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85話 試練のとき

新天地の空気に慣れ始めた頃、それぞれの前に避けては通れない壁が立ちはだかった。

“記憶の橋”の仲間たちは、選択の重みと現実の厳しさに直面し、迷いと葛藤の中でもがいていた。

遠く離れた仲間の存在や、心の奥で響く神話の声が、彼らを支え、時に導いていく。


カナエ:語り部の孤独と「月の物語」の闇


カナエは、図書館の地下資料室で「月の物語」の謎を追っていた。

だが、町の人々は“触れてはいけない”と口を閉ざし、同僚の真由も距離を置き始める。


「カナエさん、あまり深入りしない方が……。最近、夜になると子どもたちが月に向かって歌うの。町がざわついてるわ」


カナエは不安を抱えながらも、真実を知りたい一心で資料を読み続ける。


(私は何のためにこの町に来たんだろう。物語を残すことが、誰かを傷つけてしまうのかもしれない……)


夜、図書館の窓に月が浮かぶ。

カナエは心の中で問いかける。


(イザナミよ、月読命よ――私は進むべきなの?)


その時、幼い頃に祖母から聞いた神話の声が蘇る。


「闇の中にこそ、光は生まれる。恐れるな、語り部よ」


涼太:伝承と現実のはざまで


涼太は、龍神伝説の祠を守ろうとする地元の老人と、開発を進めたい企業の板挟みになっていた。


「お前はよそ者だろう、余計なことはするな!」

老人の怒声に、涼太は言葉を失う。


大学の仲間からも、「現実を見ろよ。伝説なんて時代遅れだ」と冷ややかな視線を向けられる。


(僕は何を守りたい? 神話の真実か、現実の発展か……)


夜、ふとノートを開くと、かつて町で仲間たちと交わした言葉が目に飛び込む。


「物語は、未来を選ぶ力になる」


涼太は、心の奥でスサノオの声を聞く。


「恐れるな。真実を見極め、選び取れ」


カオル:科学と信仰のあいだで


カオルは、村の畑に眠る「豊穣神の呪い」の正体を突き止めようと、土壌検査や古い農具の調査に没頭していた。


しかし、村人たちは「若造が神様を冒涜している」と噂し始める。


「お前のせいで、今年も不作になるぞ!」


カオルは怒りと悔しさで拳を握る。


(俺は間違っているのか? 伝統も科学も、どちらも大事にしたいだけなのに)


夜、祖父の形見の指輪を握りしめる。


「スサノオは、恐れずにオロチに立ち向かった。俺も、逃げない」


レナ:デジタルの闇と向き合う


レナは、SNSに現れる「デジタル幽霊」の正体を追い続けていた。

しかし、投稿は増え続け、フォロワーからは「怖い」「やめてほしい」と不安の声が寄せられる。


「レナさん、もうこの話題はやめませんか? 町のイメージが悪くなります」


仲間だったデザイナーも距離を置き始めた。


(私の発信は、誰かを救っているの? それとも、ただ混乱を広げているだけ?)


夜、スマホの画面にふと現れるメッセージ。


「物語を消すな。真実を語れ」


レナは、アメノウズメの舞の記憶を思い出す。


「闇を照らすのは、真実の言葉。私は逃げない」


サラ:封印された鏡の誘惑


サラは、文化センターの倉庫で鏡の前に立ち尽くしていた。

館長やスタッフは「それ以上近づくな」と警告するが、鏡の中の女神の囁きが耳から離れない。


「選ばれし者よ、真実の扉を開け」


サラは迷う。


(私が扉を開いたら、町に災いが降りかかるかもしれない。でも、このまま何も知らずにいるのも怖い)


夜、祖母の声が心に響く。


「サラ、選ぶのはあなた自身。恐れず、心の声に従いなさい」


遠い励ましと、仲間の絆


その夜、仲間たちはグループチャットで励まし合う。


カナエ:「みんな、私は怖い。でも、物語を信じて進む」


涼太:「僕も迷ってる。でも、みんなの言葉が支えだ」


カオル:「どんなに孤独でも、俺たちはつながってる」


レナ:「真実を伝える勇気、みんなからもらってる」


サラ:「私も、扉を開く覚悟を決める」


悠馬が、静かにメッセージを送る。


「みんな、それぞれの場所で戦ってる。どんなに遠くても、僕たちは仲間だ。必ず乗り越えよう」


それぞれの心に、神話の声と仲間の励ましが灯る。

“記憶の橋”の仲間たちは、試練のときに立ち向かう覚悟を新たにした。

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