマホを掲げて言う。
「私は、SNSで“デジタル幽霊”の謎を追いかけてる。怖いこともあったけど、真実を伝える勇気をみんなからもらった」
サラが、鏡の話を静かに語る。
「私も、封印された鏡の前で迷った。でも、祖母の言葉やみんなの励ましがあったから、扉を開く覚悟ができた」
カナエが、みんなの顔を見回して微笑む。
「みんな、それぞれの場所で本当に頑張ってるんだね。私……こうしてまた会えて、本当に嬉しい」
涼太が、真剣な眼差しで言う。
「僕たちの選択は、間違っていなかったと思う。迷っても、悩んでも、こうしてまたつながれたから」
カオルが、拳を突き上げて叫ぶ。
「これからも、みんなで“記憶の橋”を架け続けようぜ!」
レナが、スマホを掲げて笑う。
「全国の仲間にも、この再会の光を届けたい!」
サラが、静かに頷く。
「私たちの物語は、まだまだ続いていく。どんな困難も、みんなとなら乗り越えられる」
新たな連帯感
その夜、シンポジウムの懇親会で、仲間たちは他の参加者たちと語り合う。
カナエが、地方の図書館司書と意気投合する。
「あなたの町にも“月の物語”があるんですね。今度、物語の交流会をしましょう!」
涼太は、他大学の学生と神話ワークショップの企画を立ち上げる。
「伝承と現代社会の接点を探るイベント、ぜひ一緒にやりましょう」
カオルは、各地の若手農家と情報交換を始める。
「伝統農法と最新技術のコラボ、面白そうだな!」
レナは、SNSで全国の読者にライブ配信を始める。
「みんな、今日は“記憶の橋”の仲間と再会しました。どこにいても、私たちはつながっています!」
サラは、伝統芸能の若手と舞の合同公演を約束する。
「新しい土地でも、みんなと一緒に未来を作りたい」
懇親会の帰り道、五人は夜の公園で肩を並べて歩く。
カナエが、星空を見上げて呟く。
「私たちの選んだ道が、こうしてまた交わった。きっと、偶然じゃないよね」
涼太が頷く。
「神話の神々も、何度も離れては再び出会った。僕たちも、そうやって物語を紡いでいくんだ」
カオルが、拳を握って言う。
「どんなに遠く離れても、心はつながってる。これが“記憶の橋”だ!」
レナが、スマホを空にかざして笑う。
「この瞬間を、世界中に伝えたい!」
サラが、静かに微笑む。
「みんなと一緒なら、どんな未来も怖くない」
夜空には、冬の終わりを告げる新月が昇っていた。
それは、仲間たちの再会と共鳴が、新たな物語の始まりであることを、そっと告げているようだった。




